工業ガス大手英リンデ(ティッカーシンボル:LIN)、ドイツ化学大手BASF(BAS)、およびサウジアラビア基礎産業公社(SABIC)は9月1日、世界初となる電気加熱式蒸気分解炉の大規模実証プラントの建設を開始したと発表した(*1)。天然ガスに代わり再生可能エネルギー由来の電力を利用することにより、二酸化炭素(CO2)排出量を従来比90%削減できる見込みで、2023年の稼働を予定している。
同実証プラントは、ドイツ・ルートヴィッヒスハーフェンにあるBASFのフェアブント拠点に統合する。6メガワットの再生可能エネルギーを消費し、1時間あたり約4トンの炭化水素を成分分離する。
BASFとSABICがプラント建設にむけた資金を投じ、BASFが実証プラントを運営する。リンデは設計・調達・建設(EPC)パートナーとなり、将来的に実証した技術の商用化をはかる。
分解炉の高度化技術の開発をサポートすべく、ドイツ連邦経済・気候保護省の「産業の脱炭素化」資金援助プログラムを通じ、1,480万ユーロ(約21億円)の助成金が付与される。同プログラムは、ドイツのエネルギー集約型産業のカーボンニュートラル達成にむけた取り組みを支援する。
水蒸気分解炉は基礎化学品の製造において中心的な役割を果たしているが、一般的には化石燃料をもちいて850度で熱分解するため、多くのCO2を排出することになる。石油化学は鉄鋼やセメントなどと同様に、CO2の排出削減が困難な産業(hard-to-abate産業)とみられている。
そこで、実証プラントの熱源として再生可能エネルギー由来の電力を使用することで、継続的にオレフィンを製造できることをしめすとともに、CO2の排出削減を試みる。
鉄鋼分野では、スペインの電力大手イベルドローラ(IBE)が、スウェーデンの新興鉄鋼メーカーH2グリーンスチールと提携した(*2)。CO2排出量を95%削減した「グリーン鉄」の製造にむけ、年間200万トンの銑鉄を生産するために利用されるグリーン水素製造施設を建設する。
また、リンデは8月に、ドイツ・ブレーマーフェルデで世界初となる旅客列車向けの水素充填システムの稼働を開始したと発表した(*3)。
リンデが開発、所有、運営する水素充填システムにより、水素を燃料とする旅客列車14編成に水素を充填する。一度の充填で二酸化炭素(CO2)を排出せずに1,000km走行できる。1日あたりの水素供給能力は約1,600kg。同社にとって過去最大級の水素充填システムとなる。
将来的にオンサイト型のグリーン水素発電と統合できる設計にしたという。水素列車は仏エンジニアリング大手アルストム(ALO)製で、今後ディーゼル列車にとって代わるとみられている。
リンデ西ヨーロッパ地域プレジデントを務めるヴェルル・スレンダース氏は「当社は欧州の運輸部門の脱炭素化に大きく貢献することにコミットする。このプロジェクトをサポートするとともに、世界中でよりクリーンな公共交通システムを構築する青写真を描くうえで、わが社の革新的なテクノロジーが重要な役割をはたすことを誇らしく思う」と述べた(*3)。
アルストム・ドイツ・オーストリア・スイス地域プレジデントのムスルム・ヤキサン氏は「世界初の水素列車「コラディア・アイリント(Coradia iLint)」は、最新のテクノロジーを融合したグリーンモビリティの推進に強くコミットすることを示している」と言及した(*3)。
リンデは水素の製造、貯蔵、供給分野のグローバルリーダーだ。液化水素では世界最大級の生産能力と供給システムをもつほか、世界初となる高純度水素貯蔵施設を運営し、世界中で約1,000kmにおよぶ水素パイプラインを保有する。世界中で水素充填ステーションを200箇所超、水素電解装置を80台設置している。
6月には、ドイツの産業システム大手シーメンス(SIE)傘下のシーメンス・モビリティが、同国の首都圏鉄道ネットワーク向けに、水素列車「ミレオ・プラスH」を製造・納入すると発表した(*4)。
水素は使用時にCO2を発生させない「次世代エネルギー」として、さまざまな産業での活用が期待されている。欧州では「EU水素戦略」を策定し、脱炭素化にむけて水素の製造および市場拡大を図っている状況だ。鉄道や路線バス、船舶などの電動化が難しいとされるケースでの活用が見込まれている。
【参照記事】*1 リンデ「BASF, SABIC and Linde start construction of the world’s first demonstration plant for large-scale electrically heated steam cracker furnaces」
【関連記事】*2 「【欧州株情報】スペインの電力大手イベルドローラ 約2,950億円規模のグリーン水素プロジェクトを計画
【参照記事】*3 リンデ「Linde Inaugurates World’s First Hydrogen Refueling System for Passenger Trains」
【参照記事】*4 シーメンス「First hydrogen-powered trains for the Berlin-Brandenburg metropolitan region」
フォルトゥナ
【業務窓口】
fortuna.rep2@gmail.com
最新記事 by フォルトゥナ (全て見る)
- ネイチャーファイナンス、金融機関向けネイチャーポジティブ投資支援ツール「NatureAlign」を発表 - 2024年11月19日
- 2050年ネットゼロ達成見込みはG2000企業の16%、脱炭素化にAI活用中の企業もわずか14%。アクセンチュア最新調査 - 2024年11月19日
- ゼネラル・ギャラクティック、シード期に12億円調達。CO2利用した化石燃料フリー天然ガス生成技術を開発へ - 2024年11月19日
- 環境NGOのCDPと欧州財務報告資本グループ(EFRAG)が高い相互運用性を確保。環境データエコシステムの効率性向上へ - 2024年11月19日
- カナダ、石油・ガス業界向けのGHG排出の上限設定。19年比35%減。26年分から排出量の報告義務 - 2024年11月19日