米製薬大手イーライ・リリー(LLY)は5月9日、社会インパクト分野のベンチャーキャピタルに投資する「ソーシャルインパクト・ベンチャーキャピタル・ポートフォリオ」に5,000万ドル(約69億円)を追加出資すると発表した(*1)。同取り組みを通じて、人種間の不平等や医療アクセスの向上を目指す。
同ポートフォリオは、人種間の不平等、アフリカ系米国人、歴史的に過小評価されてきたコミュニティ向けに加え、2030年までに限りある資源の中で暮らす3,000万人の人々に質の高いヘルスケアへのアクセス改善を図る「Lilly 30×30」イニシアティブに沿った取り組みを行うベンチャーキャピタルに出資する。
追加出資する5,000万ドルは、病院、薬局、医療機器、デジタルヘルス、診断薬、治療薬など、低中所得国の患者の短期・長期ヘルスケアソリューションに特化したベンチャーキャピタルに投じる方針だ。これには、「リープフロッグ・エマージング・コンシューマー・ファンドIV」へのコミットメントが含まれている。同ファンドは、南・東南アジアおよびアフリカの企業に投資するインパクト・グロース・エクイティ・ファンドだ。特に、ウェルネス(よりよく生きようとする生活態度)を促進し、慢性疾患の予防・管理に適切且つ手頃な価格の製品を提供することにより、低所得の消費者に革新的なヘルスケアソリューションの提供を目指す。
リリーは20年、ソーシャルインパクト・ベンチャーキャピタル・ポートフォリオを立ち上げ、30年までに2~4種類の新たな抗生物質の提供を目指すAMR アクションファンドに1億ドルを拠出した。AMR アクションファンドは23年4月、さまざまな感染症を対象とするバイオテクノロジー企業への投資を発表している。また、リリーは20年以降、人種的正義へのコミットメントの一環として1億5,000万ドルを投じ、その内1億1,000万ドルが米国を拠点に新たに設立された黒人およびマイノリティ主導のベンチャーキャピタル8社に割り当てられた。
これらの投資を通じて、リリーは米国を拠点とする50社超のスタートアップ企業に間接的に資金を提供している。投資先企業の多くは、臨床試験の多様性の向上、女性のヘルスケア体制強化、文化的に適切なケアの促進、過小評価されてきたコミュニティ向け医療アクセスシビリティ(利用しやすさ)とアフォーダビリティ(購入しやすさ)の向上など、ヘルスケアソリューションの構築に焦点を当てている。
リリーは約150年の歴史を誇り、22年の売上高ベースで世界12位の製薬会社だ。同社は研究開発型の製薬企業として世界トップクラスの研究開発費を投じ、世界で初めてインスリン製剤の大量生産に成功した企業としても知られている。5年平均の粗利益率は約76%、株主資本利益率(ROE)は約92%、投下資本利益率(ROIC)は約26%と、収益性が高いことも特色として挙げられる。ソーシャルインパクト・ベンチャーキャピタル・ポートフォリオなどを通じた社会インパクト分野の取り組みを強化する中、野村アセットマネジメントの「野村ACI先進医療インパクト投資Bコース 為替ヘッジなし 資産成長型」など複数のファンドに組み入れられている。
【参照記事】*1 イーライ・リリー「Lilly’s Social Impact Venture Capital Portfolio Poised to Grow to $300 Million with New $50 Million Allocation」
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