オーステッド、CCSプロジェクト受注。マイクロソフトと史上最大級のオフテイク契約締結 JPモルガンや3Mも炭素除去推進

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デンマークのエネルギー大手オーステッド(ティッカーシンボル:ORSTED)は5月15日、デンマークエネルギー庁(DEA)より20年間にわたる炭素回収・貯蔵(CCS)プロジェクトを受注したと発表した(*1)。同プロジェクトでは、米マイクロソフト(MSFT)と史上最大級の炭素除去クレジット購入契約を締結した。ネットゼロを達成する上で革新的な炭素除去(CDR)技術が求められる中、米国ではJPモルガンチェース(JPM)やスリーエム(MMM)もCDR推進に向けた取り組みを加速させる。

オーステッドは同CCSプロジェクトを通じ、シェラン西部のカランボー市にある木質チップ焚きのアスネス発電所と、グレーター・コペンハーゲン(デンマーク東部とスウェーデン南部)に位置するアヴェデーレ発電所のわら焚きボイラーで炭素回収プロセスの確立を目指す。2025年には、アスネス・アヴェデーレの熱電併給発電所(CHP)で生物起源炭素の回収・貯蔵を開始し、26年には2基で年間約43万トンの炭素を回収・貯留する計画だ。バイオマス焚きCHPから発生する生物起源炭素を回収し、地下に貯留することは、大気中の二酸化炭素(CO2)の排出を減少させるだけでなく、CO2を除去することにもなるため、この取り組みは「ネガティブエミッション」を生み出すことに繋がる。

プロジェクトを遂行するに際し、オーステッドはノルウェーの炭素回収分野のリーディングカンパニーであるAker Carbon Captureと提携した。Aker Carbon CaptureはCHPプラントに炭素回収装置「Just Catch」を5基納入する予定である。Just Catchは、モジュール式、製造後に構成が可能(コンフィギュアラブル)であるため、効率的に製造と設置を行えるという特徴を持つ。両CHPプラントで回収された炭素は、北海のノルウェー地域にあるノーザンライツ貯留施設に輸送される。オーステッドは、欧州最大級のCCSプロジェクト「ノーザンライツ」に参画している。

米マイクロソフトは、オーステッドのCCSプロジェクトを支援すべく、11年間にわたり276万トンの炭素除去クレジットを購入する。これは、今日までで史上最大級の炭素除去のオフテイク契約になる。

ネットゼロを目指す上でネガティブエミッション技術の導入が求められる中、足元では米国企業の取り組みが活発化している状況だ。JPモルガンチェースは5月23日、CDR技術に2億ドル超を投じると発表した(*2)。この投資を通じて、大気中から80万トンの炭素を除去、貯留する計画だ。同日には、スイスのスタートアップ企業クライムワークスと、9年間にわたる2,000万ドル規模のダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)によるCDRクレジットの購入契約を、米スタートアップ企業チャーム・インダストリアルとは5年間にわたるオフテイク契約を締結したことも明らかにされた。

2億ドルのコミットメント額のうち7,500万ドルは、メタ(META)やアルファベット(GOOGL)などが共同で立ち上げたCDR技術の開発を加速させるための新会社「フロンティア(Frontier)」に拠出する。さらに、工業製品・事務用品のスリーエムは5月16日、カナダのスヴァンテ・テクノロジーズと、CDR業界向けにDAC製品の共同開発を目指すと発表した(*3)。3Mのコーポレート・ベンチャーキャピタルである3Mベンチャーズは、スヴァンテのEラウンドの資金調達に参加しており、スヴァンテの炭素回収・除去技術の開発加速を後押しする。

オーステッドが推進するCCSは「脱炭素化の切り札」と目されており、世界各国で官民一体となったプロジェクトが推進されている。中でも米国は、エネルギー省(DOE)が23年2月、CCS技術の実証プログラムに最大25億2,000万ドルを拠出すると発表した(*4)。米国は枯渇油ガス田などのCCSの適地が多いことで知られる。

米国がCCS分野で大きな潜在可能性を秘める中、石油メジャーの一角、米エクソンモービル(XOM)は23年4月、CCS、水素、バイオ燃料といった低炭素ソリューション事業が、早ければ10年後に数千億ドル規模の売上高に拡大し、収益基盤となるベース事業(石油・ガス)を上回る可能性がかなり高いと明らかにした。同社は炭素回収で世界首位(キャパシティベース)だ。エクソンモービルのように、CCSを始めとする低炭素事業の業績面に与えるインパクトが大きくなりつつある企業が出てきており、今後も各社のネガティブエミッションへの取り組みに注目する必要がありそうだ。

【参照記事】*1 オーステッド「Ørsted awarded contract – will capture and store 430,000 tonnes of biogenic CO2
【参照記事】*2 JPモルガンチェース「https://www.jpmorganchase.com/news-stories/jpmorgan-chase-seeks-to-scale-investment-in-emerging-carbon-removal-technologies
【参照記事】*3 3M「https://news.3m.com/2023-05-16-3M-and-Svante-announce-joint-development-agreement-to-develop-and-produce-carbon-dioxide-removal-products
【参照記事】*4 米エネルギー省「https://www.energy.gov/articles/biden-harris-administration-announces-25-billion-cut-pollution-and-deliver-economic

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フォルトゥナ

日系・外資系証券会社に15年ほど勤務。リサーチ部門で国内外の投資家様向けに株式レポートを執筆。株式の専門家としてテレビ出演歴あり。現在はフリーランスとして独立し、金融経済やESG・サステナビリティ分野などの記事執筆、翻訳、および資産運用コンサルに従事。企業型DC導入およびiDeco加入者向けプレゼンテーション経験もあり。
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