米石油大手のエクソンモービル(ティッカーシンボル:XOM)が2021年2月に設立した低炭素ソリューション事業が拡大している。同社は2023年4月4日に実施した投資家向け説明会で、同事業が早ければ10年後に数千億ドル(数十兆円)規模の売上高を計上し、収益基盤となるベース事業(石油・ガス事業)を上回る可能性がかなり高いと明らかにした(*1)。
炭素回収・貯留(CCS)、水素、バイオ燃料分野の製品・サービス需要が拡大する中、エクソンは向こう数年で低炭素ソリューション事業を急成長させる目標を掲げる。同社が最初に注力するこれらの分野の2050年の潜在市場規模は6兆ドルになると推計されており、各産業のプレーヤーにとって大きなビジネス機会をもたらすと見られている。
中でも、CCSの潜在市場規模は4兆ドルと試算されており、エクソンは炭素回収で世界首位、CO2のパイプライン輸送と地層貯留については世界第2位となる(*2)。CCSの分野では、日本を含む世界の各産業プレーヤーとの協業も進めている。日本企業との提携としては、22年に三菱重工エンジニアリングと協業し、次世代CO2回収技術の開発を目指す。23年には三菱商事、日本製鉄と提携し、CCSプロジェクトの実現を図る。
水素の分野では、テキサス州ベイタウンでの世界最大級の低炭素水素製造施設が27~28年に稼働する見通しである。同施設では、低炭素な水素・アンモニアを製造すると共に、施設で発生するCO2の98%以上を回収して永久貯留する計画だ。
重工業、商用輸送、発電という最も脱炭素化が困難な産業向けの取り組みを強化する。これら産業は、エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)排出量の約80%を占める。同社は現行計画されているプロジェクトの下で、CO2を年間約2,000万トン削減できると見込む。これは、700万台のガソリン車を電気自動車(EV)に切り替えるのと同等のCO2削減をもたらすものである。
エクソンは22年、より積極的な対策を求める市場の圧力が高まる中、石油・天然ガス事業から排出される温暖化ガス(GHG)を2050年までにネットゼロにすると発表した。CCSの分野では既に世界第一位のポジションである。水素とバイオ燃料を含む低炭素ソリューション事業でもスケールメリットを生かし、脱炭素化に資する事業構造へと大きく変貌を遂げるか注目したい。
気候変動対策は欧州の石油メジャーが先行する。しかしながら、エクソンは株主還元に積極的なこともあり、株式市場での評価において他社をリードする。2022年の株主総利回り(TSR、#1)は87%と、競合他社(BP、シェブロン、シェル、トタルエナジーズ)を上回った(*3)。
(#1)株主総利回り…投資家に対する総合的なリターン(値上がり益+配当金)を示す指標。
【参照記事】*1 エクソンモービル「Low Carbon Solutions」
【参照記事】*2 環境省「Low carbon solutions」
【参照記事】*3 エクソンモービル「ExxonMobil announces full-year 2022 results」
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