欧州委員会は5月5日、再生可能エネルギーを活用した水素を生産する電解槽の製造能力を2025年までに10倍に引き上げる方針を打ち出した(*1)。持続可能なエネルギーの安定供給を確保するとともに、ロシアのガスへの依存低下を図る。
ティエリー・ブルトン委員(域内市場担当)が電解槽の製造業者など20社の最高経営責任者(CEO)とともに、電解槽の製造能力の拡大に向けた共同宣言に署名した。同宣言において、同能力を現在の10倍となる年間17.5ギガワット(GW)に引き上げる目標を打ちだした。これにより、22年3月に発表したロシアの化石燃料への依存を解消するための計画「リパワーEU(REPowerEU)」のなかで、30年までに欧州で再生可能な水素の生産量を年間1,000万トンに拡大する目標を達成することができる見通しだ。
また、欧州委は再生可能な水素の大規模展開をサポートする規制枠組みの整備にくわえ、欧州投資銀行(EIB)と協働して電解槽の製造業者および水素開発プロジェクト向け融資を促進する。再生可能な水素事業の認可を迅速化する法案や勧告の発表や、加盟国から水素事業に関する国家補助の申請があった場合の優先的な審査も行う。電解槽の製造業者は気候変動目標やリパワーEUの計画に完全に沿った事業計画のみを進める。
欧州委と電解槽の製造業者それぞれがクリーン水素の大規模展開に向けた取り組みを推進することで、「フィット・フォー・55(Fit for 55、#1)」の目標に沿って、CO2の排出削減が困難な産業(hard-to-abate産業)や自動車産業の脱炭素にくわえ、ロシア産のガスからの代替を進めることができるという。
ブルトン委員は、「(燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない)クリーン水素は産業界が炭素排出量を削減するうえで必要不可欠であるとともに、ロシアからエネルギー面の独立性を確保することにつながる」と述べた(*1)。
「次世代のエネルギー」とされる水素の活用を巡っては、産業界も取り組みを積極化している。たとえば、英石油大手のシェル(ティッカーシンボル:SHEL)が中国で世界最大級の水素電解槽を活用したグリーン水素の製造を開始した(*2)。スペイン電力大手のイベルドローラ(IBE)はバルセロナで公共交通機関向けにグリーン水素の供給を開始すると発表した(*3)。
欧州を皮切りに、世界各国で持続可能な水素の製造が拡大し、サステナブルな社会が形成されることに期待したい。
(#1)フィット・フォー・55…30年までに温室効果ガス(GHG)を1990年比で少なくとも55%削減を達成すための政策パッケージ。
【参照記事】*1 欧州委員会「Electrolyser manufacturing capacities in the EU」
【参照記事】*2 英石油大手シェル 中国で世界最大級の水素電解槽を活用したグリーン水素製造を開始
【参照記事】*3 スペイン電力大手イベルドローラ、バルセロナで公共交通機関向けグリーン水素供給開始へ
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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