カナダの地熱開発技術企業エバー・テクノロジーズは10月25日、1億8,200万ドル(約270億円)を調達したと発表した(*1)。調達した資金を元手に、同社の特許取得済み地熱発電技術の普及を加速させる方針だ。
今回の投資ラウンドはオーストリアのエネルギー企業OMVが主導した。海外特化型の脱炭素エネルギーファンドを運営するジャパンエナジーファンド、マイクロソフトの気候イノベーションファンド、英石油大手BPのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるbpベンチャーズなども参画している。
エバーの特許技術であるEavor-Loop™は、地下に掘削した水の通り道となるループ(通路)を通じ、地上から水を注入して循環させ、地熱で温めて蒸気や熱水にしたうえで地上に引き上げるクローズドループシステムとなる。
地熱エネルギーは、地熱、地下貯留層、熱を地上に引き上げるための水または蒸気が必要とする。同技術は地上から水を注するため、地下の熱水や蒸気が十分に得られない地域でも効率的に熱を取り出すことができる。これにより、幅広いエリアでの開発が可能で、地熱エネルギーを利用できる地理的範囲が大幅に拡大する。
これまでの地熱発電は、地熱貯留層の位置を正確に把握することが課題であり、井戸を掘削して見つけるのにコストもかかっていた。Eavor-Loop™では地下に張り巡らせたループを通じて地上から水を循環させるため、地下の状況が事前に分からなくても安定的に発電することが可能だ。
また、従来の地熱発電に比べ、環境フットプリント(#1)を大幅に削減するだけでなく、継続的に安定したクリーンエネルギー源を提供する可能性を秘めている。この画期的な技術は、地球上のあらゆる場所で地熱エネルギーへのアクセス、規模拡大、コスト削減を期待でき、地熱発電分野のゲームチェンジャーになり得る。
地熱発電は、二酸化炭素(CO2)をほぼ排出しない再生可能エネルギーであり、天候などの自然条件に左右されず安定的に発電できるベースロード電源だ。日本は米国、インドネシアに次ぐ世界第3位の豊富な地熱資源量を持つ一方、発電設備容量は世界第10位と、その高いポテンシャルを活かしきれていないのが現状である(*2)。
地熱発電が温泉地にある場合、湯量の減少や泉質・温度変化に加え、環境・生態系への影響を懸念する温泉事業者、地元住民の反発が根強い。そのような中、エバーの技術は熱水を汲み上げないので環境負荷を低減させられる。
2022年10月には、中部電力がエバーに出資し、国内外で地熱発電事業の拡大を図る。地熱発電時に汲み上げた熱水を温泉事業者に無償で供給することで、発電事業者と温泉地の共存共栄に向けた取り組みも実践している。
エバーはドイツ・バイエルン州でEavor-Loop™を用いる世界初の地熱発電プラントの建設を開始した(*3)。24年10月に運転を始め、26年8月までに全面稼働する見通しだ。地熱発電分野のゲームチェンジャーになり得る技術を有するエバーの動向に今後も注目したい。
(#1)環境フットプリント…原材料の調達から廃棄、再利用まで、製品や企業活動が環境にどれだけの負荷を与えているかを定量的に示すもの。
【参照記事】*1 エバー・テクノロジーズ「Capital Raise of $182 Million Confirms Eavor as the Leader in Scalable Geothermal」
【参照記事】*2 エネルギー・金属鉱物資源気候(JOGMEC)「世界の地熱発電」
【参照記事】*3 エバー・テクノロジーズ「Chubu Electric Power Co. Inc. Participating in World’s First Commercial Eavor-Loop™」
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