米バイデン政権は5月28日、ボランタリーカーボン市場(VCM)の信頼性向上に向けて、新たな原則や施策を発表した(*1)。質の高い炭素クレジット市場を形成することで、炭素排出の削減に資するプロジェクトへ確実に資金を提供する。国内外で気候変動における米国のリーダーシップを回復するという大統領のコミットメントをさらに強化する。
バイデン政権は、2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を半減し、50年までにネットゼロを実現するという気候変動目標を達成するために必要な投資を推進するため、野心的な行動をとることを約束する。
このコミットメントの一環として、バイデン政権はVCMへの責任ある参加のための新原則などを発表した。
VCMは、企業などが再生可能エネルギーの導入などをおこなうことで削減したGHGの量に応じて炭素クレジットを発行し、それを自主的に取引する民間主導の炭素市場のことを指す。
VCMは、自然ベースのソリューションや炭素除去の規模を拡大する革新的な気候変動技術など、さまざまな脱炭素化プロジェクトに安定的で信頼できる収益源を提供することができる。地域コミュニティの生活維持、土地や水資源、生物多様性の保全など、国内外で重要なコベネフィット(#1)ももたらし得る。
信頼性の高いVCMは、民間資本をさらに呼び込み、気候変動テクノロジー企業や農家など、炭素排出を削減し大気から炭素を除去するプロジェクトを展開する組織に確実に資金を提供する力を持つ、と同政権は見ている。
しかし、多くの場合、炭素クレジットは市場参加者が透明性を確保し、クレジットの購入が検証可能な脱炭素化をもたらすという確信を持って取引するために必要な高い基準を満たしていない。
顕在化した課題を是正し、市場の信頼を回復し、VCMが潜在能力を発揮して脱炭素化の約束を果たすようにするためには、さらなる行動が必要である。これには、炭素クレジットの需給に関する確固たる基準の確立、市場機能の改善、すべての参加者に対する公正な対応、公正な収益分配を含む環境正義の推進、市場の信頼感の醸成などが含まれる。
新原則の下では、炭素クレジットとそれを生み出す活動は信頼できる環境保全基準を満たさなければならない。クレジットを創出する活動は、環境的・社会的な悪影響を回避し、該当する場合には、コベネフィットと透明で包括的な利益共有を支援する必要がある。
クレジットを利用するバイヤー企業は、自らのバリューチェーンにおける測定可能な排出削減を優先し、購入・償却したクレジットの内容を公開しなければならない。環境主張(#2)は、償却されたクレジットの気候への影響を正確に反映すべきであり、高い完全性基準を満たすクレジットにのみ依拠する必要がある。
市場参加者は市場の完全性を向上させる取り組みに貢献しなければならない。政策立案者と市場参加者は、効率的な市場参加を促進し、取引コストの低減を図る必要がある。
今回の発表には、新原則の公表のほか、政府全体での測定・モニタリング・報告・検証(MMRV)の強化、タスクフォースの立ち上げ、米農務省(USDA)や米エネルギー省(DOE)による支援策なども盛り込まれた。
(#1)コベネフィット…相乗便益を表し、GHG排出量の削減など温暖化対策と同時に得られる、エネルギー効率の改善や大気汚染の改善など、異なる分野での好ましい効果。
(#2)環境主張…製品やサービスに対し環境保全策を講じていることを説明文、シンボル及び図表を通じて自己宣言すること。
【参照記事】*1 ホワイトハウス「FACT SHEET: Biden-Harris Administration Announces New Principles for High-Integrity Voluntary Carbon Markets」
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