今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の赤澤直樹 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
NFTブームが進むにつれて、多くのアート作品などがNFTとして発行されています。ところで、このアート作品はそもそもどこに保管されているのでしょうか?今回は、NFTにおけるコンテンツデータの「置き場所」について解説していきます。
1. NFTアートにおけるコンテンツ
多くのNFTではアート作品そのものの画像や映像などのデータはメタデータと呼ばれる形で管理されています。OpenSeaやRaribleなどのプラットフォームでよく見かけるERC721やERC1155といった共通規格ではメタデータの取り扱いが定義されているため、同じ規格に準じて発行されていれば同じような取り回しができるようになっています。
プラットフォームでNFTの一覧が表示されたりしますが、この際の画像やタイトルなどコンテンツのデータはメタデータから取得しています。メタデータを取得するとNFTに関する一連の情報が取得できるので、プラットフォーム側はそれらを整理・構造化してユーザー画面に表示しているのです。
2.NFTアートのデータの置き場所
では、メタデータから取得できるコンテンツなどのデータはどこに保存されているのでしょうか?
実は、このようなデータ自体はブロックチェーン自体に保存されていることは稀で、多くの場合ブロックチェーンの外側に保存されています。なお、ブロックチェーンの外側はオフチェーンと呼ばれることがあります。プラットフォームやプロジェクトの説明をみた時にオフチェーンと書いてあれば、ブロックチェーンの外側という解釈をすれば概ね問題ありません。
オフチェーンに保存されているのであれば、具体的にどこにあるのでしょうか?これに関してはNFTの開発者/発行者に委ねられているため自由度が高いポイントではありますが、よく利用されている置き場所としてはIPFSと自前のサーバーが挙げられます。
IPFSとは
IPFS(InterPlanetary File System)は、「Protocol Labsにより開発が進めれられているP2Pネットワーク上で動作するハイパーメディアプロトコルとその実装」のことです。IPFSは通常のサーバーと同じ感覚でコンテンツをアップロードすることができますが、コンテンツの扱い方が異なります。
我々がWebサービスを使う際、ブラウザの上の部分にURLが表示されます。通常、このURLはコンテンツがどれほど変わろうとも、URL自体は変化しません。例えば、YouTubeだと日々大量のアップロードがされ、多くのコメントがつきますがURLは変化しないはずです。これは、サービスを提供している事業者がそのURLと紐づいているサーバーにおけるデータを管理しているからです。
しかし、IPFSは発想が逆で、コンテンツごとにIDが割り当てられるような仕組みになっています。仮に少しでもデータが変更されるとURLに当たるIDが変動します。つまり変更前と後のデータは全く別物としてインターネット上に残ります。
NFTを発行する現場ではIPFSのこの性質を利用して、NFTと紐づけたいコンテンツのデータをIPFSにアップロードし、割り当てられたIDをトークンのメタデータの保存先として指定してブロックチェーンに保存します。こうすることで、コンテンツのデータが改ざんされることを防ぐことができるのです。
自前のサーバー
IPFSのようなパブリックな場所でなくとも、プライベートな自前のサーバーにアップロードすることも可能です。実際、多くのマーケットプレイスでは、プラットフォーム内でNFTが発行された場合、プラットフォームが所有しているプライベートなサーバー上に画像やタイトルなどといったメタデータが保存されます。
プライベートな自前のサーバーを利用しているため、事業者がメンテナンスや活用がしやすくなるメリットがある一方で、データの生殺与奪がサーバーの所有者に委ねられているというデメリットがあります。例えば、プラットフォームを提供している事業者が倒産した場合に、サーバー内にあるデータが全て使えなくなる可能性すらあります。
3. NFTにしたアートはコピーできない?
よくブロックチェーンの特徴として耐改ざん性という言葉を耳にします。ブロックチェーンを使えばデータが改ざんされないため、分散型の通貨システムとしても利用できるというものです。ブロックチェーンの原型を提案したsatoshi nakamotoのホワイトペーパー「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」でも、データを複製・改ざんできないようにすることで、サードパーティを信用しなくても利用できる通貨システムとしてのビットコインを提案しています。
このような背景があるため、NFTは改ざんや複製がされないアート作品だというような論調をよく耳にします。しかし、これは半分正解で半分間違いです。
確かに、IPFSを利用すればコンテンツ毎に一意のIDが与えられそれをブロックチェーンに取り込む形になるため、NFTのオーナー以外の人によってコンテンツ自体が入れ替えられないようにすることは可能です。
しかし、多くのNFTのアート作品としての画像や動画などはダウンロードしたりコピーしたりすることは可能です。時価で75億円で落札されたBeepleの「Everydays – The First 5000 Days」という作品もダウンロードしたり、コピーしたりすることは可能です。その他多くのアート作品も何億という価格がついているとしても同じくダウンロードできてしまいます。当然、プライベートな自前のサーバーに保存されている場合は、データを入れ替えられたり削除されたりするリスクが同様につきまといます。
このことは、前半部分で紹介したデータの置き場所について理解していればある程度予想がつくでしょう。一言で言うならば、ブロックチェーンは基本的に「データとその所有者の紐づけ」を改ざんできなくさせている技術であるため、多くのNFTで採用されているようなオフチェーンにあるメタデータは基本的に範疇外なのです。
つまり、NFTはコンテンツの複製防止の技術ではなく、データと持ち主を紐づけている「証明書」をブロックチェーンに記録しているイメージなのです。そのため、NFTで発行することでコンテンツが保護されるのではなく、そのコンテンツが確かにその人によって所有されているということを検証できることがNFTを発行する意義の一つなのです。
4. NFTが切り拓いた世界とは?
NFTによってデジタルな作品を簡単にインターネット上で売買できるようになりました。しかし、これはデジタル作品を改ざん複製できなくすることではありません。NFTの革新性は、売買する時や譲渡する時、その瞬間にデータと持ち主を第三者に頼らずに検証できるようになったことにあるのです。そしてこの検証を可能にした技術、それがブロックチェーンなのです。
この観点でみると、今後はコンテンツ自体の複製をできなくするための方法や著作権をどう扱うのかといった点が、NFTを扱うプレイヤーの次の大きな課題と言えるでしょう。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
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