今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の中村翔太 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
- ERC721の派生規格の種類と特徴
1-1. ERC721A
1-2. ERC721K
1-3. ERC721R / ERC20R
1-4. ERC721M - 最後に
ERC721は、Non-Fungible Token(NFT)を発行するためのイーサリアム標準規格であり、日本語では「非代替性トークン」と呼ばれます。大きな特徴として「デジタルデータベースの唯一性」が挙げられ、NFT自体のコントラクトアドレスやトークンidの複製や偽造が不可能となっています。それにより、自分のウォレットアドレスと紐づけることにより「デジタルデータの所有権」のようなものを得ることが可能になりました。
最近は、ERC721の独自規格としてさまざまなものが開発されています。今回は、ERC721の様々な派生規格についてまとめたいと思います。
ERC721の派生規格の種類と特徴
ERC721A
ERC721Aは、人気NFTプロジェクトの1つである「Azuki」から提案された独自の規格です。
Azukiは、ロサンゼルス発の「Chiru Labs」に所属する4名のチームメンバーによってデザイン、開発されています。NFTは主にSNSなどのProfile Picture(PFP)としてユーザーに利用される機会が多くなっており、またAzuki NFTホルダーは「The Gureden」というメンバーシップブランドコミュニティに参加することが可能になります。
ERC721Aの特徴は、主に「OpenZeppelinのERC721Enumerableから重複するストレージを削除」「所有者の残高の更新は、NFTのミントごとではなく、バッチミントの要求ごとに1回実行」「所有者データの更新は、NFTのミントごとの更新ではなく、バッチミントの要求ごとに1回実行」という3つの最適化によって複数のNFTをミントする際のガス代(トランザクション承認手数料)を大幅に削減することを可能にしました。これらの変更によりERC721Aを利用したNFTプロジェクトの複数ミントはERC721に比べてガス代を大幅に削減できるようになりました。
ERC721K
ERC721Kは、Impact Cardsのチーフアーキテクトを努めるKames Geraghty氏とERC721K開発チームによって、ダイナミックNFTを構築するためのフレームワークとして提案された規格となっています。
特徴としては、スケーラブル・ベクター・グラフィックス(SVG)とリアルタイムのデータストリームを使用することによってNFTの構築、レンダリング、進化をオンチェーンで可能にし、web3の基本的な特徴である「コンポーザビリティ」と「ネットワーク効果」を補強しています。
この規格のユースケースとして、先日Celoが公開した「Impact Crads」はクロスチェーンへの影響の貢献を追跡し、検証する新しいダイナミックNFTのアルファ版プロジェクトとしてローンチされました。Kames Geraghty氏は、「私たちは、ブロックチェーンが単なる新しい技術ではなく、価値を行動にエンコードする機会であるため、Impact CardsのホームとしてCeloを選択しました」とコメントを残しています。
ERC721R / ERC20R
ERC721R(及びERC20R)は、スタンフォード大学のチームがブロックチェーン取引に可逆性を持たせる規格として発表したものです。
規格の概要としては、被害者が資産を盗まれた場合に凍結申請をガバナンス機関に申請することによって、第三者の審査員員によってその申請の受諾もしくは拒否が行われるものになっており、開発の背景としては、暗号資産のハッキング被害が多発している現状でクレジットカードの支払い取り消しのような「元に戻す機能」がないことがあります。
この規格の仕組みとしては、①被害者が盗まれた資金の凍結を「Governance contract」に要求し、②Jadgesが凍結のリクエストに対して承認もしくは拒否を行う。この審議には1日から2日を要し、拒否された場合はその時点でプロセスが停止し賭け金を失う。一方で、③承認された場合は実際にフリーズが実行され、取引がブロックされる。④そして、被害者は取引が不正であるという証拠をJadgesに提出し、rejectReverse関数が引き出されたら、凍結は解除され、⑤reverse関数が引き出された時は、凍結された資産を被害者に送り返すという流れになっています。
この規格の課題点として審査員の不正や贈収賄を思いとどまらせる方法や報酬のメカニズムが定まっていない点があげられます。
ERC721M
ERC721Mは、「Syndicate」により提案された規格であり、オンチェーンソーシャルネットワークを構築することに優れた規格となっております。Syndicateはシリコンバレーに拠点を置く「Syndicate Inc.」によって提供される分散型投資プロトコルであり、ガス代の消費のみで誰でも簡単に99人以下のInvestmentDAOを作成することができます。
ERC721Mのユースケースである「Collectives」は、カスタマイズ可能な5つのモジュールプラグイン「Mint」「Burn」「Transfer」「Metadata」「Rendering」により、各ソーシャルネットワークまたはコミュニティが必要とする固有のニーズに基づいて、Collectivesの多彩なカスタマイズが可能になっております。この規格が提案された背景として、Syndicateは、投資の分散化、民主化に際して既存の仕組みを再設計し「世界の価値創造に根本的な変革をもたらす」というビジョンを元に、金融ネットワークである「投資」に改革を起こす必要があると考えています、その一環として、人々とお金をつなぐ方法のための新しいソーシャルネットワーキングのプリミティブとプロトコルであるERC721Mが提案されました。
また、Syndicateや開発チームは、これらの機能にとどまることなく、新機能やプラグインを追加しエコシステムを拡張していくと語っています。
最後に
本記事では、アートやコミュニティ、取引のシステム改善など、さまざまな特徴を持つNFTの規格を紹介しました。この記事で取り上げた規格以外にも世界中でさまざまなプロジェクトがユーザー体験向上のために研究開発が行われています。プロジェクトやサービスに使われているNFTの仕組みを知ることでより一層関心が強くなるかもしれません。
【参照URL】Azuki
【参照URL】Chiru Labs
【参照URL】The Gureden
【参照URL】ERC721K
【参照URL】Impact Crads
【参照URL】Syndicate
【参照URL】Collectives
【参照URL】ERC721C
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
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