今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の赤澤直樹 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
昨今のNFTブームでは個人でNFTを発行したり、購入したりという動きが活発ですが、DAO(自律分散型組織)でNFTを保有するという動きも見受けられます。今回のコラムでは、個人ではなく、DAOでNFTを保有するということはどういう意味を持ち、どういったポテンシャルを秘めているのかを考察していきたいと思います。
DAO(自律分散型組織)とは
まず、DAO(Decentaralized Autonomous Organization:自律分散型組織)について簡単にどういったものかの説明をします。あらかじめ断っておきたいこととして、DAOの定義は曖昧で時流とともに意味合いが変化しているので、ここでは一例として理解してください。
DAOとは、特定の管理者が存在しない地理的に分散したメンバーによる議論や投票などのガバナンスを通じてミッションの達成のための意思決定を行い、共有の内部資本から適切なリソースを配分していく公平で階層のない組織です。
DAOの種類としては図のように、投資DAO、グラントDAO、プロトコルDAO、サービスDAO、ソーシャルDAO、メディアDAO、そしてコレクターDAOがあります。DAOオペレーティングシステムは、DAOを作成や運営する際に活用されるテンプレートやフレームワークを提供するサービスなのでDAOには含みません。
このように様々なDAOがありますが、いずれも規模に関わらずボトムアップ的に意思決定を行い、特定のミッションを達成することを目標にしています。
コレクターDAOとは
上記でも述べましたが、DAOのジャンルの1つに「コレクターDAO」があります。コレクターDAOは、NFTを収集しているDAOであり、どのNFTが長期的に価値を持つのかをキュレーションしようとします。このキュレーターグループは、特定のアーティスト、プラットフォーム、シリーズを支える役割を果たして、長く愛されるための手助けを行なっています。
例えば、コレクターDAOは図のようにいくつか存在しますが、その1つとして「PleasrDAO」があります。PleasrDAOは、DeFiのリーダー、初期のNFTコレクター、デジタルアーティストの集団で、文化的に重要な作品を入手をしています。執筆時点では、ウーラン・タンの希少なアルバム(デジタルではなく物理的なもの)を購入したことが分かっています。PleasrDAOは、アルバムの所有者以外の人にも、法的な問題を考慮しながらアルバムの内容を聴かせたいと考えているそうです。
また、PleasrDAOはDogecoinのモデルになった柴犬の「カボス」ちゃんのNFTを1,696ETHで購入をしたこともあります。さらにそのNFTを数十億個のERC-20トークン、つまりトークン同士が等価で交換できる代替可能トークン(ファンジブル・トークン)に分割をしました。分割されたトークンは$DOGと言い、誰でも元のNFTの一部を$DOGとして所有することが可能になりました。
NFTの社会的・文化的価値を見出す
ここで、現在のNFT市場の話に移りますが、現在のNFT市場は高騰する価格に対して注目されることが多い状況であり、実際に「このNFTは〇〇円で落札された!」「転売益が出せるらしい!」などの経済的な価値を基準にNFTの価値を判断する機会が多い印象です。
しかし、私はこの経済的な価値はNFTが持ち得る一側面でしかないと考えます。NFTの他の側面を見出す要素としてコレクターDAOの存在があり、その存在はNFTに市場価値とは異なる価値が提供するポテンシャルを秘めていると考えます。
あるコレクターDAOが、そのコミュニティ内で価値があると判断されたNFTを保有するということは、デジタル上での「歴史」や「文化」が生まれるという見方ができるのではないかと考えます。これは、NFTに対して経済的な価値とは異なる「社会的・文化的価値」を有していると見なすこともできるということを意味します。このことによって、私たちはデジタル空間内で新しい体験を堪能することができるのではないかと思います。
一旦、リアルなフィジカルな体験の話へと移します。私たちは何かしらの体験をするためにしばしば観光地へ旅行をすることがあります。例えば、「厳島神社」「サグラダ・ファミリア」を見るために私たちは長い旅を要し、そこで普段味合うことのできないような特別な体験をすることに期待をします。この行動は経済的な価値があるからというよりもそこで得られる社会的・文化的な価値があるという実感によって触発されているのではないでしょうか。「厳島神社」や「サグラダ・ファミリア」などの世界遺産はユネスコが定める基準に満たしたものが登録され人類共通の遺産として存在します。NFTも同様にコレクターDAOがユネスコのように機能して、DAOによって収集され保有されるNFTが、人類共通の「デジタル遺産」として存在し得ると考えられます。旅行をして観光をするように、メタバース上で観光することで「デジタル遺産」を鑑賞することができるのかもしれません。
リアルな空間の世界遺産は、特定の機関であるユネスコや専門機関によって認定されますが、公平かつ自由を信条とするパブリックブロックチェーン的な価値観の上に築かれるクリプト空間では、ボトムアップ的に認定され、分割されて所有することが「デジタル遺産」としては理想的なのではないかと思います。
メタバース上で観光するように世界遺産となったNFTを鑑賞することができたり、感銘を受けたNFTを分割して所有することもできます。リアル空間における世界遺産的なものにあたるNFTの一部分を自分が所有することができたら、デジタル内の文化がより身近になり、世界への手触り感が増し、よりワクワクする世界になるのではないかという妄想をしてみました。
このようにコレクターDAOは、価格が高騰して値段にばかり目がいってしまうNFTについて文化的価値、社会的価値、そして伝統や歴史を感じ取ることのできる新しい見方としてNFTと向き合うことができる可能性を提供し得る可能性を秘めていると考えます。
【関連記事】イーサリアムとは?特徴・仕組み・購入方法
【参照記事】CoopathroopaのMirrorのDAOに関するブログ
【参照URL】PleasrDAOのホームページ
【参照URL】PleasrDAOのMirror
【参照記事】PleasrDAOがウーラン・タンのアルバムを購入ーThe Block
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
Fracton Ventures株式会社
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