TDKは、世界初の音楽用カセットテープの開発などで世界的に知られる電子部品メーカーです。ESGやサステナビリティへの取り組みにも積極的で、社会課題などの解決に向けたTDKの取り組み姿勢は外部の格付け機関などからも高い評価を受けています。
そこで、この記事ではTDKのESGやサステナビリティの取り組み内容をご紹介します。企業の特徴やESG・サステナビリティに関する外部評価、業績・株価動向、配当推移なども併せて解説するので、ESG投資にご興味のある方は参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年1月9日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- TDKの特徴
- TDKのESG・サステナビリティの取り組み
2-1.TDKグループのマテリアリティ
2-2.環境に配慮した取り組み
2-3.社会に配慮した取り組み
2-4.ガバナンスの強化に向けた取り組み
2-5.TDKのESG・サステナビリティに関する外部評価 - TDKの業績・株価動向
- TDKの配当推移
- まとめ
1 TDKの特徴
TDK株式会社(6762)は東証プライム市場に上場している電子部品の大手企業です。1935年12月7日に磁性素材「フェライト」の工業化を目指す企業として東京電気化学工業株式会社が設立され、1983年3月1日に東京(T)電気(D)化学工業(K)の頭文字をとってTDKへと社名変更されました。
TDKは日本の独創的発明であった磁性素材の「フェライト」を工業化することに成功し、戦前は無線通信機やラジオの部品として供給していました。フェライトは戦後もテレビやテープレコーダーの部品として使用され、最近はハイブリッドカーのバッテリー電圧変換機にも用いられるなど、TDKのモノづくりの基盤となっている素材です。
また、1960年代に入るとTDKは世界初の音楽用カセットテープの開発にも成功し、カセットテープの世界市場での爆発的なヒットにより、TDKの名前は世界中に知れ渡ることとなりました。
2023年1月9日現在、TDKはスマートフォンなどモバイル機器に使用されるリチウムイオン電池や、電流・電圧を変換するLED用電源などを供給するエナジー応用製品事業を展開しており、事業セグメントの売上高は2022年3月期の決算で50%超を占める割合です。
残りの売上構成は、モバイル機器や家電の小型・軽量化に大きく貢献している積層セラミックチップコンデンサなどの製品を取り扱う受動部品事業が3割弱、HDD用磁気ヘッドなどを取り扱う磁気応用製品事業と温度センサなどを取り扱うセンサ応用製品事業が約2割となっています。
上記4つの事業セグメントがTDKの事業の柱となっており、国外での売上比率が約92.2%と、海外での事業が売上の大半を占める点も大きな特徴です。
2 TDKのESG・サステナビリティの取り組み
TDKは、中期経営計画作成のタイミングでサステナブルな社会と企業を目指すため、達成すべき重要課題(マテリアリティ)を定めています。こちらでは、TDKのマテリアリティと具体的なESGに関する取り組みについて確認してみましょう。
2-1 TDKグループのマテリアリティ
TDKグループは、2022年3月期〜2024年3月期までの3か年で達成を目指す中期経営計画「Value Creation 2023」を発表しています。中期経営目標として売上高2兆円や営業利益率12%以上などの数値目標が掲げられる中、社会の課題解決への貢献も目標の一つとして盛り込まれています。
TDKは、中期経営計画の達成と社会のサステナビリティおよび企業の持続的な成長を両立するため、以下の通り、最優先で対処すべき重要課題(マテリアリティ)を特定しています。
分野 | テーマ |
---|---|
EX(Energy Transformation:電子デバイスでムダ熱とノイズを最小化し、エネルギー・環境問題に貢献) | 2050年CO2ネットゼロ実現に向けたエネルギーの有効利用と再生可能エネルギーの利用拡大 |
脱炭素社会を実現するために、クリーンエネルギーを創出する製品・ソリューションの提供 | |
エネルギーの蓄電、変換、制御によって効率的なエネルギー社会を実現する製品・ソリューションの提供 | |
DX(Digital Transformation:マテリアルサイエンスとプロセス技術にソフトウェア技術を加え、社会のデジタル化を促進) | 強靭なコミュニケーションネットワークインフラ構築を支える製品・ソリューションの提供 |
人の能力増強と保管を促進するための、ロボット化・モビリティ化を支える製品・ソリューションの提供 | |
TDKのデジタル化推進 |
2-2 環境に配慮した取り組み
TDKは、環境に配慮した取り組みとしてCO2排出量削減や水資源の取水量削減、資源の有効利用などの取り組みを進めています。CO2排出量削減については、生産拠点での再生可能エネルギーの導入拡大などによって2021年度は目標の前年度比1.8%減を大幅に上回る25.2%減を達成しています。
しかし、2021年度の物流におけるCO2排出量や製品による排出量は前年度比で悪化する結果となっており、海外拠点での物流CO2排出量削減活動の推進や環境負荷を低減できる製品の開発など目標達成に向けた取り組みも進行中です。
水資源の取水量削減は、2021年度の前年度比1.5%減の目標に対して25.5%減、資源の有効利用についても前年度比1.5%の改善目標に対して14.9%の改善と、これらの取り組みは目標を達成しながら大きく改善が進められています。
この他にもTDKは化学物質利用リスクの削減や生物多様性保全などの取り組みも進めており、2050年のCO2排出量ゼロなどの大きな目標に向けた様々な取り組みが今後も進められる予定です。
2-3 社会に配慮した取り組み
TDKでは、人材育成や製造拠点における社会・環境に対する配慮といった取り組みが進められています。TDKは海外事業の比率が高く、M&Aを通じてグループに加わった企業も多数あるため、国籍などに関わらず多様なグループ企業や優秀な人材がグループの一員として能力を発揮できるようになっています。
次世代リーダーを育成する学習機会の提供や、様々な文化・規範・言語・アイデアなどを活かせるように、国籍・年齢・性別・宗教などにとらわれない多様な人材が働きやすい職場環境づくり(ダイバーシティ・インクルージョンの推進)を進めており、2021年度は女性係長職へのキャリア開発教育やハラスメント防止のためのセミナー開催なども実施されました。
製造拠点では2021年度にCSR(企業の果たすべき社会的責任)のセルフチェックを全拠点で実施しており、顧客によるCSR監査や国内外の関係者に対するCSR教育なども実施しながら、各製造拠点でTDKの社会的責任を果たせるように取り組みが進められています。
2-4 ガバナンスの強化に向けた取り組み
TDKはコーポレートガバナンスの強化や法令遵守、リスクマネジメント体制の整備などによってガバナンスの強化に向けた取り組みを進めています。
コーポレートガバナンスの強化では、2016年6月に「TDKコーポレートガバナンス基本方針」を定め、取締役の3分の1以上を独立社外取締役にすることや、取締役会の議長を原則として独立社外取締役が務めることを実践しながら取締役会の実効性向上を図っています。
TDKでは、法令遵守の取り組みも進められており、各国の適用税務関連法令等の法令遵守を定めたTDKのタックスポリシーは、適正な税務申告やステークホルダーへの適切な情報開示を定めるグローバル企業としてのガバナンス強化を図る内容となっています。
また、TDKでは経済動向の変化によるリスクや自然災害によるリスクなど様々なリスクの分析評価を行い、危機に直面した際の従業員の安全確保や二次災害の防止、顧客への供給責任を果たすための事業継続などを実践できるように、リスクマネジメント体制の整備が進められています。
2-5 TDKのESG・サステナビリティに関する外部評価
TDKはESGやサステナビリティへの取り組みが外部の格付け機関などから高い評価を受けている企業です。
ESG投資で世界的に大きな影響力を持つ英国の国際環境NGO「CDP」からは水セキュリティ対策で最高評価の「A」、気候変動対策で上から2番目の評価となる「A-」に選ばれています。
また、気候変動質問書の「サプライヤー・エンゲージメント評価」においても2年連続で最高評価の「リーダー・ボード」に選出されるなど、「CDP」から高い評価を受けています。
また、株式市場で大きな影響力を持つ世界最大の機関投資家GPIF(年金積立金管理独立行政法人)がESG投資で採用している日本株関連の5つのESG指数にもTDKは全て選出されており、TDKのサステナビリティ・ESGに対する取り組みは総じて高い評価となっています。
TDKが採用されている主なESG指数は下表の通りです。
指数算定会社 | 指数 |
---|---|
FTSE Russell(英国) | FTSE4Good Index Series |
FTSE Blossom Japan Index | |
FTSE Blossom Japan Sector Relative Index | |
MSCI(米国) | MSCI ESG Leaders Indexes |
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数 | |
MSCI日本株女性活躍指数(WIN) | |
S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(米国) | S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数 |
SOMPOアセットマネジメント(日本) | SOMPOサステナビリティ・インデックス |
3 TDKの業績・株価動向
以下は過去5期分のTDKの売上高と営業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益(グループ企業の親会社持ち分利益などを加算した利益)をまとめた表です。
(単位:百万円)
決算期 | 2018年3月 | 2019年3月 | 2020年3月 | 2021年3月 | 2022年3月 |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 1,271,747 | 1,381,806 | 1,363,037 | 1,479,008 | 1,902,124 |
営業利益 | 89,692 | 107,823 | 97,870 | 111,814 | 166,775 |
当期利益 | 63,463 | 82,205 | 57,780 | 74,681 | 131,298 |
TDKは、2022年3月期より国際財務報告基準(IFRS)を適用しており、上表は2020年3月以前が米国基準、2021年3月期以降はIFRSで集計された業績となっています。そのため、単純比較はできないものの、売上高は過去5期の間で約1.5倍に増加しており、特に2022年3月期は前期比129%と大幅な増収です。
2020年3月期は、米中関係の悪化などを背景に中国をはじめとする世界経済の減速に加え、新型コロナウイルスの感染拡大により電子機器の生産や電子部品の需要が影響を受けて減収減益でした。しかし、その後は社会経済活動の正常化などに伴い大幅な増収増益となっており、2022年3月期は売上高・営業利益ともに過去最高を更新しています。
2023年3月期は売上高2.2兆円、営業利益2,000億円と過去最高をさらに更新する増収増益の見通しです。
続いてTDKの株価推移を確認してみましょう。以下は、2018年以降の四半期末の終値をまとめた表です。TDKは2021年9月30日を基準日として1株を3株にする株式分割を実施しており、表の2021年6月末までのカッコ書きは株価推移が比較できるよう分割後の水準で換算した金額となっています。
(単位:円 カッコ書きは分割後の株数での換算金額)
項目 | 3月末 | 6月末 | 9月末 | 12月末(期末) |
---|---|---|---|---|
2018年 | 9,590 (3,197) |
11,320 (3,773) |
12,390 (4,130) |
7,720 (2,573) |
2019年 | 8,670 (2,890) |
8,340 (2,780) |
9,670 (3,223) |
12,390 (4,130) |
2020年 | 8,380 (2,793) |
10,680 (3,560) |
10,830 (3,610) |
15,540 (5,180) |
2021年 | 15,330 (5,110) |
13,490 (4,497) |
4,045 | 4,490 |
2022年 | 4,460 | 4,190 | 4,455 | 4,335 |
TDKの株価は2018年12月末と2020年3月末に大きく下落しています。これはTDKが部品を供給しているアップル社のiPhone販売台数引き下げなど、業績の下方修正が影響してアップル関連株と言われるTDKや村田製作所(6981)などが大きく値を下げた時期です。
2020年3月末は新型コロナウイルスの影響による需要減などが懸念されて3割を超える大幅な下落となっていますが、業績は順調だったため2020年の年末にかけて大きく上昇しています。
今後は株式分割によって流動性が高まるなどのメリットがある反面、景気などによる需要の変化で売上高が大きく増減する可能性もあるため、引き続き業績面などを注視しながら取引の判断を行うことが大切です。
4 TDKの配当推移
TDKの過去5期分の配当推移について以下の表で確認しておきましょう。TDKは、2021年9月30日を基準日とした株式分割を実施しているため、以下の配当金額は全て株式分割後の株数で換算した金額(下段のカッコ書きは実際の配当額)となっています。
項目 | 年間配当額 | 中間 | 期末 | 配当性向 |
---|---|---|---|---|
2018年3月期 | 43.3円 (130円) |
20円 (60円) |
23.3円 (70円) |
25.9% |
2019年3月期 | 53.3円 (160円) |
26.7円 (80円) |
26.7円 (80円) |
24.6% |
2020年3月期 | 60円 (180円) |
30円 (90円) |
30円 (90円) |
39.3% |
2021年3月期 | 60円 (180円) |
30円 (90円) |
30円 (90円) |
28.7% |
2022年3月期 | 78.3円 | 33.3円 (100円) |
45円 | 22.6% |
TDKは、実現した利益を事業活動へ積極的に再投資した上で、連結ベースの親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)や親会社所有者帰属持分配当率(DOE)の水準なども考慮して配当を行う方針を発表しています。
過去5期の配当性向について見てみると2020年3月期は減収減益だったため39.3%と高くなっていますが、それ以外は概ね25%前後の水準です。しかし、年間配当額は当期利益の増加に応じて増配傾向が続いており、2023年3月期も年間配当予想額が106円と2期連続の増配となる見通しです。
まとめ
TDKは、世界で初めて音楽用のカセットテープを開発するなど高い技術力に裏付けされた様々な製品を製造しており、最近はスマートフォンなどに使用されるリチウムイオン電池の供給なども行っています。
TDKのESGやサステナビリティに対する取り組みは外部の格付け機関などから高い評価を受けており、今後も日本でESG投資が活発化することを考えると、流動性の高まりなどによって今後の株価にプラス要因となる可能性もあります。
一方、株価は過去にアップルの業績見通し引き下げや新型コロナウイルスによる需要減などによって大きな下落も経験しているため、今後の業績見通しや経済動向にも注視することが大切です。
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