2015年に国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が採択されたほか、気候変動の国際的な枠組み「パリ協定」も締結されました。金融の世界ではESG(環境・社会・ガバナンス)投資が拡大基調にあり、脱炭素化に向けた動きが活発化しています。民間企業にもESG・サステナビリティ分野での取り組みの積極化が求められている状況です。
そのようななか、今回は、私たちに身近で、先進的にサステナビリティに取り組んでいるユニリーバについて紹介します。
※2022年10月20日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- サステナブルな経営を実践するユニリーバ
- サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に
2-1.ユニリーバの変革のきっかけ
2-2.ユニリーバのサステナビリティ計画
2-3.サステナビリティ計画に取り組んだ後は? - 気候変動分野のサステナブルな取り組み事例
3-1. GHG排出量をネットゼロへ
3-2.持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の立ちあげ主導
3-3.プラスチック・水などの対策も - ユニリーバのESG評価
- 事業再編も推進
- ユニリーバが組み入れられているファンドは?
- まとめ
1.サステナブルな経営を実践するユニリーバ
世界最大級の年金基金である日本の年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)やノルウェー政府年金基金(GPFG)、米カリフォルニア州公務員退職年金基金(カルパース)といった「ユニバーサルオーナー(#1)」がESG投資を推進しています。民間企業もESGマネーを呼び込むべくサステナビリティ分野の取り組みを強化する必要が出てきています。
(#1)ユニバーサルオーナー…巨額の資産をもち、幅広い資産や証券に分散投資をおこなっている長期投資家。
※図は世界持続可能投資連合(GSIA)の「GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020」より筆者作成、1ドル145円換算そのようななか、サステナビリティを経営の中核に据えるのが、世界最大級の日用品メーカーである英ユニリーバ(ティッカーシンボル:ULVR)です。同社は1883年に創業。英国ヴィクトリア朝時代(日本は明治時代)にまでさかのぼります。「清潔さを暮らしの“あたりまえに”」するという明確なパーパス(目的・存在意義)のもと、「サンライト」ブランドの石けんを提供し始めました。
それ以来140年間、190ヶ国以上の国々で400種類以上のブランドを展開。毎日、世界人口の半分ほどの34億人の人びとが同社製品を利用しています。これらのことだけでも、ユニリーバの製品が人びとの生活に広く浸透していることが伺えます。
石鹸の「ダヴ」、ヘアケアの「ラックス」、スキンケアの「ヴァセリン」、スープの「クノール」などは、日本の生活者にとっても認知度の高いブランドの一つです。2021年には10億ユーロ(約1,400億円)超の売上高を誇る製品を13ブランド保有しており、グローバルブランド戦略を専門とするカンタール(KANTAR)のグローバル・ブランド・トップ50に、13ブランドがランクインました。
画像出典:ユニリーバのウェブサイトより
2.サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に
2-1.ユニリーバの変革のきっかけ
長い歴史のなかでユニリーバにも苦戦を強いられる時期がありました。低迷ぶりを象徴する出来事として、自社のオフィスに競合他社の石けんが置かれていたほど、社員のプライド・士気はなくなっていました。
低迷期を脱するきっかけになったのが、2009年1月に最高経営責任者(CEO)に就任したポール・ポールマン氏の存在です。革新的な経営を実践したことで定評があり、ユニリーバと並んでESG分野で評価の高い食品・飲料世界大手のネスレ(NESN)の最高財務責任者(CFO)を経て、ユニリーバを率いることになりました。
長期的な利益成長を重視し、四半期決算の開示を取りやめたことは有名で、いまでも中間および通期決算のみ開示をおこなっています。近年、日本でも取り組みが活発化しているSDGsの草案作成の段階から関与した人物としても知られています。
そんなポールマン氏が就任早々から手掛けたのが、マルチステークホルダー型のパーパス経営へのシフトを推進したことです。ユニリーバのマルチステークホルダーは、社員・顧客、小売店、サプライヤーとビジネスパートナー、社会、地球から構成されています。日本では、近江商人の「三方よし(#2)」の精神がありますが、ユニリーバも非常に広い視野でステークホルダーを重視しています。
(#2)三方よし…近江国(現・滋賀県)から全国各地で商売を展開した近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の考え方。近江商人は出先の地域経済に貢献することで、持続可能な経済活動を許された。参照:伊藤忠商事。
2-2.ユニリーバのサステナビリティ計画
「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というパーパスのもと、2010年には世界共通の経営計画「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(USLP)」を導入しました。USLPは、成長とサステナビリティの両立を追求する10年間におよぶ長期計画です。
USLP最終年となる20年には、10年間の進捗が公表されました。成果の一部として下記が挙げられました。
- 13億人の人びとの衛生・健康状態を改善
- 世界中すべての工場で埋め立て廃棄物ゼロを達成、およびグリッド電力を100%再生可能エネルギーへ切り替え。
- 自社工場の温室効果ガス(GHG)排出量の50%削減。
- 食品ポートフォリオの56%が最も高い栄養基準を満たす。
USLPの期間(2010年~2020年)において、売上高は440億ユーロから510億ユーロに、営業利益は63億ユーロから83億ユーロに拡大しています。
※図は「ユニリーバ アニュアルレポート」より筆者作成
2-3.サステナビリティ計画に取り組んだ後は?
ポールマン氏率いるユニリーバは、ESG・サステナビリティ分野の取り組みと業績拡大の両立を見事に実現した形となりました。株式市場では同社の取り組みが高く評価され、USLPの間に株価は2倍ほど上昇しました。USLPの間に株価は2倍ほど上昇する一方、英国の代表的な株価指数であるFTSE100は同期間に18%高にとどまりました。
株主総利回り(TRS、#3)でみると、2010年12月を基準として2020年12月には300を超えています。FTSE100のTRSは150ほどで、現CEOのアラン・ジョープCEOは「USLPは当社のビジネスにとってゲームチェンジャー(#4)となった」と述べています。
参照:ユニリーバ「Unilever celebrates 10 years of the Sustainable Living Plan」
ただしUSLPでは達成できなかった目標もあり、そして今後もサステナビリティ分野のリーダーであり続けるべく、新たな企業戦略「「グルーバル・コンパス」を策定しました。
(#3)株主総利回り…株式投資によって得られた収益(配当とキャピタルゲイン)を投資額(株価)で割った比率。企業業績にくわえて株価も含めた経営の成果をはかる指標となる。
(#4)ゲームチェンジャー…ものごとの状況や流れを一変させる個人や企業、製品、アイデアのこと。
3.気候変動分野のサステナブルな取り組み事例
「ユニリーバ・コンパス」のもとでは、サステナブルなビジネスのグローバルリーダーとなることをビジョンとして掲げ、パーパス主導で業界上位3分の1に入る財務パフォーマンスを一貫して実現することを目指しています。
「地球の健康を改善する」「人々の健康、自信、ウェルビーイングを向上させる」「より公正で、より社会的にインクルーシブな世界に貢献する」という目標のもと、気候変動、自然の保護と再生、ごみのない世界、ポジティブな栄養、健康とウェルビーイング、公平・ダイバーシティ(多様性)・インクルージョン(包摂)、生活水準の向上、未来の仕事といった分野で多岐にわたるアクションを起こします。
3-1. GHG排出量をネットゼロへ
たとえば、気候変動へのアクションとして、2039年までに、原材料調達から店頭販売までの過程でGHG排出量をネットゼロにすことや、ポジティブな栄養では、2025~27年までに植物由来の代替肉・代替乳製品の年間売上高を10億ユーロにする、さらに生活水準の向上では、2030年までに同社に物品やサービスを提供するすべての人びとが最低でも生活賃金または収入を得られるようにするという目標を掲げています。
ユニリーバは製品の原材料を農産物に依存しており、パーム油、紙・ボール紙、大豆、砂糖、紅茶などの大口需要家となります。そのなかでも環境・社会課題を多く抱えるのがパーム油です。パーム油の85%はマーガリンやチョコレートなどの食用として、残りは化粧品や石けん、洗剤などの日食用として利用され、わたしたちの日々の暮らしに欠かせない原材料です。
アブラヤシ農園でとれたパームの実は搾油工場へ運ばれ、果肉を絞ってパーム油を、種子を絞ってパーム核油がつくられます。アブラヤシは単位面積あたりの収穫量が他の植物と比較して5~8倍と圧倒的に多いため、森林を伐採してアブラヤシ農園の開発が進められます。一方で、農園労働者や地域住民の人権や森林破壊などの問題が度々指摘されています。
※画像はユニリーバ「Sustainable and deforestation-free palm oil」より引用
3-2.「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の立ちあげ主導
パーム油への需要が高まるなかで環境・社会課題の解決に立ち上がったのがユニリーバです。同社は2004年、パーム油の持続可能な調達を図るべく、世界自然保護基金(WWF)などとともに「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の設立を主導し、持続可能なパーム油の生産などの原則と基準にのっとったRSPO認証も立ちあげました。
RSPO認証には以下4つの方式があります。
- 認証農園で生産されたパーム油・パーム核油を、搾油工場、製油工場、製品製造にいたる全工程で非認証パーム油と分離させる「完全分離(アイデンティティ・プリザーブド)」方式
- 複数の認証農園で生産されたパーム油からなり、非認証油とは混ぜあわせることのない「分離(セグリゲーション)」方式
- 製造過程で認証油と非認証油を混ぜあわせる「マス・バランス」方式
- 認証農園が発行する認証油のクレジットをパーム油利用業者が購入するモデルとなる「ブック・アンド・クレーム」方式
採用する方式によって製品に使用可能なロゴマークや表記が異なってくるため、購入時に一目で認証取得の有無や各方式を確認できます。
※画像はWWF JAPAN:RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証についてより引用
ユニリーバでは2021年末までに、パーム油の86%をマス・バランス方式、分離方式、およびそれらと同等の基準にもとづく認証パーム油に切り替えました。このように、同社は環境・社会課題の解決を図る取り組みを主導することで、自社のパーム油の持続可能な調達につなげています。
責任ある調達において課題となるのが、トレーサビリティ(生産履歴の追跡)です。ユニリーバは衛星データ解析の米オービタルインサイトと協働して、森林破壊が発生した可能性のある場所を特定する取り組みも行います。
さらに、パーム油や化石燃料に替わる植物由来の洗浄成分の商用化・拡大に向け、米バイオテック企業のジェノマティカとベンチャー企業を設立しました。責任ある代替パーム油調達も拡大する予定です。
3-3.プラスチック・水などの対策も
そのほかにも、プラスチック、水などの分野でグローバル目標を策定します。世界では水不足が一大リスクとなっていて、ユニリーバはこの分野の課題解決に向けて、迅速に石けんの泡を分解する泡立ち防止微粒子「スマートフォーム」を導入したほか、ブラジルでは水をほとんど使わないドライシャンプーも開発しました。
最近では低温・短時間で洗浄できるサステナブルなジェルボールも開発しました。ジェルボール用の紙器は、50%はリサイクルされたもので、残りは国際的な森林認証制度を運営するFSCから認証を取得した森林から生産されたものからできています。
関連記事:ユニリーバ、低温・短時間で洗浄できるサステナブルなジェルボール開発。紙器にFSC認証剤使用
4.ユニリーバのESG評価
ユニリーバのESGやサステナビリティ分野での取り組みは高く評価されています。たとえば、環境分野で世界的に権威のある英NGOのCDPより、「気候変動」「ウォーターセキュリティ(水)」「フォレスト」の各部門で最高評価となるAスコアを獲得したことや、2021年の評価対象12,000社近くのうち、トリプルAを達成したのはユニリーバを含む14社でした。
CDPは、ESG先進金融機関であるBNPパリバ・アセット・マネジメントなどの機関投資家も活用するデータです。
また、サステナビリティ分野の世論調査機関GlobeScanとサステナビリティ関連のコンサルティング企業SustainAbilityの「GlobeScan Sustainability Leaders Survey」で、2022年には12年連続で1位を獲得しました(ユニリーバ「Unilever is named corporate sustainability leader for 12th consecutive year」)。サステナビリティ分野のリーダー企業としての地位を不動のものにしています。
5.事業再編も推進
ユニリーバは2021年11月、「リプトン」などを含む紅茶事業の売却を決断しました。植物性原料食品などの成長分野に資源をふりむける方針です。翌22年1月には、事業を「美容・健康」「パーソナルケア」「ホームケア」「栄養」「アイスクリーム」の5つに再編するなど、事業の見直しを行っています。
「ユニリーバ・コンパス」の各目標の達成に向けて、それぞれの事業でサステナブルなアクションを巻き起こしていきます。
6.ユニリーバが組み入れられているファンドは?
また、同社株への投資を検討する際、個別株としては、SBI証券や楽天証券などがADR(米国預託証券)として取り扱っています。
投資信託では、三井住友DSアセットマネジメントの「グローバルSDGs株式ファンド」や野村アセットマネジメントの「野村世界ESG株式インデックスファンド(確定拠出型年金向け)」などに組み入れられています。
7.まとめ
ユニリーバは「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というパーパスのもと、暮らしに根ざした製品を開発し、成長とサステナビリティの両立を追求している企業です。また、サステナビリティ先進企業としての地位を確立しています。
これからも、サステナビリティを経営の根幹に据えるユニリーバが、経済社会にポジティブなインパクトをもたらし、永続的な企業運営を実践することで、社会にとって良いインパクトがもたらされることが期待されます。
フォルトゥナ
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