現在のイーサリアムレイヤー2「StarkEx」からレイヤー1のコスモス上に独自チェーンを作る決断をしたdYdX。この決断の背景には、dYdXが目指すV4(完全分散化)が関係している。
最終形態であるV4の実現に、現時点では最適であると判断されたコスモスとは?本稿では、コスモスが選ばれた理由やdYdXの独自チェーンである「dYdXチェーン」の必要性について解説する。
目次
1. 現在採用しているレイヤー2「StarkEX」とは?
イーサリアムには、レイヤー1とレイヤー2が存在する。簡潔に区別するなら、レイヤー1が本家のブロックチェーン、レイヤー2は実用を目的に改編されたオフチェーンである。
2021年、このイーサリアムレイヤー1における取引量の増加に伴い、イーサリアムの処理機能が追いつかず、ガス代が高騰するスケーラビリティ(スケーリング)の問題が生じた。これらを解決するために登場したのが、レイヤー2スケーリングソリューションである。
2021年2月から、dYdXは、レイヤー1の抱える課題へのソリューションとして代表的なレイヤー1の一つであるStarkWare社のStarkEXを採用した。
1-1. StarkEXが提供するソリューション
StarkEXによって、dYdXは、レイヤー1の問題である取引の混雑を回避し、ガス代を削減することが可能となった。具体的なStarkEXの役割を解説する。
まずdYdXは、オーダーブック(取引板)をトレーディングの基盤としている。このオーダーブックは、StarkEXによって買い手と売り手の一致する価格をオフチェーンでマッチングした後に、ブロックチェーン上に記録される。
上の図のように、ユーザーがオーダーを執行した後、マッチングが行われる。その内容はProver(証明者)から、イーサリアムブロックチェーンのVerifier(以下、検証者)へと送られ、内容が正しいことを確認したのち、ブロックチェーンに記録される。
つまりStarkEXは、ブロックチェーンの負荷を軽減することにより、スケーラビリティを向上するソリューションなのだ。
1-2. StarkEXの仕組み
そもそもStarkEXは、どのようにオフチェーンの取引データをブロックチェーンに記録するのか?まずは、レイヤー2スケーリングソリューションの各カテゴリーを見てみよう。
上の図によると、StarkEXを開発するStarkwareは、「Rollups(以下、ロールアップ)」と位置付けられている。ロールアップでは、取引に必要な計算をオフチェーンで行った後、レイヤー1つまりブロックチェーンに記録する。この一連の流れにおいて、オフチェーンの取引情報をくるくると巻き上げてからレイヤー1に提出することから、ロールアップと呼ばれる。
一方のStarkEXは、Starkwareが開発したスケーラビリティエンジンである。StarkEXを使用することで、ZK-Rollup (以下、ZKロールアップ)が可能となる。ZKロールアップとは、オフチェーンの取引をブロックチェーンに提出するロールアップでありながら、情報の詳細を明かさずに正確であることを証明するゼロ知識証明を取り入れた仕組みである。
つまり、StarkEXを使用することで、レイヤー2で集めた情報をレイヤー1のブロックチェーンに提出する際に、取引の内容を公開する必要がない。レイヤー1の検証者が証明の正誤を検証し、正しいと判断された場合、レイヤー2の取引が記録されるのだ。
これらのレイヤー2ロールアップでは、100倍以上のスケーリスケーリング(処理能力)を発揮できるとされている。事実、イーサリアム創設者のヴィタリック・ブテリン氏は、「ほぼ全てのトランザクションをレイヤー2で行うことで、オプティミスティックロールアップとZKロールアップにより、最大の毎秒取引数を15から3,000へ増加することが可能だ。」と述べている。
2. イーサリアムレイヤー2の問題点
前述の通り、イーサリアムレイヤー2「StarkEX」を利用することで、レイヤー1のスケーラビリティ問題を解消し、高速かつ低価格の取引が可能となった。その一方で、2つの問題点が残されている。
一つ目は、dYdXが望む処理能力を満たしていない点だ。確かにレイヤー2によって取引の処理能力は改善した。現在のdYdXは、毎秒10件のトレーディング、1,000件の取引執行・キャンセルが可能だ。しかし、トップレベルの取引所としてオーダーブックやマッチングエンジンを機能させるには、不十分である。
二つ目の問題として、オフチェーンオーダーブックシステムにマッチング機能が搭載されていないことが挙げられる。オーダーブック(取引板)とはdYdXが採用しているトレーディングの基盤となるものだ。StarkEXによって買い手と売り手の一致する価格をオフチェーンでマッチングした後に、ブロックチェーン上に記録される。
現在の構造では、オフチェーンで取引のマッチングが行われる際に、中央集権的な要素が含まれている。レイヤー2で集められた取引内容をレイヤー1へ提出するプロセスを、単独のオペレーターが担っているからだ。
企業または単独のノードが取引情報を握るということは、オペレーターが受け取った情報を検閲し、自分に有利な取引を行うフロントランニングが可能となるリスクがある。2023年に完全分散化を目指すdYdXにとって、基盤となるシステムが中央集権的な要素を持つことは大きな問題だ。
dYdXにおけるイーサリアムレイヤー2の欠点は、処理能力が不十分であることと、既存のソリューションでは中央集権的要素を排除できない点だ。
3. コスモスとは?選ばれた理由
コスモスとは、異なるブロックチェーン同士を繋ぎ合わせるクロスチェーン機能を備えたテクノロジーである。「The Internet of Blockchains.(ブロックチェーンのインターネット)」を掲げて、チェーン間での相互接続を可能にする。
上の図からわかる通り、すでに多くのプロジェクトがコスモスのエコシステムに参加している。なぜコスモスがこれほど多くのプロジェクトに採用されているのか?
コスモスチェーンは、以下の3つの特徴を持つ。
- 高い処理能力
- 分散型
- カスタマイズ可能
この中でも、コスモスの持つ「処理能力」と「分散型」は、dYdXがイーサリアムレイヤー2で課題としていたことだ。
処理能力の問題を解決する上で、dYdXではオーダーブックから他の取引モデルへ移行することも検討された。しかし、理想とするトレーディングには高い処理能力を必要とするオーダーブックを使用することが必要不可欠でありコスモスの採用に踏み切った。
さらに、コスモスは、中央組織に依存しないサービスの構築「分散型」を強く意識しており、完全分散化であるV4を目指して基盤を構築している最中であるdYdXの方向性と合致する。
分散型の土台に、処理能力の高いカスタマイズ可能なプロトコルを導入することで、dYdXの理想とするトレーディングプラットフォームが完成するのだ。既に存在するチェーンの中から最も適したチェーンを探すのではなく、「カスタマイズ可能」なコスモスを利用することが最適であると判断された。
4. dYdXチェーン開発が必要な理由
dYdXチェーンが必要な理由として、オーダーブックの分散型が挙げられる。現在のdYdXでは、注文のマッチングをオフチェーンで行い、売買の決済をブロックチェーン上で記録する方法を採用している。
前述した通り、このオーダーブックはdYdXのトレーディングにとって必要不可欠な存在である。一方、マッチングをオフチェーンで行う際に、中央集権型の組織を利用することを廃止しなければ、完全分散化は達成できない。つまり、このオーダーのマッチングを分散型にするためには、分散型のオフチェーンネットワークを構築する必要があるのだ。
コスモスでdYdXオリジナルのチェーンを開発する事で、ブロックチェーン自体の仕組みやバリデーターが実行するタスクをカスタマイズすることが可能となる。
さらに、dYdX Trading社の公式発表によると、dYdXチェーンの開発により分散型でありながら処理能力が大幅に改善に繋がるとされている。イーサリアムレイヤー2で問題視されていた処理能力と中央集権的な構造の問題が解決されるのだ。
dYdX創設者アントニオ・ジュリアーノは、ツイッターで以下のように述べている。
Product means the best possible combination of:
– UX
– Features
– Decentralization
– Security— Antonio | dYdX (@AntonioMJuliano) June 22, 2022
アントニオによると、dYdXが目指す「プロダクト」とは、ユーザーエクスペリエンスと機能、分散型、セキュリティが最適な形で組み合わさったものと定義されている。
つまり、この4項目が全て揃った状態でV4(完全分散化)を達成しなければならないのだ。最高のプロダクトかつ分散型の最終形態を作り上げるには、独自のdYdXチェーン開発が必要不可欠である
5. まとめ
dYdXは、「分散型」と「機能面」の両方を重要視しており、どちらか一方でも欠けた場合は、dYdXが目指す最終形態として成立しない。現在採用しているイーサリアムレイヤー2は、中央集権的な要素を排除しきれないことと、処理能力がdYdXの理想とする水準に達していないことが問題視されていた。
dYdXが目指す完全分散化に最適なアイデアを模索した結果、コスモスにたどり着いたのだ。dYdXは、2023年のV4(完全分散化)までに、最高レベルのトレーディングが可能で一流のプロダクトを構築するオープンソースのコードを作り上げる。
dYdX財団
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