ブロックチェーンを活用して発行可能なデジタル証券「セキュリティトークン」を利用した資金調達「セキュリティトークンオファリング(STO:Security Token Offering)」は、セキュリティトークンの発行体が資金調達を簡単に行える仕組みとして、アメリカを中心に取り組みが進み始めています。
ブロックチェーンの特性である「改ざん耐性」「二重支払い(譲渡)防止」「透明性」という特長を活かし、権利譲渡の利便性・安全性を高めるSTO。日本ではまだまだ馴染みのない言葉ですが、2020年5月に改正された金融商品取引法(金商法)ではSTOのルールが明確化され、株式や社債など伝統的な資金調達に代わる金融商品として注目を集めています。
今回は、STOがもたらす未来や投資家のみなさんがどのようにSTOに向き合うかというテーマで、業界のリーディングカンパニーとして知られるSecuritize Japanのお二人にお話を伺いました。
話し手: Securitize Japan Country Head, Japan
小林 英至(こばやし えいじ) さん
話し手: Securitize Japan Tech Consultant
森田 悟史(もりた さとし)さん
インタビュー概要
- Security Token Offeringに特化した企業Securitize
- 資本市場を近代化する
- デジタル証券を発行し、管理するITソリューションを提供
- 今後も一つ一つ実績を積み重ね、多くの企業との連携を強化を図る
- 編集後記
Security Token Offeringに特化した企業Securitize
Q. Securitize設立の経緯についてお聞かせください。
小林さん:Securitizeの親会社は2017年に事業を開始しました。当時、Securitizeの共同創業者兼CEOのカルロスがベンチャーキャピタルのSPiCEに所属しており、資金調達を行う時にSTO(Security Token Offering)の発行を手がけていました。この会社はSPiCEからスピンオフして設立した会社になります。
Q. すでに多くの日本企業から出資をいただいていますが、日本への進出はいつ頃から検討されていたのでしょうか。
小林さん:創業者のカルロスは、学生時代に東京工業大学に在学したことがあり、日本においては非常に馴染みがありましたので、Securitize設立当初から日本の様々な関係者と密に連絡をとっていました。
実際に日本で事業をスタートしたのはBUIDL(ビドル)というブロックチェーンのコンサルティング会社を買収した2019年12月頃です。BUIDLの中核メンバーを中心に、日本の組織を立ち上げました。
Q. 日本進出にはどのような期待がありますか。
小林さん:創業者のカルロス自身はスペイン出身でヨーロッパでも存在感がありますが、現在は米国在住です。日本も含め、グローバルに拠点があることによって様々なタイムゾーンをカバーできるような体制になっています。そして、日本進出の戦略としては米国に継ぐ、第二の重要拠点として位置付けられています。
設立当初から日本企業との関係構築をしていたので、日本の数ある大企業に出資をいただく形になりました。日本では、改正金商法が施行されたばかりでSTOの市場自体はまだ発展途上ですが、会社としては日本市場の将来性を感じています。
資本市場を近代化する
Q. Securitizeのビジョンやミッションについて教えていただけますでしょうか。
小林さん:我々のミッションは、「全世界の資産をデジタル化する」ことです。その多くは様々な証券をデジタル化することにあたります。短期的に達成できる目標ではないかもしれませんが、最終的には様々なステークホルダーをデジタルに導く手助けをすることが我々のビジョンでありミッションです。
Q. そのビジョンを実現した後の具体的なイメージや世界観を教えてください。
小林さん:ホームページにも記載している「資本主義を近代化する」世界とは、資産を運用したい人たちがいかに資金調達や投資、売買を簡潔に、早くできるかだと認識しています。私の考えているイメージは大きく3つのポイントがあります。
まず1つ目のポイントは、安価に資金調達ができることです。現状の仕組みを単にデジタル化するだけではなく、ブロックチェーンを利用することによってブロックチェーンの持っている能力や技術を最大限に生かすことが重要だと考えています。利用者の間で内容の正当性と一貫性を確保できるブロックチェーンが実用化されれば、デジタル化した未来で中間業者は最小化されることが予想されます。そうなれば、中間で発生していたコストの負担が減り、その結果、投資家にとってもより高い利回りが得られるようになります。
2つ目のポイントは、中間コストが減ることで、小規模な案件が取引できるようになることにあります。今まで証券を発行する時にはある程度のまとまった金額がないと採算が合わないことがありました。ですが、デジタル化が進めばかなり小規模な案件あるいは大きな単位を小さく分割しても採算が合うようなモデルができるようにります。そうすると、今までは買えなかったような案件でもオンラインで1,000円や1万円単位で容易に購入できるようになるので、投資家にとって投資先の選択肢が増えるというメリットがあります。
そして3つ目のポイントは、利便性の高さです。現在はあらゆる資産の取引でそれぞれの国の取引所を利用せざるを得ないので、取引にあたって時間帯などの制約を受けることになります。しかし、全てのトランザクションがブロックチェーン上で行われると、全世界24時間365日、どこにでもリーチできるようになります。結果、利便性が高くなり、グローバルで一つのマーケットになることができると考えています。
Q. あらゆる資産がデジタル化する過程について、既存の資産と並存しながら進んでいくのか、あるいは将来的に入れ替わるような移行していくのか、どのようにお考えですか。
小林さん:すぐに全てのものが同時にデジタルやトークン化して変わるのではなく、何段階を経て変化すると考えています。例えば、普通の東証で取引されている株式は、一秒間でものすごい単位のトランザクションを取引できるシステムがすでに存在しています。これをブロックチェーンの技術で取引をしようとすると、トランザクションスピードの観点で無理があると思います。技術開発が必要になると思いますので、必ずしもすべてのものが同時に、同じようなスピードで変わっていくのではなく、だんだんと波及していく。例えば、プライベート・エクイティなどの中小規模の取引から徐々に市場に浸透し、何段階か過程を経てシフトするのではないでしょうか。
デジタル証券を発行し、管理するITソリューションを提供
Q. 貴社の提供されているサービスについて教えていただけますでしょうか。
森田さん:Securitizeは金融機関ではなく、ITソリューション、いわゆるSaaS(Software as a Service)を提供している会社です。デジタル証券を発行し、APIを利用してシステムに組み込むサービスや、ソリューション全体のホワイトレーベル化など、多様なニーズに応えることができるソリューションを提供しています。
サービスの利用者は発行者、投資家、証券会社、原簿管理者などがいます。そういった人たちがそれぞれのアカウント権限を持って、Securitizeのプラットフォームで利用できる仕組みになっています。
Securitizeでは、様々な企業と連携するなど、エコシステムを重視しています。例えば、ウォレットの資産はウォレット管理を得意とする専門の業者に管理してもらうというかたちです。日本ではまだこのような方法でソリューションを提供している会社は少ないので、今後は提携できる企業の多さを武器につなげていきたいと思っています。
自社の強みをさらに強化して、そのほかの専門領域は他社と連携することでサービスを提供する。また、IT環境をゼロから構築することなく、デジタル証券を発行したりすることが簡単にできることもSecuritizeのサービスの強みです。
また、よくパブリックチェーンしか使えないと勘違いされますが、様々なニーズに答えることができるようパブリックチェーンとプライベートチェーンを選べる設計にしています。顧客やマーケットによって好まれるものが違うため、選択肢を与えるために弊社では両方のチェーンに対応できるプラットフォームを持っています。
個人的には、数年後の世界ではパブリックチェーンが主流になる可能性があると考えていますが、まだセキュリティ面での懸念点もあります。例えば社債など、一部のプロ投資家や関係者のみが参加しているマーケットもあり、一般の投資家が参加していないマーケットも世の中には無数にあります。そういったマーケットではパブリックチェーンを採用する必要がありません。また、機関投資家は自分たちの情報がパブリックチェーンに開示されることを良しとしないでしょうから、そういう場合にはプライベートチェーンが選ばれるでしょう。
多様なニーズや好みを満たせるサービスを提供することが、我々のゴールとしている「全ての資産を近代化する」ために必要だと考えています。
Q. いずれパブリックチェーンが主流になる可能性があるということでしたが、現状はいかがでしょうか。
森田さん:米国のアーリーアダプターはパブリックチェーンを採用する傾向にあります。しかし、日本では先ほど申し上げたようにプライバシーの問題を懸念されています。ですので、特に機関企業や大企業はプライベートチェーンで取り組みを始める場合が多いですね。
パブリックチェーンにまつわる課題としては、イーサリアムで起きているようなガス代の高騰なども挙げられます。こうした問題がクリアになってくれば、将来的にパブリックチェーンの採用が急増するのではないでしょうか。ただ現状としては、どちらかの一点張りにするのではなく、顧客のニーズに合わせて両方の選択肢を残しています。
Q. 貴社の事例について教えて下さい。
森田さん:日本で金商法が改正されましたが、新法に沿って発行されたデジタル証券は現時点ではまだありません。長年証券業務に取り組んできた証券会社が、実際にSTOを行うとなると、新たに定義された有価証券を取り扱うための登録や、システムの準備など、もう少し時間がかかるってしまうのが現状だと思います。
先日、住生活関連サービスを提供する株式会社LIFULL(ライフル)と業務提携を行い、不動産特定共同事業者(不特法事業者)向けのSTOスキームの提供を開始しました。
今回の協業では、既に不動産クラウドファンディング事業を展開している事業者をはじめとした不特法事業者が不動産STOを行う際、セキュリティトークン発行アプリケーション・トークン譲渡スキームを提供します。両者の知見を組み合わせることによって、不特法事業者のセキュリティトークン発行を支援・推進します。
【関連記事】LIFULLとSecuritize社、不動産特定共同事業者向けのSTOスキームの提供を開始。クラウドファンディングからSTOへの機能拡張をサポート
Q. 現在Securitizeで特に不動産領域に着目しているのはなぜでしょうか。
小林さん:Securitizeではどのような証券や資産でも取り扱いが可能です。その中でも不動産はセキュリティトークンが出てきてから比較的早く取引ができてきているアセットクラスの一つです。
不動産が先進的な理由の一つとしては、投資家の観点から見ると、実際の「もの」が見え、キャッシュフローが明確に把握できますし、他の業界に比べ将来性が比較的読みやすいからです。
Q. STO全体の市場も不動産領域の事例が多いのでしょうか。
小林さん:STOの市場は米国が一番早く進展が進んでいます。本社がある米国では、進行中の案件も含め、100社ほどの案件事例があります。
最初は、ベンチャーやブロックチェーン関係の企業が資金調達をする際にSTO を使ったことから始まり、現在ではスタートアップやIT企業の利用が増加しています。次に多いのが、不動産業で、続いて銀行や証券会社などの金融業が多い傾向にあります。
初めはベンチャーやスタートアップが多かったのですが、次第に大きな金融機関や企業がSTOに目をつけ始めている流れになっていて、徐々に今まで扱っていなかった業界へと浸透してきているのではないかと思います。
今後も一つ一つ実績を積み重ね、多くの企業との連携を強化を図る
Q. 事業者側での認知や整備が整いはじめ、関心の高い投資家への認知はすでに進んでいますが、より裾野を広げていくためにアプローチする方法などは検討されていますか。
小林さん:投資家、発行体、証券会社といったステークホルダー全員が「やってよかった」と思えるようなディールを一つ一つ積み重ねていくことが重要だと思います。プラットフォームを用意して「自由に使ってください」という姿勢ではなく、使うためのサポートを徹底的にすることが我々の役目だと感じています。
また、米国中心に100社を超えるクライアントがいるのも、他にはない弊社の最大の強みだと思っています。これは、ただ数が多いということだけではなく、それだけの顧客のニーズに応えていることになります。課題やニーズに触れた分だけ、新しい気づきがあるということです。今の段階では、まずは実行してみないと結果がわからないことが多く、その挑戦自体が財産となり、蓄積されています。我々はプラットフォームとしての強みがあるので、日本でも一つひとつの積み重ねが必要だと考えています。
Q. STOに興味を持っている読者にお伝えできればと思うのですが、個人投資家がセキュリティトークンに投資するメリットは何でしょうか。
小林さん:繰り返しになりますが、STOでは今まで投資できなかったような小規模案件に簡単に投資できること、また、コストが削減するため、同じような案件でもより高い利回りでの利用が可能になること、そしてセキュリティトークンが活用されれば24時間取引が可能なフレキシビリティのある環境になることですね。
森田さん:それに付け加えるとすれば、今までになかったユーザー体験を提供できる可能性もあることも挙げられます。簡単にいうと、オンライン上でセキュリティトークンの所有権を容易に証明できるようになります。所有権が証明できると、同じブロックチェーンに乗っているサービスの連携がしやすくなり、中には特典付きのセキュリティトークンも出てくるのではないかと考えています。
ゲーム領域でもDappsでキャラクターをトークン化するといったチャレンジも始まっているように、将来的にはセキュリティトークンを持っている人向けのサービスが充実するのではないでしょうか。
Q. 最後に、セキュリティトークンに注目している個人投資家が注目しておくべきトピックなどあれば教えてください。
小林さん:ぜひ、SecuritizeのTwitterをフォローしていただきたいと考えています。我々は業界のトップである自負と実績があるので、実際に100社ほどとディールをした実績がある会社は、他にいません。今は様々な実験や案件が進んでいるという報道もありますが、それらはPoCフェーズとも言える段階のものであることが多いです。
Securitizeの目指すところは、ボーダーレスな民主化です。もちろん投資家の皆さんも、グローバルで起こっていることを日本と同じくらい注目していく必要があります。グローバルという文脈はとても重要で、どんなに素晴らしいものを作っても日本でしか使えないのであれば、意味がありません。常にベクトルをグローバルに向けることが大切です。
また、Securitizeは米国でデジタル証券の文脈でSECにトランスファーエージェントとして登録した最初のブロックチェーン関連企業です。法令遵守は非常に重要なトピックで、STOで健全な市場を作れるかの鍵とも言えるでしょう。Securitizeでは、案件として問題ないのかという点について、当初から当局に認定してもらった上で事業を行っています。安全性や信頼性があるのか、という視点を常に意識することも重要です。
取材後記
STOの市場はまだ開拓されたばかりの領域です。今回は、STOならではの特徴をはじめ、市場を牽引していくSecuritizeの姿勢について伺うことができました。
米国での実績や知見を生かしつつも、様々な専門性をもつ異業種の企業と連携しながらエコシステムを作り上げていき、皆で「全世界の資産をデジタル化する」ビジョンへリードしていく動きに期待が膨らみます。
SecuritizeからはSTOの認知拡大に向けたコンテンツも寄稿していただいています。今後のSTOの動向に興味がある方は彼らの動きに着目してみてはいかがでしょうか。
【関連記事】STOが資金調達の未来である5つの理由
HEDGE GUIDE 編集部 Web3・ブロックチェーンチーム
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