小売業界の主なESG課題とサステナビリティの取組は?日米主要企業の動向も

※ このページには広告・PRが含まれています

小売業は、地球温暖化や気候変動などの環境問題に大きな影響を与えています。そのため、小売業は、脱炭素化やSDGs達成に向けて、積極的に取り組んでいます。

この記事では、小売業がどのようなESG課題に取り組んでいるのか、具体的な事例を交えて解説します。

※本記事は2023年7月21日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 小売業の約6割は中小
  2. 小売業の地球温暖化対策の取り組み
  3. 小売業の脱炭素への取り組み
  4. まとめ

1.小売業の約6割は中小

日本の産業構造の大きな特徴は、国内企業の99.7%が中小企業であり、大企業(その多くは上場企業)はわずか0.3%に過ぎないことです。たとえば、食品小売業でも、上位10グループのシェアは35.0%。トップのイオングループやセブン&アイ・ホールディングスでも10%程度シェアです。

参照:ダイヤモンドオンライン「食品小売45兆円市場、寡占化&シェア率ランキング ドラッグ急拡大!

大手企業による寡占は進んでおらず、中小を含めた多数のプレーヤーがしのぎを削っている状態です。

小売業を含むいかなる法人も、企業規模の大小にかかわらず、永続的な活動を前提として存在しています。しかし、世界の気温が上昇し続ければ、永続的な活動は難しくなります。

企業規模の大小にかかわらず、企業による経済活動の促進と社会生活の充実の副産物としてCO2排出量が同時に増加するという二律背反の構造を、改めて認識する必要があるのです。

2015年12月、フランス・パリで開催されたCOP21(気候変動枠組条約締約国会議)で「パリ協定」が採択されました。その際、地球温暖化の上昇を2℃以下に抑えるためには、2030年の二酸化炭素(CO2)排出量を2010年比で25%削減すること、少なくとも1.5℃以内に抑えるためには45%削減することが指摘されました。これは一般に「1.5℃の約束」として知られています。

日本でも、上場企業など大企業を中心に再生可能エネルギーの導入が進んでいます。その背景には、気候変動のリスクと機会を適切に開示するよう企業に促す国際的な取り組みである「気候変動に関連した財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)」の規約があります。TCFDの憲章では、企業は株主や投資家に対し、ESGへの取り組みにおいて具体的な数値的改善(定量的利益)を通じて削減を達成したことを証明するよう求めているのです。

定量的な削減効果を証明できなければ、グリーンウォッシング(みせかけの環境配慮)とみなされ、社会的信用を失うことになります。これは大企業にとっても手痛い制約であるため、中小企業への適用は困難です。

2.小売業の地球温暖化対策の取り組み

出典:日本チェーンストア協会

チェーンストア協会では、継続的に温暖化対策の2030年度の目標をクリアしていることから、目標値の引き上げを実施しました。目標値とは、2030年度における店舗ごとのエネルギー消費原単位の平均値(2次エネルギー換算値)を、基準年度2013年(0.0900kWh/㎡・h)比5.1%削減することです。

エネルギー消費削減の要因としては、プライベートブランドによる環境配慮型商品を展開(総合スーパー)、カーボン・オフセット付きシューズの開発・販売(総合スーパー)、産学協同プロジェクトで大学とオリジナルエコバッグを協同開発(食料品スーパー)、ギフトの簡易包装を推進(総合スーパー、食料品スーパー)などがあります。

3.小売業の脱炭素への取り組み

政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受け、多くの小売企業が脱炭素化への取り組みを始めています。なかでも、丸井グループ、イオン、セブン&アイ・ホールディングスが先行しており、SDGs(持続可能な開発目標)やESG課題への取り組みが企業価値を高め、消費者の商品選択につながり始めているのです。

さまざまな社会・環境問題の顕在化やステークホルダーの意識の変化に伴い、世の中から企業に求められる役割や責任はますます大きく、高いレベルになっています。

イオンは、2020年12月にオープンしたイオンモール上尾で使用する電力のほぼすべてを再生可能エネルギーに転換しました。化石燃料由来でないことを証明する「非化石証書」付きの電力を調達したほか、CO2を排出しないとされるカーボンニュートラルな都市ガスの供給を東京ガスから受けたのです。イオンは、2025年までにイオンモールが運営する国内全施設(155施設)で再生可能エネルギー100%を目指しています。

また、J. フロントリティリングは、2030年までにCO2排出量を2017年度比で40%削減すること、および2050年までに排出量ゼロを目標に掲げています。2022年4月には取引先を集めて排出量の測定と削減に取り組みました。

参照:J. フロントリティリング「CO2 排出量ゼロへ。

J.フロント リテイリングは、以下のような方法で事業の脱炭素化に取り組んでいます。

エネルギーおよび排出ガス削減 店舗、オフィス、およびすべてのサプライチェーンにおける事業活動で使用するエネルギーと排出物を継続的に削減
循環社会への対応 顧客や取引先とともに、家庭・店舗・オフィスで発生する廃棄物の再資源化に取り組み、資源の再利用や再生資源の活用を通じて、事業活動における資源効率の向上を図る

J.フロント リテイリングの脱炭素化の取り組みは、小売業全体の脱炭素化に大きな影響を与えることが期待されます。ただ、企業の自助努力に加え、国レベルでの調整も脱炭素の完全実現には課題です。

海外ブランド製品については、日本と本国で排出量測定基準が異なるケースもあります。今後は、本国で基準をクリアしていれば日本でもクリアしていると読み替えるなど、柔軟な運用を可能にするための基準合わせが必要になるでしょう。

4.まとめ

一部の外資系ブランドは、脱炭素への取り組みを出店の基準としています。商業デベロッパーは「テナントに選んでもらうため、当面はコストアップ分を転嫁しない」と述べています。

再生可能エネルギーの拡大は加速しそうではあるものの、非化石証書の買い取り価格など再生可能エネルギーのコストは高く、この負担をどう処理するかなどの課題もあるのです。

消費の分野では、消費者が地球環境や人権に配慮したブランドや商品を選択する「エシカル消費」が近年急速に広がり、ステークホルダーからの要請も強まっています。大手百貨店からは「脱炭素を実現するためには、イニシャルコストは高くても中長期的な視点に立った投資が必要」との声も聞かれ、小売り企業にはSDGsに沿った経営が強く求められているのです。

The following two tabs change content below.

山下耕太郎

一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。ツイッター@yanta2011