米インテュイティブ・サージカル(ティッカーシンボル:ISRG)は、手術支援ロボット分野で世界最大手です。
外科手術の向上や患者の負担軽減および医療費削減に繋がる製品開発を推進しています。
そこで今回は、インテュイティブの会社概要や製品の特徴をおさらいした上で、同社のサステナブルな取り組みや業績・株価動向、新NISA成長投資枠対応の組み入れファンドを紹介します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2022年11月6日時点の情報をもとに執筆しています。最新情報はご自身でもご確認の上、ご判断下さい。
目次
- 手術支援ロボット世界最大手
- 世界の医療用ロボット市場
- インテュイティブのサステナブルな取り組み
3-1 高品質と安全性を備えた製品開発
3-2 その他のサステナブルな取り組み - インテュイティブの業績・株価動向
- インテュイティブを組み入れる新NISA成長投資枠対応ファンド2選
5-1 野村ACI先進医療インパクト投資Bコース為替ヘッジなし資産成長型
5-2 アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Bコース(為替ヘッジなし) - まとめ
1 手術支援ロボット世界最大手
インテュイティブは、手術支援ロボット「ダビンチ」などを開発・販売する医療機器メーカーです。
創業年 | 1995年 |
売上高 | 62億ドル |
従業員数 | 12,100人超 |
ダビンチを利用した手術症例数 | 1,200万症例超 |
ダビンチ導入国、台数 | 70ヵ国で7,500台超 |
ダビンチを利用した外科手術 | 16.8秒ごとに1件開始 |
特許発行件数 | 4,300件超 |
査読(*) 論文数 | 34,000件超 |
(*)査読とは、著者と同じ分野の研究者に論文の内容を評価してもらうことです。学会誌に研究成果を載せる価値があるかどうかの判断や内容の批評をしてもらいます。
※参照:インテュイティブ・サージカル「ESG」、「Annual Report 2022」
同社の主力製品「ダビンチ」は、米スタンフォード大学を母体とする研究機関「SRIインターナショナル」が、米国防総省の研究機関「国防高等研究計画局(DARPA)」から資金を得た遠隔手術の研究が端緒になります。外科医が遠く離れた戦地でも手術を行えるようにすることが目的でした。
1995年には、SRIインターナショナルがインテュイティブをスピンオフ(会社の一部門を切り離し独立させること)し、インテュイティブに「ダビンチ・サージカルシステム」として知られるロボット手術システムをライセンス供与しました。
「ダビンチ・サージカルシステム」は、腹腔(ふくくう)鏡手術(*)用として世界で初めて米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けたロボット手術支援システムです。2000年に初代のシステムを市場に投入して以来、現在は第4世代モデルが発売されています。
(*)腹腔鏡手術とは、臍部(おへそ)の周囲から直径2~10 mmの内視鏡を腹腔内に挿入し、テレビモニター上に映し出された映像を見ながら手術を行う術式です。
※参照:SRI International「75 Years of Innovation: The Robotic Surgeon」、インテュイティブ・サージカル「Intuitive History」
ダビンチには以下のような特徴があります。
- 傷口が小さい低侵襲(負担)の手術
- 開胸手術や開腹手術と比較して手術痕が目立たず、出血量も少ない
- 手振れをコンピューターで補正するため、体の深部での動きを小さくできる
- 手術部位をカメラで自動撮影
- 3次元画像で細部を確認可能
- 臓器に触れた感覚(触感)がない
ただし、医師がモニターに映し出された映像を見ながらロボットのアームを動かし、遠隔操作が可能な腹腔鏡手術などに利用される手術支援ロボットであり、外科医を代替するものではありません。
ダビンチは日本においても普及しており、胃・肺・腎臓などのがんや心臓病など保険適用の術式が徐々に拡大しています。
インテュイティブの強みの一つは乗り換えコスト(*)の高さです。価格は億円単位と非常に高額であるほか、ロボット操作の習熟度を高める必要もあるため、高い参入障壁を構築しています。
(*)乗り換えコストとは、現在利用している製品・サービスから、別の製品・サービスに乗り換える際に負担する金銭的、物理的、心理的なコストを指します。
低侵襲手術で30年近くにわたるノウハウを有し、既にFDAをはじめ各国当局から認可も取得しています。2020年時点においては、世界の手術ロボット市場のシェアを約8割有する世界最大手です。
※参照:リサーチ・アンド・マーケッツ「Global Surgical Robotics Market Report 2021」
また、「ダビンチ」と共に販売される消耗品や高度な技術への保守・トレーニングといった、繰り返し利用される製品・サービスの売上高(リカーリング・レベニュー)が会社全体の80%ほどを占めています。
※参照:インテュイティブ・サージカル「J.P. Morgan Healthcare Conference 2023」
2 世界の医療用ロボット市場
世界の医療用ロボット市場は、2022年の116億6,000万ドルから2030年には722億2,000万ドルに達し、2022年から2030年にかけてCAGR(年平均成長率)で25.60%の成長が見込まれています。
世界の医療用ロボット市場(2022年~2030年、億ドル)
※Renub Research「Medical Robotics Market, Size, Global Forecast 2023-2030」を基に筆者作成
新型コロナのパンデミック(大流行)を受け、患者との接触を減らす非接触型の医療への需要が増え、医療用ロボットの導入が加速する見込みです。ロボット手術は、5Gや人工知能(AI)を活用した遠隔手術、自動手術などへの応用も見込まれています。
なお、これまで市場を独占してきたダビンチの主な特許が切れたことにより、新たなプレーヤーを交えた開発競争が激化している状況です。川崎重工業とシスメックスが折半出資するメデカロイド、アイルランドの医療機器大手メドトロニックなどが参入しています。
インテュイティブにとっては、市場シェアの維持・拡大に向けて、競合他社と差別化したロボットの開発や充実した保守・トレーニングサービスの提供、5GやAIを活用したデータサイエンス領域への応用が求められていると考えられます。
3 インテュイティブのサステナブルな取り組み
ここからはインテュイティブのサステナブルな取り組みを見ていきましょう。
3-1 高品質と安全性を備えた製品開発
まず、同社の主力製品「ダビンチ」は、精度の高い手術を期待できるほか、熟練した医師の操作データを共有して若手医師による手術に活かすことも可能です。世界的に医師が不足する中、人手の手術と比較して短時間でロボット操作を習得できます。
患者にとっても低侵襲手術で身体への負担を軽減し、入院期間の短縮や医療費の抑制に繋げることが期待できるでしょう。
これらのことから、インテュイティブは高性能な製品を開発、普及させていくことで、経済・社会により大きなポジティブインパクトをもたらせられると考えられます。
インテュイティブもESGの取り組みを推進する上で、社内のステークホルダーおよび業績に最も重要なトピックスとして、製品の完全性(最高の品質と安全性を備えた製品をコスト効率良く生み出すこと)を挙げています。
製品をESGの優先事項として挙げる中、インテュイティブが新たに市場に投入された「ダビンチSPサージカルシステム」は、従来の4本アームを1本にしました。
Da Vinci SP
※画像引用:インテュイティブ・サージカル「Intuitive Da Vinci」
主な特徴は以下の通りです。
- アクセスに制限のある深く狭い術野(手術部分)にアプローチ可能
- シングルポート(単孔式)の設計で患者の体への負担軽減
- 整容性(術後の外観)の向上
- ロボットアームは360度回転、アーム同士の干渉も無くす
- 3Dハイビジョン内視鏡(カメラ)で鮮明な術野画像を撮影可能
- カメラは手首関節機能を搭載し、角度・方向を自由に操作可能
従来モデルは、3本の鉗子(かんし)と内視鏡を4本のアーム(マルチポート)に分け、患者の体に4つの穴を開けていました。
一方、新型機では最大4つの手術器具を取付け、直径2.5cmのカニューラと呼ばれる筒を通して体腔(たいくう)内に挿入します。最小1つの穴で治療することで、患者負担の軽減を期待できます。
切開創が1つで済むことは、より低侵襲の手術が可能になる一方、単孔式手術は非常に難易度の高い手術とされており、「ダビンチSPサージカルシステム」のような手術支援ロボットの活用拡大が見込まれます。
狭くて長い咽頭など小さなスペースでの手術に強みを持ち、従来機を導入した病院が、手術のバリュエーションを拡大するための追加購入を想定しています。日本では2023年1月より販売が開始されました。アームが1本の内視鏡手術支援ロボットが日本で発売されるのは初めてになります。
3-2 その他のサステナブルな取り組み
その他にも、インテュイティブは様々なサステナブルな取り組みを通じて社会にポジティブインパクトをもたらしています。
- 外科医のトレーニング環境整備、研修会の実施
- 豊富な手術症例データの共有、活用
- AI医療の推進
医療機関で「ダビンチ」のような手術支援ロボットの導入が進む一方で、手術技術習得に向けたトレーニングサービスも求められている状況です。そのような中、インテュイティブは2022年に外科医であれば誰でも参加できる研修を7,400回以上実施しました。
インテュイティブは外科医による「ダビンチ」の操作習熟度向上に向け、仮想環境トレーニングシミュレーター「SimNow」も提供しています。2022年には、同シミュレーターを通じた手術トレーニング時間は4万9,000時間超に達しました。
※画像引用:インテュイティブ・サージカル「SimNow」
また、いち早く手術支援ロボットを世界に普及させた先行優位性を活かし、ダビンチの豊富な手術症例データの活用を進めています。例えば、手術の術式や所要時間などのデータを自動収集および共有できる外科医向けアプリ「マイ・インテュイティブ」を提供しています。
執刀医にとっては、スマホにアプリを連携させることで、時系列データやダビンチ導入施設の全国平均値などを把握でき、技術の向上や習熟度の確認が可能です。
さらには、手術の動画を収集して学習させたAIをダビンチと連動させたAI医療の取り組みも推進しています。手術中のモニター画面内で、血管や神経などを色づけし、執刀医が誤って切除するのを防ぐことなどが想定されています。
※参照:インテュイティブ・サージカル「ESG」、インテュイティブ・サージカル「J.P. Morgan Healthcare Conference 2023」
4 インテュイティブの業績、株価動向
ここからはインテュイティブの業績や株価動向を見ていきましょう。
過去5年間(2018年と2022年)を比較した業績は、売上高、利益共に順調に拡大しました。
- 売上高は68%増(37億ドルから62億ドルへ)
- 希薄化後一株当たり利益(EPS)は16%増(3.16ドルから3.65ドルへ)
収益性(5年平均)については良好な水準を確保しています。
- 営業利益率は29%
- 株主資本利益率(ROE)は15%
- 投下資本利益率(ROIC)は15%
※参考:Morningstar「ISRG」
インテュイティブは配当を支払っていませんが、自社株買いを通じた株主還元策を実施しています。
株価に目を転じると、2017年12月31日を基準日とする5年間の累積トータルリターンは、ナスダック、S&P500およびS&P500ヘルスケア指数をいずれも上回りました。
※参考:インテュイティブ・サージカル「2022 ANNUAL REPORT」
今後の株価推移についてはアナリストの目標株価を確認しましょう。22名のアナリストによるコンセンサス・レーティングは「Strong Buy(強い買い推奨)」です(2023年11月6日から遡って過去3ヵ月間の評価)。
目標株価の平均値(12ヵ月後)は332.29ドルと、11月3日終値と比較して約19%の上値余地を残します。アナリスト予想の最高値は400ドル、最安値は265ドルです。
株価
価格 | |
---|---|
目標株価の平均値(12ヶ月後) | 332.29ドル |
2023年11月3日終値 | 278.52ドル |
アナリスト予想
価格 | |
---|---|
最高値 | 400ドル |
最安値 | 265ドル |
※参照:Nasdaq 「ISRG Analyst Research」、Yahoo Finace 「ISRG」
5 インテュイティブを組み入れる新NISA成長投資枠対応ファンド2選
ここからはインテュイティブが組み入れられているファンドを紹介します。
- 野村ACI先進医療インパクト投資Bコース為替ヘッジなし資産成長型
- アライアンス・バーンスタインの「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Bコース(為替ヘッジなし)
両ファンドは、2024年1月から始める新しい小額投資非課税制度(NISA)の「成長投資枠」で購入できる投資信託です。
※参考:投資信託協会
5-1 野村ACI先進医療インパクト投資Bコース為替ヘッジなし資産成長型
まずは、野村アセットマネジメントの「野村ACI先進医療インパクト投資Bコース為替ヘッジなし資産成長型」です。
同ファンドは、製薬、バイオテクノロジー、医療機器、医療・健康サービス関連企業などの内、先進的な医療技術の発見・開発や、先進的な医療サービスの提供に寄与するもしくはその恩恵を受けると考えられる企業(先進医療関連企業)を主な投資対象とします。
投資テーマは「革新的な治療の提供」、「医薬品・医療サービスへのアクセス」、「医療費削減のソリューション」、「効果的な医療機器・サービスなど」です。
他の組み入れ銘柄としては、米国最大の民間医療保険会社のユナイテッドヘルス・グループ、製薬大手イーライ・リリー、医療機器から水質調査ツールまで幅広い事業に取り組む機器メーカーのダナハーなどが組入上位10銘柄に含まれています。
※参考:野村證券「野村ACI先進医療インパクト投資 Bコース 為替ヘッジなし 資産成長型」
1年間、3年間のトータルリターンはいずれも、同一カテゴリー(国際株式・北米)を下回っています(2023年9月30日時点)。設定来では+62.27%のパフォーマンスです。コスト(信託報酬率)はフィーレベル・カテゴリー(先進国株式・アクティブ)において平均的となります。
販売会社は野村證券、筑波銀行、岩井コスモ証券、静銀ティーエム証券です。
「野村ACI先進医療インパクト投資Bコース為替ヘッジなし資産成長型」は、野村證券が実施中の「野村ではじめる!「ESG投資」応援キャンペーン」の対象銘柄です。同キャンペーンは、2025年12月30日までに対象銘柄を「投信積立」で購入した場合、毎月の購入金額合計50万円までの購入時手数料相当額をキャッシュバックするものです。
※参考:ウエルスアドバイザー「野村ACI先進医療インパクト投資B H無 資産成長」
5-2 アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Bコース(為替ヘッジなし)
続いては、アライアンス・バーンスタインの「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Bコース(為替ヘッジなし)」です。
同ファンドは、主として成長の可能性が高いと判断される米国株式に投資します。
インテュイティブに加え、IT大手マイクロソフト、クレジットカード大手VISA、半導体大手エヌビディア、飲料大手モンスター・ビバレッジ、バイオ医薬品バーテックス・ファーマシューティカルズなどが組み入れ上位銘柄として挙げられます。
参考:アライアンス・バーンスタイン「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Bコース(為替ヘッジなし)」
10年間のトータルリターンは、同一カテゴリー(北米)を上回る運用成績を上げています(2023年9月30日時点)。設定来の運用パフォーマンスは+383.4%です。信託報酬率はフィーレベル・カテゴリー(先進国株式・アクティブ)において平均より安い水準になります。
販売会社はSBI証券、楽天証券、マネックス証券、auカブコム証券、イオン銀行などです。
※参考:ウエルスアドバイザー「AB・米国成長株投信Bコース(H無)」
「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Bコース(為替ヘッジなし)」は、R&Iファンド大賞2023で投資信託10年/北米株式グロース部門にて最優秀ファンド賞を、リフィニティブ・リッパー・ファンド・アワード・ジャパン2023で最優秀ファンド賞を受賞しました。
まとめ
インテュイティブは、過去5年間において大幅な業績拡大と代表的な指数を上回る株価パフォーマンスをあげました。患者負担の軽減に繋がる製品の開発やAI医療など、サステナビリティの取り組みも推進しています。
手術支援ロボット業界のパイオニアである同社が、経済的、社会的にポジティブインパクトをもたらす取り組みを実践し、業界をリードしていくことに今後も期待したいです。
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