昨今、2015年9月に国連が掲げたSDGs(持続可能な開発目標)に配慮した活動が世界中で盛んになっています。
SDGsでは、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するために、以下17つの目標を掲げています。
こうした取り組みの中で注目されている技術の一つがブロックチェーンです。多数の人々との間で価値を可視化しやり取りができるこの技術により、今まで実現が難しかったソーシャルバリューの創出が期待されています。
この記事では、日本における「SDGs×ブロックチェーン」の取り組み事例をご紹介します。まだ日本においては活発とは言えない分野ですが、少しずつ新たな取り組みが始まっています。
目次
- 社会貢献活動にトークンで報酬を「actcoin」
- 富山県の活性化を目指す地域通貨「Yell TOYAMA」
- 地方創生×ブロックチェーン×SDGs「KITハッカソン」
- エシカル消費を可視化する、日本×フランスの挑戦
- まとめ
1.社会貢献活動にトークンで報酬を「actcoin」
渋谷区のソーシャルアクションカンパニー㈱が運営するプロジェクトが「actcoin(アクトコイン)」です。actcoinは、ボランティア活動への参加や寄付といった社会貢献活動を行ったユーザーに独自トークンを配布するWebサービスです。
ユーザーはactcoinのサービスを通じて、SDGsの17の目標それぞれに沿った支援を行うことができます。いわば「誰でもSDGsに配慮した社会貢献活動ができ、報酬も貰える仕組み」というものです。
2019年5月17日時点では、上記キャプチャのような社会貢献活動イベントへの参加募集がなされています。プロジェクトごとにSDGs目標のうち「どれに該当するのか」が記載されているほか、参加することで受け取れるactcoinの数量も分かります。
イベントは例えば「SDGsをカードゲームを使って学ぶ」といったものや「ウガンダのエイズ孤児の現状を伝える出張報告会」、学生ボランティア活動支援、市民参加型まちづくり活動など多岐に渡ります。
貯まったコインは日本円などの法定通貨に直接換金することはできず、NPOへの寄付やエシカル(倫理的な)商品との交換、社会貢献活動を行う個人への支援といったことに使用できるようになります。
また、actcoinを通じて社会貢献活動に参加したユーザーの活動履歴は可視化されるため、ユーザー自身の興味関心や活動実績のPR、同じ興味関心を持った仲間との新たなコミュニケーションなどにも活用することができます。
actcoinは、ブロックチェーンを用いて新たな社会貢献活動を活性化する仕組みの構築と、活動する人々のネットワークを形成しようとしている画期的な試みと言えるでしょう。
2.富山県の活性化を目指す地域通貨「Yell TOYAMA」
「応援」という意味を持つ地域通貨プロジェクト「Yell TOYAMA」。近年、日本各地でブロックチェーンを活用した地域通貨プロジェクトが立ち上がっていますが、Yellもそのうちの一つです。
日本の地方都市は人口減少と経済の衰退により苦境に立たされていますが、近年はこのような「住み続けられるまちづくり」に繋がる地域活性化の活動が盛んになってきており、にわかに新たなローカルビジネスの潮流が生まれてきています。
富山県に縁があるなどで富山を応援したいユーザーは、専用のウォレットアプリ上で法定通貨を用いてYellコインを購入します。購入したコインは県内の様々な加盟店やイベントでの決済などに利用することが可能です。また、地域事業者を応援するクラウドファンディング等にも将来的に活用できるよう準備が進んでいます。
Yellはキャッシュレス決済やインバウンド観光の促進という効果に加え、コインと合わせて「地域を応援するメッセージ」を贈る「YOSEGAKI機能」を有しています。これによって、単なる決済手段ではない「応援を地域や人々に伝えるツール」として機能することになります。
これまで地域を応援する活動は全国各地で行われてきました。しかし、活動内容も貢献度も人それぞれなうえ、「誰がどのような行動をして、どのように地域貢献したか」という情報は可視化されていませんでした。
ですが、Yellのような地域を応援できるプラットフォームが存在することで、actcoinと同じように、応援する人・活動する人の実績がシェアされ、可視化され継続的な情報交換がしやすいコミュニティが生まれることになります。こうなると、より富山に想いを寄せる人々が町のためになる活動をしやすくなるでしょう。
3.地方創生×ブロックチェーン×SDGs「KITハッカソン」
地方にありながらも最新技術の一つであるブロックチェーン技術の研究に注力している金沢工業大学の「AIラボ」が主催するハッカソン(アプリ開発コンテスト)が「KITハッカソン」です。
このKITハッカソンは2014年に第1回を開催し、以後年2回のペースで「地方創生×AIを中心としたテクノロジー」をテーマにして石川県内で開催されています。大手IT系企業やベンチャーキャピタルなどもハッカソンに協賛し、産学連携の取り組みとして注目を集めています。
ブロックチェーン×SDGsを題材にしたハッカソンは2019年3月に実施されました。そこではブロックチェーンを応用して「豊かな地域社会のコミュニティ」や「豊かな自然環境」という目に見えない資本を可視化し、価値を創出することを期待するとのことです。
ハッカソン参加者は地方創生やSDGsの目標を踏まえたアプリを3日間で開発し、その結果は最終日に「斬新さ」「経済効果」「技術」「既存産業との共存」「社会貢献度」という5つの要素から審査されます。
このような取り組みにより、地方都市においてもSDGsに対する知見やブロックチェーンなどの最新技術を扱うスキルが育つ環境が生まれてくることが期待できます。これが広がることで、将来的な日本という国の経済・社会のあり方、また人々のライフスタイルやワークスタイルのあり方にも大きなインパクトが起こるかもしれません。
4.エシカル消費を可視化する、日本×フランスの挑戦
㈱電通国際情報サービスとシビラ㈱、そしてフランスのバルドワーズ県経済開発委員会は、ブロックチェーンを活用してエシカル消費を可視化するサービスの実証実験を、パリ市内のレストランにて2019年5月8日~10日にて実施しました。
エシカル消費とは、商品やサービスの購入時に「社会や環境に配慮しているかどうか」を重視して購入を決める新しい消費行動のことを指します。世界的な環境意識の高まりから注目を集め出し、特にヨーロッパを中心に広がりを見せています。環境意識が高いフランスなどの国では、エシカル消費を行う消費者のコミュニティが複数存在しているほどです。
エシカル消費においては、価格や素材、品質といった従来表示されていた指標ではなく、例えば「環境への配慮度」や「動物虐待防止策の整備状況」、「商品が作られた理由・ストーリー」といった情報が重視されます。そのため、事業者はそれらを消費者に信頼される形で共有する必要があります。
しかし、それらの指標は従来の指標と異なり可視化が難しく、したがって消費者への証明が難しいという問題があります。そこで、この取り組みでは「書き込まれた記録の改ざんがほぼ不可能」「簡単に情報をあらゆる人々に共有できる」という特徴を持ったブロックチェーンを活用することで、エシカル消費者の信頼に足る情報提供を目指しています。
ブロックチェーンを活用した類似の取り組みとして、サプライチェーン(商品の流通経路)マネジメントへの応用が盛んに行われていますが、SDGsに配慮したエシカル消費の文脈でブロックチェーンが活用されるのは世界初の試みとしています。
この実験においては、完全無農薬かつ植物性堆肥でのブドウ育成にこだわった宮崎県綾町産のワインが用いられました。土作りから葡萄の作付け・収穫・醸造・加工・出荷・輸送まで、すべての履歴をブロックチェーンに記録し、フランスまで空輸・販売がなされました。
これにより、ワインを生産した「香月ワインズ」の自然生態系への負荷を極限まで低減したワイン作りへの生産哲学をエシカル消費者に訴求し、それがどう注文に繋がるかということと、そのワインの注文というエシカル消費が「ユーザー自身の行動履歴・評価」として蓄積される仕組みの有効性が検証されました。
ちなみに、この実験により発生した売上は、全てノートルダム大聖堂の復興費用として寄付されるとのことです。
従来、消費行動の履歴を大切にしているのは、それが売上向上に繋がる事業者に限られていました。しかし、このような「エシカル消費を推奨し、かつエシカル消費をしていることを他者に共有できる」という取り組みによって、個人においてもより消費行動を意識する社会に変化していくのかもしれません。
まとめ
ここでご紹介した以外にも、SDGsに配慮した取り組みをブロックチェーンで実現しようという動きはいくつか始まっています。また、世界に目を向ければ、多くのプロジェクトが始まっていることに驚くかもしれません。
ブロックチェーンは強固なセキュリティを担保したP2Pネットワークにより、消費者間(CtoC)での相互の価値や情報のやり取りを行いやすくする能力を有しています。この仕組みに注目し、地域活性化に繋がる地域通貨の仕組みや、改ざんを防げる各種履歴の記録、権利と価値の可視化・交換ができる取り組みなどが続々と生まれています。
従来、こうした仕組みを開発し提供するのは資本力のあった大企業が主でしたが、ブロックチェーンを用いることで上記のようなシステムの開発コストを削減でき、また複数のステークホルダーとのリスク管理・分散も簡単になったことから、複数の個人や小規模企業のコンソーシアムでも仕組みの構築がしやすくなりました。
これにより、今までは実現が困難だった様々なソーシャルビジネスの可能性が広がり、今ではブロックチェーンがSDGs達成のための重要な役割を担うテクノロジーの一つとして捉えられているのです。
まだ未知数な部分や不完全な部分も多いブロックチェーン技術ですが、今後もそのポテンシャルには目が離せません。
すずき 教平
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