社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に伴い、様々なデータを収集・分析し、持続可能な社会の実現につなげる動きが加速しています。二酸化炭素排出量やエネルギー・資源の消費量の可視化など、IT企業の技術力が欠かせないものとなっています。
この記事では、国内IT企業のESG・サステナビリティに対する取り組み状況について紹介しています。ESG投資を検討している方は、参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年7月31日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- IT企業がESG・サステナビリティに取り組む必要性とは
- 国内IT企業のESG・サステナビリティの取り組み状況
2-1 富士通(6702)
2-2 NTTデータグループ(9613)
2-3 日立製作所グループ(6501)
2-4 NEC(6701) - まとめ
1 IT企業がESG・サステナビリティに取り組む必要性とは
IT企業が、ESG・サステナビリティに積極的に取り組むことには、様々な意義があります。その一つが環境負荷の低減です。エネルギー効率の良い製品・システムを開発することで、エネルギー消費量や二酸化炭素排出量を削減することにつながります。
また、デジタル化を進めることで、個人や企業の環境負荷を可視化する動きが進んでいます。従来見えなかった二酸化炭素排出量などのデータを分析することで、様々な企業による自社の環境負荷低減の取り組みや、社会全体の持続可能性に寄与する新たな製品・サービスの開発が加速することが期待されています。
2 国内IT企業のESG・サステナビリティの取り組み状況
国内の多くのIT企業は、その技術力を生かし、顧客や社会全体のESGやサステナビリティに対して積極的に取り組んでいます。そこでこの記事では、大手IT企業各社のサステナビリティ戦略や具体的な取り組み内容を紹介したいと思います。
2-1 富士通(6702)
国内外のITサービス分野をけん引する富士通は、顧客のDX実現と持続可能なエコシステム形成を支援しています。同社のサステナビリティに対する取り組みは外部団体からも評価されており、Dow Jones Sustainability Indices(Asia Pacific)や、ロンドン証券取引所の出資会社であるFTSE社のFTSE4Good Index Seriesといった指標を構成する企業として選出されています。
持続可能な社会の実現に貢献するため、富士通は自社のサステナビリティ重要課題を「グローバルレスポンシブルビジネス(Global Responsible Business、GRB)」という名称で設定しています。2025年に向けたGRBは、以下の6項目から構成されています。
- 人権・多様性
- ウェルビーイング
- 環境
- コンプライアンス
- サプライチェーン
- コミュニティ
また重点注力分野として、「Sustainable Manufacturing」「Consumer Experience」「Healthy Living」「Trusted Society」等7つの領域を挙げています。
環境価値取引プラットフォーム
具体的な取り組み事例の一つが、2022年4月IHI社とともに開始した、環境価値取引エコシステム活性化に向けた共同事業プロジェクトです。両社のブロックチェーン技術やカーボンニュートラル関連技術と知見を生かし、二酸化炭素削減量を環境価値としてトークン化し、市場に流通させるプラットフォームの立ち上げを目指しています。これにより、二酸化炭素削減にかかわる環境価値が世界規模で取引され、市場が活性化することで、世界的な脱炭素化の動きに貢献することが期待されています。
植物由来の水取引プラットフォーム
国外の事例としては、2022年に英国のBotanical Water Technologies社(BWT社)とともに、植物由来の純水取引を可能にする当時世界初となる水取引プラットフォームを構築しました。従来、食品工場で野菜や果物を圧縮した際に発生する大量の水が、高コストをかけて破棄されていました。こうした水分を浄化・精製するBWT社の技術と、世界規模での取引を可能とする富士通のブロックチェーンソリューション「FUJITSU Track and Trust」を組み合わせ、植物由来水取引プラットフォームを構築したのです。
浄化・精製された水は、飲料水、工業用や原料用として利用することが可能です。このプラットフォームにより、水精製から販売・配送までのトレーサビリティを確保し、世界規模の水不足の解決と環境負荷の低減に寄与することが期待されています。
交通量のリアルタイムシミュレーション
また、ドイツではハンブルグ港周辺の交通問題を解決するため、ハンブルグ港湾局とグラーツ工科大学とともにプロジェクトを開始しました。富士通の量子インスパイア―ド技術「デジタルアニーラ」を用い、個々の車両の動きと、実証実験エリアの全交差点の信号をリアルタイムにシミュレーションすることで、対象エリアの交通流の最適化に取り組みました。物流が促進されることで、二酸化炭素排出量を最大9%削減し、移動時間を20%短縮するといった効果があったと同社は発表しています。
このように、富士通は国内外のパートナーと提携しながら、DX技術を生かし様々な分野の社会課題の解決に取り組んでいます。
(※参照:富士通「サステナビリティ」「富士通グループサステナビリティデータブック2022」)
2-2 NTTデータグループ(9613)
1988年の設立以来、日本のSI業界をけん引するNTTデータも、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいるIT企業の一つです。Dow Jones Sustainability Index (World及びAsia Pacific)、FTSE4Good等の外部機関・外部指標においても、その取り組みが評価されています。
Environment(環境)、Economy(経済)、Society(社会)の3つの軸でアプローチをしており、自社のサステナビリティ経営のマテリアリティ(重要性の高い項目)として、以下の9つを設定しています。
- Carbon Neutrality(カーボンニュートラル)
- Circular Economy(循環型経済)
- Nature Conservation(自然資本の保全)
- Smart X Co-innovation(共創によるイノベーション)
- Trusted Value Chain(安心安全でレジリエントな企業活動)
- Future of Work(働き方改革の推進)
- Human Rights &DEI(多様性と人権の尊重)
- Digital Accessibility(誰もが等しくアクセスできるサービス)
- Community Engagement(地域社会の発展)
脱炭素については、NTT DATA Carbon-neutral Vision 2050を策定し、2050年までにScope 1、2、3の温室効果ガス排出ネットゼロの実現を目指しています。そのために、「自社のサプライチェーンにおける排出削減(Green Innovation of IT)」に加え、「顧客・社会のグリーン化への貢献(Green Innovation by IT)」の2つの軸で取り組んでいます。
温室効果ガス排出量の可視化・シミュレーション
「Green Innovation by IT」の一例として、顧客企業の脱炭素化を支援するコンサルティングサービスの一環で、温室効果ガス排出量の可視化を支援するプラットフォーム「C-Turtle™」を提供しています。また、三菱重工(株)のAIソリューション「ENERGY CLOUD®」を活用し、燃料や設備構成を変更した場合の排出量、コスト、生産量をシミュレーションすることで、最適な設備投資の計画立案を支援しています。加えて、排出量のリアルタイムモニタリングや、製品単位・生産ライン単位のカーボンフットプリントの把握により、顧客のサプライチェーン全体での排出量削減に貢献することを目指しています。
ごみ分別状況の可視化とリサイクル促進支援
また国外の事例として、イタリアのエミリア・ロマーニャ州では、NTT DATA Italiaが水・廃棄物サービス公社に廃棄物管理を行うWeb アプリケーションを導入し、効率化を支援しています。従来手作業で行われていたデータ管理が、アプリ上で管理できるようになったことで、自治体ごとに分別されていないごみの量に応じて課税する変動料金体系を導入するなど、住民のごみ分別とリサイクル促進につながる施策づくりに貢献することを目指しています。
スマート養豚プロジェクト
共創によるイノベーションの分野では、ニッポンハムグループと「スマート養豚プロジェクト」を進めています。AI、IoT技術を活用し、豚の行動データや豚舎環境のデータを収集、分析し、飼育管理ナビゲーションシステムを共同開発しています。飼育員の負担軽減、豚のストレス軽減や、餌・エネルギー効率改善が期待されています。
このように、国内大手SIerとして長年培った自社のテクノロジーと、他社との協業・共創により、持続可能性に貢献する様々なイノベーションとソリューションの提供に努めています。
(※参照:NTTデータ「サステナビリティレポート」)
2-3 日立製作所グループ(6501)
エネルギー、モビリティ、デジタルシステムなど様々な領域で社会インフラを担う日立グループもまた、MSCIジャパンによるESGセレクト・リーダーズ指数、S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数などの外部団体・外部指標により評価されている企業です。
自社のサステナブル経営におけるマテリアリティとして、以下の6つのマテリアリティと、それぞれにひもづく15のサブ・マテリアリティを特定しています。
- 環境
- レジリエンス
- 安全安心
- 幸せな生活
- 誠実な経営
- ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン
環境面では、バリューチェーンを通じて2030年度に二酸化炭素排出量を50%削減すること(2010年度比)、2050年度にカーボンニュートラルを達成することを目指しています。その実現に向けて、気候変動や環境問題への取り組みを包括的に推進するグループ戦略、「グリーントランスフォーメーション(GX)」を打ち出しています。
社会インフラ企業である日立グループでは、自社のバリューチェーンにおける二酸化炭素排出量のうち、製品・サービスの使用時の排出量が82.4%を占めており、この部分の改善に取り組む必要があります。GX戦略の一つである「GX for GROWTH(成長)」は、顧客の二酸化炭素排出量削減に貢献することを目指しており、環境負荷の小さい製品への切り替えや、二酸化炭素排出量を可視化するためのデジタルソリューション(DXソリューション)の提供、新たなグリーン技術への投資などを促進しています。
例えば、エネルギーやモビリティ領域であれば、送配電の高効率化、風力などの非化石エネルギーを活用した発電システムの普及、鉄道の省エネルギー化などです。また、物流、工場、都市、家電、医療など様々な事業分野でのデジタル化を進め、データを収集・活用し、従来の機能や品質を維持しながら、省エネルギー化と二酸化炭素排出量削減に取り組んでいます。
もう一つのGX戦略である「GX for CORE(コア)」は、日立グループの社内生産活動に焦点を当てた取り組みです。具体的には、再生可能エネルギーへの投資や省エネルギー関連プロジェクトの推進、製品の再設計などを通じて、二酸化炭素排出量の削減を図っています。「GX for GROWTH」と「GX for CORE」の両方を推進することで、社会全体の脱炭素化を支援する取り組みを行っています。
(※参照:日立製作所「サステナビリティレポート」)
2-4 NEC(6701)
NECは、自社のESG視点の経営優先テーマ(マテリアリティ)として、以下の7つのテーマを特定しています。気候変動の観点では、2050年に二酸化炭素排出量を実質ゼロにするため、自社の環境経営を加速させるだけでなく、顧客のDX化を支援することで、社会の脱炭素への移行をサポートしています。
- 気候変動(脱炭素)
- セキュリティ
- AIと人権
- 多様な人材
- コーポレート・ガバナンス
- サプライチェーンサステナビリティ
- コンプライアンス
例えば、NECは太陽光発電などのエネルギー設備や電気自動車などの装置において、ICTを用いた制御技術を提供しています。具体的には、IoT技術を活用したリソースアグリゲーションのクラウドサービスを提供しており、様々なデバイスやセンサーを接続し、データを収集・分析することで、エネルギー設備や装置の効率的な制御や管理を支援しています。このサービスを活用することで、太陽光発電の効率を上げるとともに、電力系統の安定化や、顧客が管理している分散電源の制御の効率化が期待されており、結果として社会全体の脱炭素化の推進に寄与することを目指しています。
また、二酸化炭素排出量を可視化するソリューションも展開しています。「GreenGlobeX」というクラウドサービスでは、二酸化炭素排出量、エネルギー・水使用量、廃棄物量などの環境データを収集・管理ができるようになります。NECは、GreenGlobeXにより自社の環境負荷も可視化し公開しています。2022年には、アメリカのSINAI Technologies社というネットゼロ目標達成までの変革を支援するソフトウェア企業と協業を開始し、脱炭素への取り組みをデータの可視化から排出量削減提案までトータルでサポートする体制を整えています。
(※参照:NEC「サステナビリティ経営」、「DXで環境課題の解決を。”地球と共生する” NECの環境ソリューション」)
3 まとめ
IT企業が技術力を生かし、様々なデータを収集・分析することで、二酸化炭素排出量やエネルギー・資源の使用量が可視化され、環境負荷を抑えた事業運営やサプライチェーンの再構築を後押しすることへの期待が高まっています。自社にとどまらず、顧客や社会全体の持続可能性につながることから、投資家や顧客、社会からの関心も高まっています。IT企業が持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組むことは、企業価値の向上や競争力の強化にもつながるでしょう。
国内IT企業によるESG・サステナビリティの取り組み内容や、ESG投資に関心のある方は、この記事を参考にご自身でもお調べになった上で検討してみてください。
HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム
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