今回は、グリーとアバランチの提携について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- グリー株式会社とは
1-1.グリーの概要と沿革
1-2.グリーの事業内容 - アバランチとは
2-1.アバランチの概要
2-2.開発元である「Ava Labs(アバ・ラボ)」 - アバランチの特徴
3-1.イーサリアムキラーとして注目
3-2.独自の「アバランチ・コンセンサス」
3-3.独自のブロックチェーンを構築可能
3-4.インターオペラビリティを実現している - グリーとアバランチが提携する目的
4-1.ブロックチェーンゲーム事業の拡大 - 今後の動向
5-1.Web3.0ゲームの開発および提供
5-2.アバランチ・ブロックチェーンの性能向上
5-3.ブロックチェーンゲーム開発に伴うサポート
5-4.共同出資の実施 - まとめ
22年10月28日、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「GREE(グリー)」の運営でしられるグリー株式会社が、レイヤー1高速ブロックチェーン「アバランチ(Avalanche)」の開発を手がけるAva Labs(アバ・ラボ)との戦略的パートナーシップを発表しました。
グリーは9月27日にWeb3.0事業への参入を発表しており、今回の提携もその延長線にあります。そこで今回は、グリーとアバランチの戦略的パートナーシップ締結について、その概要や目的、今後の動向などを詳しく解説していきます。
①グリー株式会社とは
1-1.グリーの概要と沿革
グリー株式会社は、04年12月に設立された、東京に本社を構える総合インターネット企業です。
グリーといえば、冒頭でも触れたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「GREE(グリー)」が広く知られていますが、モバイルゲームやブロックチェーンへと事業範囲を拡大しています。
05年6月には世界初のフィーチャーフォン版SNSの提供をスタートし、07年5月には世界で初の事例となるモバイルソーシャルゲーム「釣り★スタ」をローンチしました。
08年12月には東京証券取引所マザーズに上場、続けて10年6月には東京証券取引所市場第一部に上場を果たしました。
11年以降は、北米子会社GREE International, Inc.を設立。国内ではベンチャーキャピタル事業を担うグリーベンチャーズ株式会社、特例子会社グリービジネスオペレーションズ株式会社などを設立しました。
その後も事業規模を拡大し続けIT業界において確固たる地位を築くに至ります。
16年5月には日本国内最大規模となるVRカンファレンス「Japan VR Summit(JVRS)」を開催。
21年8月には、ブロックチェーン業界の盛り上がりを受けて、メタバース事業への参入を果たし、22年7月にはWeb3.0事業を推進することを目的として、新たにシンガポール法人である「BLRD(ブラード)」を設立しました。
今回の「Ava Labs(アバ・ラボ)」との提携も、このBLRDを介して行われています。Web3.0領域におけるグリーの今後の展開に注目が集まっています。
1-2.グリーの事業内容
グリーの主な事業内容は下記の通りです。
・ゲーム・アニメ事業
・メタバース事業
・コマース事業
・DX(デジタルトランスフォーメーション)事業
・マンガ事業
・投資・インキュベーション事業
②アバランチとは
2-1.アバランチの概要
「アバランチ(Avalanche)」とは、米国を拠点とするAva Labs(アバ・ラボ)によって開発されたブロックチェーン基盤です。20年9月にメインネットを公開しました。
アバランチ・ブロックチェーンは、「DeFi(分散型金融)」に関連したアプリケーションや、スマートコントラクトを必要とするユースケースにおいて使用可能なブロックチェーンの開発を目的として生み出され、その性能の高さから現在、数多くのプロジェクトに採用されています。
また、アバランチ・ブロックチェーン上ではネイティブトークンである「AVAX」が発行されており、アバランチのエコシステムにおいて広く利用されています。
2-2.開発元である「Ava Labs(アバ・ラボ)」
アバランチの開発元である「Ava Labs(アバ・ラボ)」とは、米コーネル大学教授で、ブロックチェーン研究の第一人者と称されるEmin Gun Sier(エミン・ガン・シィー)氏および、Kevin Sekiniq(ケビン・セクニック)氏とMaofan Yin(マオファン・イン)氏らを中心として構成されるブロックチェーン企業のことを指します。
Emin Gun Sier氏は「ビットコイン(BTC)」と分散型ネットワークを専門分野とするコンピューターサイエンティストで、ブロックチェーン・テクノロジーに精通した業界のベテランとしても知られています。
このように、経験豊富な経営陣によって展開されているAva Labsは、当初から業界で注目を集めました。アバランチへの投資企業には、Andreessen Horowitz(a16z)やPolychainをはじめとする多くの著名なベンチャーキャピタル(VC)が名を連ねています。
アバランチでは、オープン且つプログラマブルな1つのブロックチェーン・プラットフォーム上において、世界中のすべての資産を簡単且つ自由にデジタル化することを目的として、さまざまなプロジェクト展開を行っています。
特に、ブロックチェーン業界で最速のスマートコントラクトプラットフォームとも言われるアバランチ上において、DeFiアプリケーションを手軽にローンチできるサービスを提供しているほか、それに関連した自社プロダクトも多くリリースしています。
③アバランチの特徴
3-1.イーサリアムキラーとして注目
アバランチは処理能力の高さと分散性をあわせ持ったブロックチェーン・プラットフォームとして知られており、イーサリアムが抱えているスケーラビリティ問題を解消する「イーサリアムキラー」として注目を集めました。
スケーラビリティ問題とは、トランザクションの急増によって処理速度の遅延や取引コストの高騰などが起こる問題のことで、イーサリアムにおける大きな課題の一つとされてきました。
アバランチは後述する独自のコンセンサスアルゴリズム「アバランチ・コンセンサス」により、複数の承認作業を同時に並行処理します。1秒当たりの処理速度を大幅に向上させることに成功しています。
なお、ビットコインの1秒間あたりのトランザクション処理件数が約6〜7件、「イーサリアム(ETH)」が約13〜15件、「リップル(XRP)」が約4,000件であるのに対し、アバランチは1秒間あたり約6,500件のトランザクション処理が可能となっており、クレジットカード「Visa」を凌駕する処理スピードを誇ります。
このように、アバランチはその処理性能の高さから、「ソラナ(SOL)」や「カルダノ(ADA)」などとともに、イーサリアムに取って代わるブロックチェーン「イーサリアムキラー」と呼ばれ、注目を集めました。
3-2.独自の「アバランチ・コンセンサス」
先ほども少し触れたように、アバランチでは独自のコンセンサスアルゴリズムである「アバランチ・コンセンサス」を採用しており、圧倒的な処理速度を維持することに成功しています。
ブロックチェーンにおけるコンセンサスアルゴリズムには、従来からあった「クラシカルコンセンサス」と、ビットコインとともに開発された「ナカモトコンセンサス」という二種類が存在します。
しかし、これらのコンセンサスアルゴリズムにおいては、すべての取引の承認をブロックチェーンに参加するすべての「ノード(端末)」が行うという仕組みを採っているため、スケーラビリティなどの問題が懸念されていました。
そんな中、18年に「Team Rocket(チーム・ロケット)」と呼ばれる匿名の研究チームによってアバランチ・コンセンサスが発表されました。
このアバランチ・コンセンサスはこれまでのコンセンサスアルゴリズムとは異なり、一定の割合のノードのみが承認作業を行う仕組みとなっているため、ノードは承認するトランザクションを分担することで、同時に並列処理することが可能となりました。
このことから、アバランチは処理スピードを大幅に向上させることに成功したというわけです。
3-3.独自のブロックチェーンを構築可能
アバランチでは、独自のブロックチェーンである「サブネット」を構築することが可能です。
サブネットは複数のノードから構成されるネットワークを構成することで、そのネットワーク内において新たにブロックチェーンを生成することができるほか、ネイティブトークンや手数料などを自由にカスタマイズすることも可能となっています。
また、ユーザーを制限するプライベートチェーンや、誰もが利用可能なパブリックチェーン等、それぞれのニーズに合わせて柔軟に活用することもできるなど、利便性の高いサービスとなっています。
なお、22年3月には「アバランチ・マルチバース(Avalanche Multiverse)」が発表され、DeFiやNFTなどの企業利用を促すとともに、サブネットのさらなる普及や発展を目指したプロジェクトが注目を集めました。
3-4.インターオペラビリティを実現している
アバランチはブロックチェーン同士のインターオペラビリティ(相互運用性)を実現しており、異なるブロックチェーン間でやり取りを行うことが可能です。
また、「EVM(イーサリアムバーチャルマシン)」を実装したことによって、イーサリアムともインターオペラビリティを有していることから、イーサリアム上に構築されたプラットフォームをそのままアバランチ上で利用できるというメリットも有しています。
④グリーとアバランチが提携する目的
4-1.ブロックチェーンゲーム事業の拡大
冒頭でも触れた通り、グリーは先日の22年9月27日にWeb3.0事業へ参入することを明らかにしたばかりとなっており、Web3.0事業の一環として、ブロックチェーンゲーム事業を展開することを目的としてゲーム提供に適したブロックチェーンの調査を進めてきました。
そんな中、前述したような数々の高性能を有するアバランチに魅力を感じ、Ava Labsと協議を重ねた結果、「双方の強みが今後のブロックチェーンエコシステムの発展に寄与できる」と確信したため、今回の戦略的パートナーシップ締結に至ったと説明されています。
そして今後グリーでは、高度なテクノロジーおよびブロックチェーン領域に関する豊富な知識を有するAva Labsの全面的なサポートを受けて、ブロックチェーンゲーム事業の拡大に尽力していくということです。
なお、グリーのWeb3.0事業への参入は同社の100%子会社である「REALITY株式会社」を通して行われると発表されていましたが、今回、シンガポールに新たに「BLRD(ブラード)」が設立されていたことが明らかになり、今後はこの2社においてプロジェクト展開が行われていくのではと考えられます。
また、現在ブロックチェーンゲーム開発に向けたWeb3.0関連の人材募集も精力的に行っているということで、具体的にはブロックチェーンゲーム開発を担当するゲームデザイナーおよびエンジニア、アーティストのリードポジションのほか、自社ゲーム用チェーンおよびNFTマーケットプレイス、ウォレットなどの開発を担当するブロックチェーンエンジニアやスマートコントラクトエンジニアなどの採用活動をさらに強化していることが報告されています。
このように、グリーでは今年から本格的なWeb3.0領域での事業展開を進めており、今回のAva Labsとの提携によってその動きはさらに加速していくと見られています。
⑤今後の動向
5-1.Web3.0ゲームの開発および提供
グリーは今回のAva Labsとの戦略的パートナーシップ締結を受けて、今後はアバランチのノード運用とともに、新たなWeb3.0ゲームの開発を進めていくことを明らかにしています。
前述した通り、グリーは国内を代表するソーシャルゲーム会社となっており、これまでにも数々の人気タイトルを世に送り出してきました。
そして今回、ソーシャルゲーム業界で培ってきた豊富な経験およびノウハウを活かして、アバランチ・ブロックチェーン上において新たなWeb3.0ゲームの開発をスタートするということです。
なお、このWeb3.0ゲームは新設された子会社「BLRD」を通して、23年中にアバランチ・ブロックチェーン上でリリースされる予定となっており、業界からは大きな期待が寄せられています。
5-2.アバランチ・ブロックチェーンの性能向上
グリーはアバランチのバリデーターノード運用を通して、アバランチ・ブロックチェーンの性能向上を目指していくとしています。
具体的には、パフォーマンスやセキュリティ性の向上のほか、分散性の向上にも貢献していきたいと発表しています。
なお、「バリデータ(Validator)」とは、ブロックチェーン上に記録されるデータの内容が正しいかどうかの検証を行うノード(コンピューター端末)のことを指します。
バリデータは、ブロックチェーン・ネットワークが正常に稼働するための重要な役割を担っており、「マイナー(Miner)」と同じ役割を持ちます。
5-3.ブロックチェーンゲーム開発に伴うサポート
グリーは今後、Ava Labsよりブロックチェーンゲーム開発に関するテクノロジーやマーケティング、事業開発など、包括的なサポートを受けるということです。
前述の通り、Ava Labsはブロックチェーン業界の精鋭たちで構成されているため、高い技術力と豊富な知識を有しています。
グリーでは、このようなAva Labsの全面的なサポートを受けながら、ブロックチェーンゲーム開発に注力していきたいということです。
5-4.共同出資の実施
グリーは「アバランチ財団(Avalanche Foundation)」によって運営されている投資ファンド「Blizzard(ブリザード)」との共同出資の実施も計画していると発表しています。
⑥まとめ
アバランチは圧倒的な処理能力の高さやその利便性の高さから、イーサリアムキラーとして多くのプロジェクトで採用されてきました。
今回、国内のソーシャルゲーム大手グリーと提携したことにより、新たなWeb3.0ゲームの開発などを通して、ブロックチェーンエコシステムの発展に寄与していきたいと語っており、業界からは期待の声が上がっています。
今後の協業について、現時点ですでにいくつかの計画が発表されているほか、上記以外にもさまざまなプロジェクトを展開していく予定だということで、引き続きその動向に注目していきたいところです。
アバランチを取り扱っている取引所
22年11月時点、仮想通貨アバランチ(AVAX)は、国内の仮想通貨取引所bitbank(ビットバンク)と、Coinbase(コインベース)で現物資産の取扱いが行われています。AVAXに投資をしたい方は、この機会にbitbankかCoinbaseでの口座開設を検討してみてはいかがでしょうか。
中島 翔
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