eSports x NFTの課題とは?プロチームが発行するNFTの今とこれからを解説

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今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の寺本健人 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。

目次

  1. eSports業界の現状
  2. eSports × NFTの実例とその課題
  3. まとめ

近頃、国内でもビデオゲームを舞台に競う「eSports」が盛り上がりを見せています。この背景には日本代表チームが世界のeSportsシーンの中で存在感を急速に高めていることが挙げられます。

4月、5対5の対戦型タクティカルFPSタイトル「VALORANT」の世界大会に日本代表チームとして出場したZETA DIVISIONは、前評判を覆して世界3位という日本のシューティングジャンルのeSportsチームとしては初となる快挙を成し遂げました。また、同じく国内外で人気の高いFPSタイトルであるApex Legendsの世界大会でも、日本代表のTeam Uniteが世界3位の好成績を残しました。これらの大会は数万人がリアルタイムでオンライン配信を視聴するなど、多くのファンが注目するイベントになっています。

ところで、eSportsシーンが盛り上がっているのは国内だけではありません。ゲームの競技シーンには国外にも日本と同等以上の熱気があるのです。海外で有名なチームには「FaZe Clan」などがありますが、FaZeはプロプレイヤーだけでなくクリエイターチームも社内で運営しており、全体では2億人超の視聴者を抱えているとされます。eSportsチームは今や、それ単体でメディア企業として成立するようになっているのです。

また、海外のeSportsチームは最近Web3エコシステムとの繋がりを強めています。そうしたチームはなぜ、そしてどういった形でWeb3と繋がりを持とうとしているのでしょうか。今回はこの点について深掘りしていきたいと思います。

eSports業界の現状

まずは、eSports業界の事情から見ていきたいと思います。そもそも、プロチームはどのように収益を上げているのでしょうか。DIGIDAYによると、多くのチームは競技リーグからの分配収益などeSportsシーンからの直接の収入、ブランドとのスポンサーシップ契約、アパレルなどのマーチャンダイズの3つを収益の柱にしているようです。このうちブランドとのパートナーシップについては暗号資産関連企業との契約例が既に複数あり、例えばUniswapはTeam Secretと、CoinbaseはTeam Liquidとそれぞれパートナーシップを結んでいます。また、Team SoloMid(TSM)は最近「TSM FTX」へと名称を変更しましたが、これはFTXがTSMと結んだ2億1,000万ドル規模の10年間のスポンサー契約によるものです。

スポンサー企業の狙いは、自身の知名度を上げることにあります。例えばTSMはSNS上に所属メンバーの合計で数千万人のフォロワーを抱えており、チーム名に自社のブランド名を含めることができれば非常に多くの潜在的ユーザーにリーチすることができます。eSportsと暗号資産はどちらもその人気を牽引しているのが若い世代ということもあり、その意味でもeSportsをプロモーションに利用するのは効果的だと言えるでしょう。

さらに、このところNFTを活用しようとするチームも次々に現れています。多くの場合、チームがコミュニティとの結びつきを深めるための施策として利用しているようです。eSportsチームにもサッカーチームなどと同じように固定ファンは存在しており、またチームのクリエイター個人にもファンがつくことが多くなっています。そうしたファンをうまく取り込むことで、チームコミュニティをより活気づけることができるからです。

eSports × NFTの実例とその課題

それでは、実例を見ていきましょう。様々なゲームタイトルで活躍するG2 Esportsは今年1月にコミュニティに向けて、1つ1つのNFTのデザインがそれぞれ異なる「ジェネレーティブNFT」をSolanaブロックチェーン上で発行する計画を発表しました。このNFTの保有者には限定ファンコミュニティへのアクセス権やチームに所属するプロプレイヤーとの交流、将来的にさらなるNFTが発行された場合の優先入手権なども付与されました。単なるファングッズではなく、ファンクラブの会員権のように設計されているわけです。

このようなファンの証としてのNFTは他のチームからも発行されています。イギリスに拠点をおくFNATICもNFTを発行しており、こちらもファンコミュニティの構築を企図しています。この試みはFNATICが進める「FNATIC ID」という構想の一部で、ファンにIDを割り当て、選手との交流やコミュニティへの参加だけでなく、グッズプレゼントやショップでの割引といった様々な特典を受けられるようになっています。そうした特典によりファンにID登録(NFTの入手)を促し、固定ファンを作ろうとする意図があるものと考えられます。

G2 EsportsやFNATICの取り組みはNFTをファンがチームを応援するためのツールと明確に位置付けたうえで利用しようとするもので、うまくいくように見えます。しかし、これら2つの企画はどちらもコミュニティからの反発が強いのが実情です。実際、発行されたNFTの二次流通価格はいずれも当初の販売価格を大幅に下回る水準に落ち込んでいます。

そこには、ゲームプレイヤーの間にあるNFTへの根強い不信感があります。各チームがNFTを発行する計画をTwitterで公開した際には、ファンから多くの批判が寄せられました。プロチームがNFTを発行することに違和感を覚えていたり、特典の提供はサブスクリプション形式のファンクラブでも行えるため、NFTは流行りに乗っているだけなのではと指摘したりと、様々なリプライを見ることができます。

ではなぜ、自身もゲームプレイヤーであるファンはNFTにこれほど反発したのでしょうか。米The VergeはプレイヤーがゲームのエコシステムにNFTの要素を持ち込むことを嫌う理由として「ファンはNFTによってゲームのアクセス可能性が損なわれることを懸念している」ことを挙げています。NFTによって特定のコンテンツが利用可能になるということは、裏を返せばNFTがなければアクセスできないコンテンツがあるということです。この考え方がプロチームのNFT発行に対しても「同じファンでもNFTを持っているか持っていないかで得られるものが変わるのはおかしい」といった意見を形成した可能性が考えられます。

では、プロチームがNFTを使う形でWeb3に関わろうとした場合、どのようなアプローチが考えられるでしょうか。前述した2つのチームはNFTを発行する理由についてコミュニティにかなり時間をかけて説明していましたが、十分な理解を得ることはできませんでした。そのため、ただ誠実に計画を説明すればいいというものではありません。

たとえば目立った特典を設定することはあえてせず、NFTを純粋に所属選手・クリエイターを応援するためのコレクションアイテムとして位置づけることが考えられます。配信サービスでのメンバーシップなど以外の部分でさらにサポートしたいというファンに応える形になります。ファンの間での公平性は保たれ、またチーム・選手側も新たな収入源を得ることができます。

まとめ

eSports領域でNFTを活用しようとする動きはまだ始まったばかりで、成功例はほとんどないのが現状です。チーム・選手・ファンがともに満足できるような仕組みを作るため、そのNFTを利用して何をしたいのか、ビジョンを明確に持った上で勧めていく必要があるでしょう。暗号資産業界は全体としてeSportsに大きな関心を向けており、ブロックチェーン企業もeSports業界との協業に意欲を示しているため、チーム側はそうした潮流をうまく活用しながら活用方法を模索することが求められていると思われます。

ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。

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Fracton Ventures株式会社

当社では世の中をWeb3.0の世界に誘うことを目的に、Web3.0とDAOをテーマに事業を行っています。NFT×音楽の分野では、音楽分野のアーティスト、マネジメント、レーベルなどとNFTを活用した新しい体験を図るプロジェクトを行っています。