機関投資家に学ぶESG投資戦略と個人でもできるESG投資の方法は?

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環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)を重視する対象に投資を行うことを「ESG投資」と呼びます。投資対象となるのは、企業の株式や社債、国や地方自治体が発行する国債や地方債です。

ESG投資を理解するうえでは、巨額の資金を有価証券(株式・債券)などで運用・管理する機関投資家がどのようにESG情報を活用し、どのような「建設的な対話」(エンゲージメント)を行っているかについて理解を深めることが重要です。

この記事では、機関投資家のESG投資戦略ほか、個人投資家向けESG投資方法についての注意点などを解説します。

※2022年8月17日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. インベストメント・チェーンとは?
  2. どのような機関投資家があるの?
    2-1.GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
    2-2.ニッセイアセットマネジメント
  3. GRIFのESG投資
    3-1.PRI(責任投資原則)へ署名
    3-2.スチュワードシップ活動
    3-3.ESG指数に基づく株式投資
  4. ニッセイアセットマネジメントのESG投資
    4-1.ESG取組み方針
    4-2.スチュワードシップ体制
  5. 個人でもできるESG投資の方法は?
    5-1.ESG投資は難しい
    5-2.株高やグリーンウォッシュのリスクも
    5-3.投資信託を購入するのは良い?
  6. まとめ

1 インベストメント・チェーンとは?

機関投資家のESG投資を理解する上では、まず、ESG投資に関わる主体を明らかにする必要がありますが、「インベストメント・チェーン」の枠組みから説明することができます。インベストメント・チェーンとは、「顧客・受益者から投資先企業へと向かう投資資金の流れ」を指します。

また、経済産業省が 2014年8月に公表した「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(いわゆる「伊藤レポート」)によると、「資金の拠出者から、資金を最終的に事業活動に使う企業に至るまでの経路及び各機能のつながり」のことです。

インベストメント・チェーンは、資金の保有者である「アセットオーナー」、「アセットオーナー」から資金の運用等を受託し自ら企業への投資を担う「運用受託機関」、「運用受託機関」に投資される「企業」といった参加者から構成されています。

「アセット・オーナー」は年金基金等の資金保有者(資金拠出者)ほか、公的・私的年金や大学・教会等の基金、生命保険会社等異なる複数の主体が含まれます。「運用受託機関」はアセット・オーナーから運用委託を受ける資産運用者を、「企業」は資金利用者をそれぞれ指し、これら3つの主体を軸に構成されています。

2 どのような機関投資家がいるの?

では、具体的にどのような機関投資家がいるのでしょうか。

ここでは機関投資機関として、「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」と「ニッセイアセットマネジメント」の2社を取り上げ、それぞれのESG情報の活用方法やエンゲージメントについて紹介していきます。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、日本の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う機関です。運用方法は運用受託機関との投資一任契約もしくは一部の自家運用によります。

ESG投資に力を入れており、ESGに注力する企業に焦点を当てた「ESG指数」の選定とそれに基づく運用をするだけでなく、ESG関連の国際的な調査・研究へのサポートも行っています。

ニッセイアセットマネジメント

ニッセイアセットマネジメントは2006年にPRI(責任投資原則)に署名したほか、投資先企業とのエンゲージメントを積極的に推進してきました。2019年には気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に署名するなど、企業としてESG投資に取り組んでいます。

3 GPIFのESG投資

なぜGPIFがESG投資に力を入れているのでしょうか。

GPIFのように投資額が大きく、世界の資本市場全体に幅広く分散して運用する投資家は「ユニバーサル・オーナー」と呼ばれます。また、GPIFが運用する年金積立金は、将来の現役世代の保険料負担を軽減するために使われるものです。

このように「ユニバーサル・オーナー」かつ「世代をまたぐ投資家」という特性を持つGPIFが、長期にわたって安定した収益を獲得するためには、投資先の個々の企業の価値が長期的に高まり、ひいては資本市場全体が持続的・安定的に成長することが重要です。

そして、長期で見ると環境問題や社会問題の影響から切り離すことはできず、こうした問題が資本市場に与える負の影響を減らすことが、投資リターンを持続的に追求するうえではESG投資は不可欠といえるからです。

3-1 PRI(責任投資原則)へ署名

2015年にGPIFがPRIに署名したことも、ESG投資が広がるきっかけの一つになりました。元々、ESGという言葉は、2006年に国連が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れるFRI(責任投資原則)(※)を提唱したことを機に広まりました。

PRIはESG投資に関して投資家が守るべき6つの原則から成り立っており、環境、社会、企業統治の要素が資産運用に果たす役割の重要性を啓発し、ESG投資を推奨することを目的としています。

PRIは、以下の6つの責任投資原則を実施することを促しています。

  1. 投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込む
  2. 活動的な株式所有者になり、株式の所有方針・慣習にESG問題を組み入れる
  3. 投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求める
  4. 資産運用業界において原則が受け入れられ、実行に移されるようにする
  5. 原則を実行する際の効果を高めるために、協働する
  6. 原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告する

(※)PRI(責任投資原則)・・・2006年にコフィー・アナン第七代国連事務総長の提唱により、国連環境計画と金融イニシアティブ、及び国連グローバル・コンパクトとのパートナーシップが打ち出した投資に対する原則のこと。その内容は、投資家に対して企業の分析や評価を行う上で長期的な視点を持ち、ESG情報を考慮した投資行動をとることを求める。

3-2 スチュワードシップ活動

スチュワードシップとは、機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか、運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく「建設的な対話」(エンゲージメント)などを通じて、企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、中長期的な投資リターンを図る責任のことを指します。

GPIFは、被保険者に対して、受託者としての責任を適切に果たし、長期的な投資収益の拡大を果たすことを目的に、スチュワードシップ責任を果たすための活動を推進しています。GPIFはスチュワードシップ活動の一環として、重大だと認識するESG課題については、投資先企業と積極的なエンゲージメントを行うよう求めています。

3-3 ESG指数に基づく株式投資

GPIFは2017年度から「ESG指数」に基づいた株式投資を行っています。ESG指数とは、企業が公開する非財務情報などをもとに企業のESGへの取組みを評価して組み入れ銘柄を決める指数のことです。

GPIFは「ESG指数」運用会社に組入銘柄の採用基準を公開するよう要請しており、それが企業側の情報開示を促し、ひいては国内外の株式市場全体の価値向上につながるような底上げ効果を期待しています。

4 ニッセイアセットマネジメントのESG投資

次に、ニッセイアセットマネジメントを見ていきましょう。

4-1 ESG取組み方針

ニッセイアセットマネジメントは、資産運用の調査・投資判断において、ESGにかかわる課題を適切に考慮することが、長期的な投資収益の改善のみならず、これらの社会的責任を果たすことにつながるものと考えており、以下の方針を掲げています。

  1. 長期的な投資のリスク・リターン向上の観点から、運用資産の投資価値に及ぼすESGの課題とその影響の把握・理解に努める
  2. 受託者責任の観点から、ESG課題を運用プロセスにおいて考慮することに努める
  3. ESGを考慮した商品開発:ESGの要素を考慮した商品を開発・運用し、投資を通じてサステイナブルな社会の実現に貢献したいという投資家のニーズに応える
  4. 企業との対話:コーポレートガバナンスの向上をはじめとしたESG課題、及び長期的な企業価値向上の観点から、企業との対話や適切な議決権行使に努める

責任ある投資家としての社会的責務を踏まえ、運用にESG視点を取り入れる一環として、人道上の懸念が大きいとされ日本が批准する国際条約において製造が禁止されている「生物兵器」「化学兵器」「クラスター弾」「対人地雷」の製造に関与する企業を原則として組み入れないこととしています。

また、ESGの観点で深刻な問題(「内戦」「国家の弾圧」等)が発生、継続している国の評価を行い、ファンドの運用方針に応じて国債の組み入れ対象国から除外すると謳っています。

4-2 スチュワードシップ体制

ニッセイアセットマネジメントでは、スチュワードシップ活動の監督を実施する、独立した社外取締役を過半数とする「責任投資監督委員会」を設置しています。また、運用部門担当役員を議長とし、ESG運用やスチュワードシップ活動を資産横断的に議論する責任投資委員会を設置しています。

また、「ESG推進部」が中心となり、アナリストの実施するESG評価の高度化や、クオリティコントロール・PDCAを推進しています。

5 個人でもできるESG投資の方法は?

最後に、個人投資家のESG投資について見ていきましょう。

ESG投資は、機関投資家の間で広がっており、年金基金などが運用手法として取り入れる動きが続いています。短期的な企業収益の最大化だけを経営目標にするのではなく、社会的な責任も果たしている企業に投資すべきという考え方は、資本主義社会の持続的成長のためには重要です。

環境に配慮しない企業や人権を尊重しない企業、あるいは企業経営の統制が取れていない企業は中長期的には社会との軋轢を起こしたり、社会にマイナスの影響を与えたりする懸念があり、株主にとっても不利益になります。

個人投資家は、ESG投資とどのように付き合っていけば良いのでしょうか。ポイントを3つ解説します。

5-1 ESG投資は難しい

個人投資家にとってESG投資が悩ましいのは、ESGの概念は理解できたとしても、それを具体的に実践している企業をどのように評価し選定するかに関して、確立された指標や手法がまだ無いことです。

例えば、二酸化炭素の排出量で環境に対する取り組みを評価したり、女性幹部の比率でダイバーシティに対する取り組みを評価したりといった定量的なアプローチはあっても、個人ではそれらをどのように統合して、総合的に判断するかは、難しい側面があります。

欧州では、ESG投資の定義を厳格化したことによって、投資額が減っているというデータもあります。これはESG投資が後退したのではなく、本来ESG投資には含まれない投資対象が混ざっていたことが原因と言えます。曖昧な基準が徐々に厳格化される動きの現れと見ることができます。

個人投資家にとってESG投資の判断は難しいのです。

5-2 株高やグリーンウォッシュのリスクも

また、個人投資家が集中してESG銘柄と呼ばれる企業に資金を投下した場合、ESG銘柄が割高になるという懸念もあります。企業収益に対して、企業評価が過剰に高くなれば、空売りを仕掛けられ、ESG銘柄の株価が調整するリスクも出てきます。

更に、本来ESGに積極的に取り組んでいないにも関わらず、投資資金を呼び込むためにESGを声高に叫ぶ「グリーンウォッシュ」という問題も指摘されています。

関連記事:「ESG投資でグリーンウォッシュを見極めるポイントは?

ESG銘柄として市場から評価されていた銘柄の実態が明らかになって、失望から株価が急落するようなケースも出ています。

5-3 投資信託を購入するのは良い?

株式投資に関しては個別銘柄を選択するのではなく、機関投資家が運用する投資信託やインデックス指数への投資の方が良いかもしれないと筆者は考えます。現在ESG投資が注目されていますが、個人でESG投資を行うために銘柄を選定することは難しく、本来のESG投資の意味合いと離れてしまう可能性があります。

企業がESGに配慮した経営をすることが大切だとしても、企業収益が上がらなければ最終的には株価は下がり、利益なしに企業として生き残ることはできません。ESGという考え方は、これから益々個人投資家の運用に影響を与えるようになると考えますが、本来の趣旨に沿った正しいESG投資を実践することは簡単ではありません。

6 まとめ

ESG情報を組み入れることは、既に一般の方の株式投資においても意識されることが多くなってきています。多くのESG投資は、伝統的な投資に融合される方向に向かっており、ESG投資にとっても重要な流れです。

ただしESG投資のなかでも、とりわけ自然環境や社会のサステナビリティを追求する長期投資は、従来の投資とは別に独立したESG投資として存在し続けると考えられます。この場合、社会的リターンの創出と適切な評価が重要なポイントです。その理由は、個人投資家にとって適切なリターンの創出と評価のない企業への投資は、長い目で見ると割に合わないものになる可能性があるためです。

また、企業が適切な課題を設定し、社会的リターンを創出することも大事になってきます。ESG投資を通じて自然環境や社会を持続可能なものにするうえでは、機関投資家が企業に対する働きかけや対話、つまりエンゲージメントが必要不可欠であり、そのような企業が増えるかどうかが今後の課題になるのではないでしょうか。

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