HEDGE GUIDE編集部では、11月18日に日経CNBCが主催したカンファレンス「Future of Money〜マネーの未来を探る〜」に参加してきました。
日経CNBCは、日本経済新聞社やテレビ東京ホールディングスの出資した株式会社日経CNBCが運営するケーブルテレビやスカパーなど、インターネットで視聴可能なビジネス経済専門チャンネルです。
今回のテーマは「マネーの未来」。皆さんは現代における「マネー」といえば何を思いつくでしょう。私は、マネーといえば、硬貨や紙幣、SUICAやQuickpayのような電子マネーを想像します。SUICAやQuickpayは、インターネットやスマートフォンなどの普及に伴い、広く利用されるようになり、今や硬貨や紙幣と同じく「マネー」と同じ性質をもったモノと考えることもできるでしょう。
最近では、新しい通貨のかたちとして「仮想通貨」と呼ばれるデジタル通貨が誕生し、注目を集めています。今回のカンファレンスでは、最先端技術を施した仮想通貨と、その根本技術であるブロックチェーンの話が中心に行われました。当イベントレポートでは、その2つのセッションの内容についてお伝えしたいと思います。
- 1. トークセッション「ブロックチェーンの真の価値を探る」
- 2. スペシャルインタビュー「伝説が見通す、マネーの未来像」
1. トークセッション「ブロックチェーンの真の価値を探る」
このセッションでは、ブロックチェーンの革新性を技術・ビジネスの両面から探り、その真の意義と価値に迫ることを目的とした内容となっていました。進行役は株式会社HashHubの代表を務める東晃慈氏が行い、話し手は早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問・一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏(以下、野口氏)と慶應義塾大学SFC研究所の上席所員である斉藤賢爾氏(以下、斎藤氏)が務めました。
ブロックチェーンは、ビットコインの誕生をきっかけに概念が知れ渡り、変化を加えたイーサリアムやNEMなどの種類が続々と登場しました。そうしたブロックチェーンの開発ムーブメントによって、日々変化するブロックチェーンに対し、誕生してからブロックチェーンには明確な定義がありませんでした。
ブロックチェーンの定義は「遺言書として機能するか?」
斎藤氏は本セッションの中で、ブロックチェーンの定義を「遺言書を作れるかどうか」で考えれば良いと述べました。遺言書は、正式な手続きを踏んで作成しなければ、有効と認められません。具体的には、役場の職員である公証人が遺言者から遺言内容を聴き取りながら作成する公正証書遺言、遺言者本人が紙とペンを使い自筆で遺言書を作成して自身の印鑑を押す自筆証書遺言、の2つです。
この方式の場合、職員と相続人が口裏を合わせていたり、印鑑を押したのが遺言を残した本人かを完全に証明しきることは難しいという問題がありました。斎藤氏はこうした問題を解消できるかどうかがブロックチェーンか否かを判断できるポイントだとしています。
ブロックチェーンの4つの性質
斎藤氏は、ブロックチェーンは「正統性の保証」「存在性の証明」「唯一性の合意」「ルールの記述」といった4つの階層構造を成すことで、遺言書にも利用できると述べています。詳しくご紹介していきましょう。
第1階層「正統性の保証」
「正統性の保証」とは、トランザクション自体が改ざんされない、過去に矛盾が生じない、といったことを意味します。遺言書は書き換えられてはいけないものですから、ブロックチェーンで遺言書を作るにも作成した遺言書が書き換えられるリスクがない必要があります。
第2階層「存在性の証明」
「存在性の証明」は、データの存在を証明できる、ボットやAIによる証明ではなく実在する人物による証明である、といったことを意味します。従来のECサイトなどでは、取引ではお互いが当人同士であることが前提として成り立っています。しかし、取引相手が実在する人物であるのか、ハッキングにより別人が取引を進めていないかを確認することはできません。ブロックチェーンの活用により、取引相手が正当な相手であることを証明することもできるようになり、見に覚えのない請求がされるといったトラブルも避けることができるようになります。
第3階層「唯一性の合意」
「唯一性の合意」は、矛盾する二つのトランザクションが投入された場合、いずれかの片方を選んで合意によって歴史の中に記録することを意味しています。ブロックチェーンは不特定多数のユーザーで管理するデータベースのようなものですので、矛盾する2つのデータのどちらかを正しいと判定する必要があります。特定のメンバーによって管理されるプライベート型のブロックチェーンはこの例には含まれないものの、例外的にブロックチェーンであると判断しているのことでした。
第4階層「ルールの記述」
「ルールの記述」は、前述した三つを満たしながら動作するアプリケーションが必要であることを意味しています。遺言書に書かれた遺言に法的な拘束力を持たせるための記述の仕方があるように、ブロックチェーンも誰が見ても明確で定まった記述によって構築されている必要があります。
ブロックチェーン技術が普及するにはどのくらいの期間を想定すれば良いか
セッションの中で、ブロックチェーンが普及するまでにどのくらいのスパンで見れば良いか、インターネットの普及と比較して語られました。
インターネットは、1980年ころに誕生してから2000年ころの普及に至るまで20年近くの長い期間がかかりました。普及にこれだけ時間がかかったのには、技術確立までの時間ではなく、インターネットを広げるために必要となるインフラであるサーバーの設置に準備がかかったことが大きいとのことです。
一方、ブロックチェーンの普及に至るまでには、インフラとなるインターネットがすでにあることから、インターネットの時ほど時間がかからないのではないかと野口氏は言っており、斎藤氏は、願望を含めて30年後にはキャッシュレスの世界になっているととのことでした。ブロックチェーン識者のお二人の発言には、ブロックチェーンの未来に関心が高い私自身、期待が持てました。
2. スペシャルインタビュー「伝説が見通す、マネーの未来像」
このセッションは、仮想通貨投資会社であるBlockTowerCapitalアジア代表スティーブ・リー氏(以下、スティーブ氏)が聞き手として、数学者兼e-cash考案者のデヴィット・ショーム(以下、デヴィット氏)にインタビューを実施するかたちで行われました。インタビューの主な内容は、デヴィット氏が電子決済の業界に戻ってきた理由とプライバシーの重要性、仮想通貨決済における3つのジレンマの解決について、でした。
デヴィット氏が電子決済の業界に戻ってきた理由
デヴィット氏が、暗号技術を駆使した電子決済システムe-cashの考案をした1980年ころ、インターネットはいまだ普及しておらず、利用するために必要なインフラが整っていませんでした。そのために断念した電子決済のテクノロジーが、30年近く経過した今、仮想通貨に姿を変え実現できる環境にあるとして、仮想通貨を利用した決済の普及に貢献したいという強い想いで動いているそうです。
プライバシーの重要性
デヴィット氏は、ブロックチェーンを既存の技術に置き換えることによって、従来技術では侵害の可能性もあるプライバシーを守ることができると語っていました。ヨーロッパではプライバシーは守られて当たり前の人権であるという認識が日本以上に強く、2018年5月には個人情報保護の規制強化としてGDPR(General Data Protection Regulation)が施行されたことが記憶に新しいのではないでしょうか。
スティーブ氏は、具体例としてアメリカ発祥でいまや大人気のSNSサービスのFacebookを挙げ、プライバシーの重要性について語りました。Facebookが5000万人分のユーザーデータをコンサルティング会社CambridgeAnalyticaに不正利用させていた事件を挙げ、個人の動向や友人関係、連絡先といったプライバシーが侵害されたことがFacebook離れを促していると指摘しました。
Facebookのように企業が情報を一手に集めておくデータベースでは、究極的には企業や管理者がその情報を自由に利用できてしまう恐れがあります。一方、分散型のデータベースとして機能するブロックチェーンの場合、誰かが個人情報を悪意をもって利用することを防ぐこともできることから、ブロックチェーンはプライバシー保護の技術としても注目が集まっています。
仮想通貨決済における3つのジレンマの解決
仮想通貨決済では、クリアしなければならない課題が3つあります。それは、スピードとセキュリティとディセントラリティ(権力の分散性)です。この3つは、それぞれトレードオフの関係にあり、決済スピードを優先すればセキュリティやディセントラリティが劣り、セキュリティを優先すればディセントラリティは保持できるもののスピードに問題を抱える、といった関係になっていました。
デヴィット氏の立ち上げたプロジェクトElixxirでは、この3要素のトレードオフをクリアすることができると述べました。2019年上半期に発表可能と言われたこのプロダクトを進めるデヴィット氏には引き続き注目です。
まとめ
本セミナーは、「Future of Money〜マネーの未来を探る〜」というテーマで開催されただけあって、ブロックチェーンや仮想通貨は今後普及していくか否かを問う場面が多く見られました。
ブロックチェーンは、正当性を保証する性質や情報の保管性に優れており、インターネットやスマートフォンが一般的になった現代社会に溢れる膨大でいて秘匿する必要のある情報を管理する技術として、非常に可能性を感じています。仮想通貨も、誕生した背景や歴史、思想までフォーカスしてみると、開発者や関係者が織りなすさまざまな人間ドラマとして見られる側面もあり、単に通貨としてだけではなく人間らしさも感じる魅力に溢れていると思っています。
興味があってもいまだにブロックチェーンや仮想通貨に知らないという人にも面白いイベントでした。ぜひ皆さんも、新しい技術が見せてくれる新しい世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。
藤田 正義
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