日本ユニセフ協会によれば、安全な飲み水を確保できない人が2020年時点で20億人いると指摘されています(参照:unicef「ユニセフの主な活動分野|水と衛生」)。また、2050年には世界人口の半分以上が水不足に苦しむことが予測されており、水不足は国際的な協力が求められる課題の一つとなっています。
この記事では、水不足問題に積極的に取り組んでいる日本の上場企業について詳しく解説しています。具体的な取り組み事例や配当推移などの株主還元についても紹介していますので、ESG投資を検討している方や水問題に関心がある方は、参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年4月11日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- 水不足問題とは
- 水不足問題に積極的に取り組んでいる日本の上場企業
2-1.花王
2-2.キッコーマン
2-3.キリンホールディングス
2-4.クボタ
2-5.東亜ディーケーケー - まとめ
1 水不足問題とは
水不足問題とは、安全な飲み水を確保できないことで、人間の生命や農作物などに影響を与えることを指します。安全な飲み水を得られないことが原因で、毎年多数の人々が感染症に罹患し、亡くなっています。また水不足は、干ばつや地下水の枯渇を引き起こし、農作物や家畜が影響を受けることで、栄養失調や飢餓問題にも繋がります。
水不足の主な原因には、「人口増加」「気候変動」の2つが挙げられます。例えば、人口が増加すれば、水の使用量も増えます。生活用水の使用量が急増していくことで、水不足の引き金となります。
また、気候変動は水の利用可能量に影響します。水の利用可能量は降水量の変動によって変化するため、地球温暖化に代表される異常気象の影響によって、洪水や干ばつが世界各地で多発すれば、再生可能な地表水や地下水を著しく減少させます。
このような水不足問題を解決するため、国際社会が力を合わせて水資源の保全や水の衛生管理に取り組む必要性が高まっています。
2 水不足問題に積極的に取り組んでいる日本の上場企業
日本の上場企業の中には、水不足問題に積極的に取り組んでいるところがあるので、以下で確認していきましょう。
2-1 花王
花王は、家庭用品の中でもトイレタリーに強みを持つ企業です。時価総額2兆円を超える日本を代表する大企業の一つであり、原料からの一貫生産に強みを持っています。そんな花王の特徴や、水不足問題に対する取り組み、株主還元策は以下の通りです。
花王の特徴
花王の特徴として高い研究開発力が挙げられます。花王の研究開発は基礎技術研究と商品開発研究の2種類に分けられ、商品開発研究が半年から数年以内に販売する商品のための研究であるのに対し、基礎技術研究は5年後、10年後というより長期的な視点で、新しい技術を生み出すための研究となっています。花王はこれらの研究開発に売上高の4%を投資しており、そのうちの半分を基礎技術研究に投資しています。
さらに、マトリックス運営と呼ばれる組織運営を採用した研究を行っています。これは、それぞれの研究所が持つ知見と情報をお互いに共有しやすくなる運営方法であり、新しい価値やユニークな商品を開発できる土台となっています。
花王の強みである研究開発力は、メイン事業であるコンシューマープロダクツ事業とケミカル事業を支えており、シナジー効果を発揮しています。例えば、洗剤やボディソープなどの家庭用製品の開発で培った表面活性剤技術を応用し、医薬部外品や化粧品などのヘルスケア製品の開発にも取り組んでいます。
このように、独自の技術を生かした製品開発と、事業間での技術やノウハウの共有により、花王は強い競争力を維持しています。
水不足問題に対する取り組み
花王は、3R(Reduce、Reuse、Recycle)の視点で水不足問題に積極的に取り組んでいます。製品の製造ライフサイクルにおける全ての段階において、水リスクを考慮した製品作りを行っており、例えば、工場ごとの水使用量の削減目標を設けています。
また、製品が使用されるときの水使用量を抑える取り組みとして、できるだけ水使用量を抑える節水型製品を提供したり、製品の使用方法について、ユーザーと積極的なコミュニケーションを取ったりすることに努めています。
さらに、花王は水資源の保全にも取り組んでいます。例えば、製品の原材料の調達においては、水資源を適切に管理するサプライヤーを選定し、水の節約や浄化などに取り組むよう指導しています。また、社員教育を通じ、水資源の大切さを啓発する活動も行っています。
株主還元情報
花王は配当金の支払いによる株主還元を実施しています。配当方針として継続的な配当を重視しており、実際、33年連続で配当金の増額を達成している実績もあります。直近の配当金の推移は、以下の通りです。
各年度 | 中間配当 | 期末配当 | 年間配当 |
---|---|---|---|
2019 | 65円 | 65円 | 130円 |
2020 | 70円 | 70円 | 140円 |
2021 | 72円 | 72円 | 144円 |
2022 | 74円 | 74円 | 148円 |
2023(予想) | 75円 | 75円 | 150円 |
2-2 キッコーマン
キッコーマンは、国内首位の醤油メーカーです。時価総額で1兆円を超える大企業であり、とりわけ北米事業を収益源としています。キッコーマンの特徴や水不足問題に対する取り組み、具体的な株主還元策などは、以下の通りです。
キッコーマンの特徴
キッコーマンは、醤油を中心とした調味料において高いシェア率を長年維持しています。特に醤油では他の醤油メーカーを圧倒しており、日本では約30%、世界では約50%のシェアを握っています。売上高の5割、営業利益の7割近くを海外100ヶ国以上で稼ぎ出しているのも特徴であり、早期に海外市場に目を向けたグローバルな視点と、日常的に醤油を浸透させるマーケティング力が圧倒的なシェアを支えています。
水不足問題に対する取り組み
キッコーマンは水環境の保全と水の効率的な活用を意識した取り組みを行っています。例えば、水環境への配慮として、2030年度までに水使用量を2011年度比で30%以上削減することを目指しており、製造量あたりの水使用量を管理するとともに、既存の工程見直しや効果的な施策の導入に取り組んでいます。
また、水を効率的に活用するため、製造工程の一つである冷却工程に使用した用水を洗浄用水として再利用することで、製造工程における水使用量を減らしています。製品の製造工程以外にも、水問題の解決に貢献する取り組みとして、生産拠点であるシンガポールやオランダなどの地域にて、政府やNGO団体の水環境の保全活動を支援しています。
株主還元情報
キッコーマンは株主還元策が充実しており、株主になることで株主優待と配当金の両方を受け取れます。優待内容は、キッコーマングループの商品やプリペイドカード、飲食料品などがあり、保有株数や継続保有期間によって内容も変わる仕組みです。
例えば、100株以上の場合、継続保有1年以上で1,000円相当、3年以上で2,000円相当の商品が受け取れます。1,000株以上の場合、継続保有1年以上で3,000円相当、3年以上で5,000円相当のグループ関連の商品やオリジナル飲料セット、オリジナルクオカードを選択して受け取れます。
次に、キッコーマンの配当方針は、連結業績などを勘案しながら利益配分を行うことを基本としており、配当金の支払いを中間配当と期末配当の年2回実施する方針を定めています。直近の配当推移は、以下の通りです。
各年度 | 中間配当 | 期末配当 | 年間配当 |
---|---|---|---|
2019 | 20円 | 21円 | 41円 |
2020 | 21円 | 21円 | 42円 |
2021 | 21円 | 24円 | 45円 |
2022 | 22円 | 39円 | 61円 |
2023(予想) | 30円 | 31円 | 61円 |
2-3 キリンホールディングス
キリンホールディングスは、ビールで国内首位級の会社です。発泡酒については国内首位の会社でもあり、時価総額は1兆9,000億円と2兆円に迫る勢いです。キリンホールディングスの特徴や取り組み内容、配当推移などは、以下の通りです。
キリンホールディングスの特徴
キリンホールディングスは、人と人がつながる機会を作る商品やサービスを提供しています。酒類および飲料事業がメイン事業であり、発酵およびバイオテクノロジーを根幹とした確かな技術力と、判断基準を顧客においたマーケティング力によって新たな価値を作り出しています。
水不足問題に対する取り組み
キリンホールディングスは水不足問題の取り組みとして、水リスクに応じた節水を行っています。例えば、水ストレス調査で定量的に水使用量を把握するとともに、水ストレスの高い製造拠点においては具体的な数値目標を定めた節水を行っています。
その結果、1990年~2021年までに生産で使用する水の量を65%削減することに成功しています。また、その他にもスリランカ紅茶農園における水資源保全活動として、気候変動における原料生産地の渇水や洪水リスクを抑える取り組み等を実施中です。
株主還元情報
キリンでは株主還元策として、株主優待制度と配当金による支払いの両方を用意しています。株主優待の権利確定月は12月末日であり、最低単元である100株以上を保有することで、次のような優待品を受け取れます。
- 一番絞り詰め合わせセット(合計4本)
- 清涼飲料の詰め合わせ(合計7本)
- 機能性表示食品
- キリンシティお食事券(1,000円相当)
- サッカー日本代表応援グッズ(タオルマフラー)
- キリン飲酒運転根絶募金への寄付(1,000円相当)
次に、キリンでは、連結配当性向40%以上を目安として、成長に応じた配当金の支払いを実施中です。会社が1907年に創立してから毎期欠かさず配当金の支払いを実施しており、直近の配当推移は、以下の通りです。
各年度 | 中間配当 | 期末配当 | 年間配当 |
---|---|---|---|
2019 | 31.5円 | 32.5円 | 64円 |
2020 | 32.5円 | 32.5円 | 65円 |
2021 | 32.5円 | 32.5円 | 65円 |
2022 | 32.5円 | 36.5円 | 69円 |
2023(予想) | 34.5円 | 34.5円 | 69円 |
2-4 クボタ
クボタは、農業機械および鋳鉄管で大手の会社です。小型建機やエンジンを主力としているほか、アジアで環境プラントなどを展開しています。クボタの特徴や水不足問題への取り組み、配当推移などは、以下の通りです。
クボタの特徴
クボタは、食料や水、環境分野の社会課題の解決に貢献する事業を世界120ヶ国以上で展開しています。主な事業内容は、機械事業と水・環境事業であり、機械事業では、稲作や畑作向けの農業機械や建設機械および、機械に搭載されるエンジンなどを扱っており、世界の食料生産や産業発展を支えています。
一方、水・環境事業はダクタイル鉄管をはじめとする水道管を国内外で納入しており、世界中の水インフラに貢献しています。特に水関連事業は水道用鉄管の製造から始まっており、安全な水を届けることをサポートしています。
水不足問題に対する取り組み
クボタは水・環境事業にて、水循環に関わる様々な製品を提供しており、上水から下水処理、排水システムまでの水に関わる幅広い領域で事業を展開しています。事業自体が水道管を提供していることもあり、事業を行うことが安全な水にアクセスできない人を減らす取り組みに繋がっています。
株主還元情報
クボタは、剰余金の配当を中間配当と期末配当の年2回実施中です。配当方針としては、継続的な配当の維持を利益配分の基本としており、総還元性向40%以上を目標としています。また長期的には50%を目指しています。直近の配当推移は次の通りです。
各年度 | 中間配当 | 期末配当 | 年間配当 |
---|---|---|---|
2019 | 17円 | 19円 | 36円 |
2020 | 17円 | 19円 | 36円 |
2021 | 21円 | 21円 | 42円 |
2022 | 22円 | 22円 | 44円 |
2-5 東亜ディーケーケー
東亜ディーケーケーは、環境計測器や工業用計測器のメーカーです。時価総額は160億円程度と小型株に分類されますが、水や大気、ガスの計測技術において専門性の高い機器を提供しています。東亜ディーケーケーの特徴や取り組み内容、配当推移などは以下の通りです。
東亜ディーケーケーの特徴
東亜ディーケーケーは総合計測機器メーカーであり、水やガス、大気、医療などの計測技術を柱として環境計測や化学分析まで幅広い分野の計測機器を手がけており、計測機器の分野では国内トップクラスのシェアです。特にPM2.5の測定装置では、大きな国内シェアを有しており、水の酸性やアルカリ濃度を測るpH計や、分析計では業界トップクラスという強みもあります。
さらに、東亜ディーケーケーは、グローバルな展開も積極的に行っており、アジア、北米、欧州など世界中で事業を展開しています。
水不足問題に対する取り組み
東亜ティーディーケーは水不足問題に対して積極的に取り組んでいます。水不足に拍車をかけている水質汚染対策では、水に含まれる成分を24時間連続して計測する高精度な計測機器を提供することで、水質管理や水質汚染の防止に貢献しています。
さらに、東亜ティーディーケーは、社会貢献活動として、水不足に苦しむ地域への支援活動にも取り組んでいます。例えば、アジアやアフリカの地域で、飲料水の安全性向上や水資源の持続可能な活用を支援するプロジェクトに参加しています。
株主還元情報
東亜ティーディーケーでは、株主優待制度と配当金による支払いを実施しています。株主優待制度は、株式を中長期的に保有してもらうことを目的としており、100株以上保有している株主に対して、買い物券やプリペイドカードを進呈しています。
具体的な優待内容は、100株以上で500円分、500株以上で1,000円分、1,000株以上で2,000円のクオカードとなっています。また、配当金の支払いは年に1回だけ実施されます。直近の配当推移は以下の通りです。
各年度 | 中間配当 | 期末配当 | 年間配当 |
---|---|---|---|
2019 | 0円 | 16円 | 16円 |
2020 | 0円 | 17円 | 17円 |
2021 | 0円 | 17円 | 17円 |
2022 | 0円 | 17円 | 17円 |
2023(予想) | 0円 | 17円 | 17円 |
まとめ
日本の上場企業の中には、水不足問題の解決に積極的に取り組んでいる企業があります。これらの企業は、水の効率的な利用や再利用、水質管理、水資源の保全や再生など、様々な手段を用いて水不足問題に対処しています。さらに、株主還元についても積極的な企業があるため、水不足問題に貢献しながら株主優待や配当金を受け取ることも可能です。
水不足問題の解決に積極的に取り組んでいる上場企業に関心のある方は、この記事を参考にご自身でも調査を進めてみてください。
HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム
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