リチウムイオン電池の先端リサイクル技術を開発するスタートアップPrinceton NuEnergy(PNE)は11月6日、シリーズA(資金調達ラウンド)で1,600万ドル(約24億円)を調達したと発表した(*1)。低温プラズマ分離支援(LPAS)を利用した直接リサイクル法(構成部材をできるだけ壊さずに取り出し再利用する)により、環境に大きなインパクトを与えるリチウムイオン電池のリサイクルを推進する。
今回の投資ラウンドは、電子機器リサイクルの業界リーダーである台湾ウィストロンが主導した。その他に、ホンダや英石油大手シェルのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)Shell Venturesなどが参加した。PNEは、調達資金を新たなリサイクル施設の建設と設備調達に充て、処理能力をさらに向上させる方針だ。
PNEはリチウムイオン電池材料のリサイクル、再利用、商品化に特化したクリーンテック分野のスタートアップだ。プリンストン大学の先端技術を基盤としており、2019年にスピンアウト(企業が特定の部門を分離して新会社として独立させること)した。
PNEのLPASは、リチウムイオン電池のリサイクルに関連するコスト、環境廃棄物、二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に削減する特許技術だ。具体的には、LPASを用いた直接リサイクルによりバージン材(新品の材料)と比較して、CO2排出量が68%減、水使用量が69%減、エネルギー消費量が73%減と、環境インパクトを大きく低減させる(*2)。
さらに、バージン材と比べてコストも44%削減しつつ、従来のリサイクル法である乾式精錬や湿式精錬法と比較して、より高い回収率と高品質・高付加価値の正極活物質を生産できる。
過去のシードラウンドに調達した700万ドル、シリーズAで調達した1,600万ドルに加え、PNEは米国エネルギー省(DOE)のSBIRプログラム(#1)を通じ、電池リサイクル関連の複数の研究助成金を獲得している。今回の資金調達により、PNEは重要鉱物の海外依存を低下させ、米国で質の高いクリーンエネルギー雇用の創出を拡大するというコミットメントの強化を図る。
50年ネットゼロ社会の実現に向けて、リチウムイオン電池搭載の新エネルギー車の生産が急拡大している。一方、車載用電池向けに安定供給するための重要鉱物の確保や環境インパクトの低減に向けて正極材料の効率的な再利用といった課題にも直面している状況だ。環境に配慮しつつリサイクル効率も高まるPNEのLPASを用いた直接リサイクル法が普及することに今後も期待したい。
(#1)SBIRプログラム…新興企業が研究開発を行うことを政府主導で支援するプログラム。
【参照記事】*1 PR Newswire「Princeton NuEnergy (PNE) Secures $16 Million in Series A Funding to Advance Lithium-ion Battery Direct Recycling Technology」
【参照記事】*2 Princeton NuEnergy「PNE Novel Plasma-Based Recycling Technology」

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