保険とIT(情報技術)を融合したインシュアテック企業と世界の保険大手との提携が加速している。米ネクスト・インシュランスは米保険大手オールステートおよび独保険大手アリアンツのデジタル投資部門アリアンツXと、米コアリーションはMS&ADホールディングスと提携し、それぞれ中小企業向けサービスの拡充を図る(*1、2)。
ネクストは11月1日、オールステートおよびアリアンツXと戦略的提携を締結した。オールステートとは、両社が有する中小企業向け保険の専門性を結集し、十分なサービスを受けられていない3,300万社の中小企業向けに革新的でユニークな新商品の開発、提供を目指す。アリアンツとは複数年のコミットメントにより再保険の強化に取り組む。
ネクストはオールステートおよびアリアンツXと提携すると共に、両社から2億6,500万ドル(約400億円)の出資も受けた。
ネクストは2016年にシリコンバレーで創業し、中小企業向けに特化したインシュアテックのスタートアップだ。人工知能(AI)と機械学習を活用したテーラーメイドの保険商品を開発し、イノベーションに立ち遅れていた中小企業向け保険市場に旋風を巻き起こしている。
個人向け自動車保険や住宅保険市場は保険契約や保険金請求のデジタル化が進んでいるが、商業保険は非常に複雑な商品であり、依然としてマニュアルプロセスに依存している状況だ。特に、大企業と比較して保険料が少ない中小企業向けは、より手間のかかるテーラーメイド型の保険を展開しづらかった。
そのような中、ネクストは僅か数クリックで保険見積もりを取れる独自の機械学習アルゴリズムなど最先端テクノロジーを活用することで、契約・サービスプロセスを簡素化し、シンプルで手頃な価格の商品を提供する。
中小企業経営者のニーズがデジタル化された顧客体験へとシフトする中、デジタルファーストなネクストのソリューションが選好されており、顧客数は50万社を超えた。会計ソフトの米インテュイットや福利厚生サービスの米ガストなどと提携しており、外部企業の商品・サービスに保険商品を提供するエンベデッド・インシュランス(組み込み型保険)分野のリーディングカンパニーでもある。
世界のインシュアテック市場規模は、22年に約54億5,000万ドルと試算されており、23年から30年までに52.7%以上の成長率で拡大する見込みだ(*3)。世界的に伝統的な保険会社がインシュアテック企業との提携を進め、AIなどを活用した企業の信用力評価などのスキル・ノウハウの取り込みを図っている。
インシュアテック分野には続々と新興企業が参入しており、日本企業との取り組みも活発化してきている状況だ。10月4日には、米コアリーションがMS&ADと戦略的パートナーシップを締結した。
提携を通じ、日本の中小企業に特化したサイバーリスク評価・診断サービスを低コストで提供することが期待できる。戦略的提携と併せ、MS&ADは日本の中小企業を対象に、コーリションが開発したリスク管理プラットフォームCoalition Control™を活用した初のサイバーリスク診断サービスの提供を開始したことも発表した。
インシュアテック企業と保険会社が協働し、新たなソリューションが生み出されることで、そのサービスを利用する法人・個人顧客にとっては、保険料の削減、分かりやすく透明性がある保険商品への加入、使い勝手が増すなど顧客体験の向上といったベネフィットの享受を期待できる。
【参照記事】*1 ネクスト・インシュランス「NEXT Insurance Enters Partnerships with Allstate and Allianz X, Supported by $265 Million Strategic Investment」
【参照記事】*2 コアリーション「Coalition and MS&AD Insurance Group Announce Partnership to Provide Cybersecurity Insurance Solutions in Japan」
【参照記事】*3 グローバルインフォメーション「インシュアテックの世界市場規模の調査・予測、タイプ別、サービス別、技術別、最終用途別、地域別分析、2023-2030年」

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