英国政府は10月4日、イングランド北西部と北東部の2か所の炭素回収・貯留(CCS)クラスターに25年間で最大217億ポンド(約4兆3,000億円)を拠出すると発表した(*1)。約400万台の自動車の排出量に相当する年間850万トン超の二酸化炭素(CO2)除去・貯留できる見込みであり、2050年のネットゼロ達成に向けた取り組みを加速させる。
新たな炭素回収およびCO2の回収・利用・貯留(CCUS)を活用した水素プロジェクトへの支援に加え、今回の新たな拠出により、プロジェクトをホストする地域コミュニティに80億ポンドの民間投資が呼び込み、4,000人の雇用を創出する見通しである。長期的には、知識移転を進めながら5万人の雇用を支え、その他の地域にも電力を供給する計画だ。
CCSは、20年以上にわたって世界中で展開されてきた実績のある技術を使用し、大気中に排出される前にCO2を回収し、海底に安全に貯留する。50年までにネットゼロを達成するという英国の戦略の重要な一部を構成している。
特に、鉄鋼、セメント、化学製品など排出量が多く、脱炭素化が困難な産業からの排出削減を可能にするソリューションとして注目されている。国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も、重工業の脱炭素化の重要な手段としてCCUSを支持している。
今回の拠出先には、イタリアのエネルギー大手エニが主導するハイネット・ノース・ウエスト・プロジェクトが含まれるマージーサイド州が挙げられる。同プロジェクトは、陸上にある産業プラントから排出されるCO2を回収し、北海の枯渇ガス田に恒久的に安全に貯留する。
もう1つの拠出先であるティーズサイドは、CCUSの展開を通じて、地域の産業、電力、水素企業における脱炭素化を目指すプロジェクトだ。ノーザン・エンデュランス・パートナーシップの拠点であり、英BPやシェル、ノルウェーのエイクイノール、仏トタルエナジーなどが参画する。
これらのプロジェクトは、英国をCCUSと水素の分野でグローバルリーダーとなる道筋をつけるものであり、今後数十年にわたって質の高い雇用と加速的な成長をもたらすことが期待されている。英国には200年分の排出量を貯留する能力がある。CCUSは気候危機への取り組みにおける画期的な方法であり、産業の脱炭素化を支援する。
エド・ミリバンドエネルギー安全保障・ネットゼロ相は「月曜日(9月30日)に英国における石炭の150年の歴史に幕が下ろされ、今日から新たな時代が始まる。今回の拠出により、英国の産業の中心地を再建するクリーンエネルギー革命の実現への道筋が整う」と述べた(*1)。
今回の発表は、23年12月に英国政府が発表したCCUSビジョン(※2)に続くものだ。CCUSビジョンは、英国をCCUSにおける世界のリーダーとして確立するという計画が示されている。
同計画の下、30年までに英国におけるCCUSを2,000~3,000万トンにまで増大させ、35年からは英国で競争力のある自立したCCUS市場を創出することを目標とする。英国が独特な地質、インフラ、能力、および780億トンのCO2を貯留できると推定される北海の貯留能力を活用し、他国に貯留サービスを提供する機会も模索する方針だ。
【参照記事】*1 GOV.UK「Government reignites industrial heartlands 10 days out from the International Investment Summit」
【参照記事】*2 GOV.UK「New vision to create competitive carbon capture market follows unprecedented £20 billion investment」
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