バイオテックのスタートアップ企業ストラクチャー・セラピューティクスは9月29日、肥満治療薬となる経口GLP-1受容体作動薬「GSBR-1290」の後期第1相臨床試験(フェーズ1b)で良好な結果を得られたと発表した(*1)。この発表を受け、同日の株式市場でストラクチャー株は約35%急騰した(*2)。
GLP-1受容体作動薬は、腸内のホルモンを模倣して食欲を抑制する。同社がリリースした資料によると、過体重や肥満の被験者がGSBR-1290を4週間にわたり1日1回服用することで、体重が平均10ポンド(約8.5kg)減少したという。ストラクチャーは、糖尿病と肥満の治療薬として、2つの長期にわたる中期臨床試験を行う計画を明らかにした。
ストラクチャーの経口薬は、ノボ・ノルディスクのブロックバスター(年間売上高が10億ドルを超える大型薬)である糖尿病治療薬「オゼンピック」や肥満症治療薬「ウゴービ」、イーライ・リリーの糖尿病治療薬「マンジャロ」などと競合する可能性がある。
より安価で容易に服用できる経口タイプのGLP-1受容体作動薬が登場すれば、患者の医薬品アクセスが向上し、肥満治療薬市場が拡大することが見込まれる。また、錠剤は注射薬よりも製造が簡単なため、オゼンピックやウゴービ、マンジャロなどのように供給不足に陥る可能性も低い。さらに、一般的には錠剤は注射薬よりも安価である(肥満症治療薬として安価なものが提供されるかは不明)。
ウゴービの定価は1ヵ月1,300ドル(約19万4,000円)を超え、オゼンピックは約935ドルである。ノボの2型糖尿病治療剤となる経口GLP-1受容体作動薬「リベルサス」は、1ヵ月30錠入りでオゼンピックと同価格となる。
臨床試験で減量効果が確認され、億万長者のイーロン・マスク氏やハリウッドセレブなどインフルエンサーがウゴービを使用していることもあり、糖尿病・肥満治療薬は世界的に注目を浴びている。
リリーは、肥満症治療薬「チルゼパチド」の第3相臨床試験(フェーズ3)で患者の体重が平均で26%減少したと発表した(*3)。第3フェーズで最も体重減少効果が高かったことから、今後、各国当局より承認を得られれば、爆発的に需要が拡大するウゴービよりも選好される可能性がある。
分析会社トリリアント・ヘルスの報告書において、2020年初頭から昨年末までの間に、オゼンピックウゴービなどの糖尿病・肥満症治療薬の処方箋枚数(四半期)が300%増加したことが明らかになった(*4)。
このデータは、米国人やウォール街で熱狂的な人気を博しているGLP-1受容体作動薬治療薬に対する需要の高まりを裏付けている。今後、旺盛な需要に対応するには、ノボやリリーといった製薬メーカーが供給不足を解消できるか否かに左右される。
週1回投与するオゼンピックは、2022年末時点で総処方箋枚数の65%以上を占めた。ただし、主に患者の減量を助けるという理由により、保険適応外で処方されている。
国立衛生研究所によれば、成人の5人に2人以上が肥満(BMIが30以上)、成人の約11人に1人が重度肥満(BMI40以上)となる(*5)。2023年8月には、ウゴービの大規模臨床試験で心血管疾患にも効果があることが示されており、肥満症だけでなく他の疾患リスクを減らすことで更なる需要の拡大が見込まれる。
ただし、これらの糖尿病・肥満症治療薬には、吐き気、嘔吐、下痢、低血糖などの副作用があり、服用には一定の条件が付されている。糖尿病と肥満症の治療は、まずは食事療法と運動療法が基本となることに留意したい。
【参照記事】*1 ストラクチャー・セラピューティクス「Structure Therapeutics Announces Positive Results from Phase 1b Clinical Study of Oral GLP-1 Receptor Agonist GSBR-1290 and Provides Program Update」
【参照記事】*2 Yahoo Finance「Structure Therapeutics Inc. (GPCR)」
【関連記事】*3 リリーの肥満症治療薬、臨床で体重26%の減少効果。ノボは独でウゴービ販売開始
【参照記事】*4 Trilliant health「2023 Trends Shaping the Health Economy Report」
【参照記事】*5 国立衛生研究所「Overweight & Obesity Statistics」
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