経済産業省は5月29日、「産業技術ビジョン2020」を公表した。「日本におけるイノベーションの停滞の本質的課題を見つめ直し、2050年に向けた産業技術の方向性と実現すべきこと」と提起し、これをひとつの契機としてイノベーションの好循環を生み出していくための指針を示す。2050年に向けた5つの世界の潮流と動向を踏まえながら、日本が抱える本質的課題を仮説として特定し、50年の産業技術の方向性と実現すべきことを取りまとめている。前提となる“避けられない世界の潮流”として挙げられているのは「世界人口のピークアウト」「SDGs、サーキュラーエコノミー」、「デジタル経済」「地政学的・保護主義的リスク」「レジリエンス強化」だ。
ビジョン策定の背景として「日本はSDGsの達成やサーキュラーエコノミーへの移行、災害・感染症対策などの社会課題の解決に対応するとともに、産業競争力の強化を図っていくため、一層のイノベーションの創出を必要としている。他方、近年の日本のイノベーションを巡る状況は芳しくなく、また、Society5.0への準備が整っていないことが今回の新型コロナウイルスによる危機によって浮き彫りとなった」と指摘。特に、人口減で規模の経済が見込めない中、「地球環境のバランスの崩壊により、これまでのような外部不経済を無視した経済活動は持続不可能となること。サーキュラーエコノミーを含む持続可能な地球環境の実現に向けて、経済活動の急激な転換が不可避」と強調している。
そのうえで同ビジョンは「改めて日本のイノベーションシステムが抱える本質的な問題を捉えつつ、産業技術という切り口から中長期的な視点で解決すべき課題を特定し、イノベーションの創出に取り組む必要がある」として、リソースを集中すべき分野のひとつに「エネルギー・環境テクノロジー」分野を挙げた。
また、世界の潮流に適応し、Society5.0実現に向けて変化にダイナミックに対応していくための鍵は、多様かつ有機的なイノベーションであり、知的資本の活用を基盤とする知的資本主義経済への移行は不可避だと指摘。さらに、50年に向けて、日本は、持続可能なグローバル・コモンズ(サイバー空間、リアル空間双方における人類の共有資産)を意識した価値観を内外に提示しながら、イノベーション産業の創出、すなわち技術や人材などの集積とネットワーク化、エコシステム形成において存在感を発揮し、国際貢献を果たしていくと主張する。
これからの30年を見据え、3つのレイヤー(階層)について解説している。レイヤー1は「個」の開放によるイノベーション力の強化。これは土台となる知的資本を生み出す「人」を中心とした投資の加速および知的資本の集積に向けた仕組み・インフラづくりを指す。レイヤー2は、自前主義・技術至上主義からの脱却、オープンイノベーションの推進。生み出されるシーズを実用化し、社会的な価値に昇華させるため、研究開発-ビジネス展開を一気通貫でつなぐ戦略を重視する。レイヤー3では「Society5.0実現に向けてリソースを集中すべき分野の特定」として、知的資本主義経済を動かすIntelligence of Things(より賢いモノとコトのつながり)・人間拡張、それらを支える次世代コンピューティングなどのデジタルテクノロジー、イノベーション産業としての潜在性も大きいバイオテクノロジー、あらゆる分野の基盤であるマテリアルテクノロジー、経済の負の側面を解決するエネルギー・環境テクノロジーの4分野を示した。
日本のイノベーションの停滞は、根深く複雑な課題であり、単一の特効薬は存在しないとして、「3つのレイヤーの取り組みを一体的・総合的に推進し、イノベーションの歯車を動かしていく」と締めくくっている。
【参照記事】経済産業省「「産業技術ビジョン2020」を取りまとめました」
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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