国際エネルギー機関(IEA)は5月23日、「世界電気自動車(EV)見通し2022」を公表した(*1)。同報告書によると、21年のEVとプラグインハイブリッド(PHV)販売は前年比倍増の660万台と過去最高を記録したという。EV電池の製造およびクリティカルミネラル(重要鉱物)の供給の多様化という課題も指摘する。
中国のEV販売は前年比3倍弱の330万と、世界全体の販売台数の半分ほどを占めた。中国のEVは一般的に他車と比べて小型であり、製造費用を削減しているため、従来車との価格差を大幅に縮めている状況だ。同国で販売されるEVの中間価格は従来車をわずか10%上回る一方、他の主要市場では平均して40~50%高く販売されている。
他の市場に目を転じると、欧州は同65%増の230万台、米国は同2倍強の63万台だった。サプライチェーン上に制約が生じるなか、22年第1四半期のEV販売は前年同月比75%増の200万台と好調を維持している。
EV普及に向けた各国の政策支援が、EV販売の好調につながる主な要因のひとつとなった。補助金やインセンティブといった公共支出は、21年に前年比倍増の約300億ドル(約4兆1,000億円)に達した。電動車の普及に向けた野心的な目標を掲げる国の数が増えるとともに、多くの自動車メーカーが政府目標を上回る電動化計画を推進している。21年末のEVの累計販売台数は1,650台と、18年の3倍に達する。
EV電池の製造に欠かせないクリティカルミネラルの価格高騰、ロシアによるウクライナ侵攻、および中国の新型コロナの感染拡大に伴うロックダウン(都市封鎖)が、EV市場の拡大を妨げる短期的な最大の障壁になるという。クリティカルミネラルのひとつであるリチウムの価格は、22年5月には21年初比で7倍超に上昇した。コバルトやニッケル価格も上昇している。他のすべての条件が同じで、クリティカルミネラルの価格がこのまま高水準で推移したとすると、EV電池のコストは15%上昇すること可能性があるという。また、長期的にはEV市場の拡大に見合った十分な充電インフラの整備が求められるとのことだ。
中国がリチウム、コバルト、グラファイトの精錬・精製能力の50%以上を握るなか、欧米は国内でEVのサプライチェーン構築に向けた取り組みを推進する。たとえば、米バイデン政権は50万基のEV充電器を設置する目標を掲げ、EV充電ネットワークの拡充に今後5年間で50億ドルを投じる計画を発表している。また、欧州ではEV充電器の整備が進むなか、欧州議会は6月8日、35年までにガソリン車などの内燃機関車の新車販売を事実上禁止する法案を賛成多数で可決した。
企業もEV戦略を推進する。米ゼネラル・モーターズ(ティッカーシンボル:GM)は35年までにEVへの全面移行を目指す。また、英石油大手シェル(SHEL)は中国のEV大手比亜迪(BYD、01211)と手を組み、シェルが構築した27万5,000か所の充電ポイントへのアクセスなどを提供する(*2)。
【参照記事】*1 IEA「Global electric car sales have continued their strong growth in 2022 after breaking records last year」
【参照記事】*2 英シェルと中国BYD、EV充電強化など戦略的提携。社用車のCO2排出量実質ゼロを目指す。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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