水電解装置開発のスタートアップ企業エレクトリック・ハイドロジェン(以下EH2)は10月3日、シリーズC(資金調達ラウンド)で3億8,000万ドル(約570億円)を調達したと発表した(*1)。今回の調達資金を元手に、大容量のグリーン水素装置の製造および商用化を加速させる方針だ。
今回の投資ラウンドは、米ベンチャーキャピタルのフィフスウォールなどが主導し、既存の戦略的投資家であるアマゾンのクライメート・プレッジ・ファンドや三菱重工業、ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ(*1)などに加え、新たにマイクロソフトの気候イノベーションファンドや鹿島のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)Kajima Venturesなども加わった。
EH2の電解装置は、再生可能な電力と水を利用してグリーン水素を製造する。グリーン水素は、肥料製造、製鉄、基礎化学などの産業が脱炭素化を図る上で求められている。同社によると、今日製造されている水素は天然ガスや石炭由来であり、水素を国に例えると、世界第7位のCO2排出国になるという(*2)。
また、化石燃料由来から再生可能なグリーン水素へ転換するにはコストが高すぎるため、これまで大規模な導入には至っていない。電化が難しい産業向けに排出削減を図るとともに、ローコストな新技術が求められている状況だ。
EH2の電解装置はそれらの課題解決に資する。同社の電解装置は、大量の電気分解セルを使用することにより、今日利用可能な技術を用いるよりも革新的な低コストで水素を製造できる。EH2は生産能力100メガワット(MW)の電解装置を製造し、納入・運転する予定だ。日量50トンほどのグリーン水素を革新的な低コストで製造でき、顧客の脱炭素化目標の達成を後押しする。
同社は現在、マサチューセッツ州デベンズの生産能力1.2GWの工場に製造設備を設置している。この工場は2024年初頭に電解装置の製造を開始する。そしてテキサス州にて、顧客サイトとしては初となるニュー・フォートレス・エナジー(NFE)向け電解装置プラントを含め、年内に納入していく予定だ。EH2は5ギガワット(GW)以上の電解装置の予約注文も受けており、旺盛な需要が継続すると見込んでいる。
世界各国が、50年ネットゼロの達成に向けてグリーン水素の利活用を進めている。世界のグリーン水素市場は、2022年から2029年の間にCAGR(年平均成長率)20.9%で大幅に拡大する見通しである(*3)。市場の成長において大きな課題となる製造コストの高さが解消されれば、グリーン水素の普及が加速すると考えられる。大幅に低コストでグリーン水素を製造できるEH2への需要拡大も期待できそうだ。
(*1)ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ…2016年に環境や衛生問題の解決に取り組むビル・ゲイツ氏が立ち上げた気候ファンド。アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏、世界最大級のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツ創業者レイ・ダリオ氏など、錚々たるメンバーが出資する。
【参照記事】*1 businesswire「Electric Hydrogen Raises $380 Million to Transform the Economics of Green Hydrogen Production」
【参照記事】*2 EH2「We manufacture and commission the world’s most powerful electrolyzers for critical industries to produce the lowest cost green hydrogen」
【参照記事】*3 グローバルインフォメーション「グリーン水素の世界市場-2022-2029」
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