英中央銀行のイングランド銀行は5月、気候変動が同国の大手金融機関に与えるリスクを測るストレステスト(健全性審査)の結果を初めて公表した(*1)。イングランド銀行は気候変動を「最優先」の戦略課題に位置づけており、追加的な政策を実施しない場合には2050年までの30年間で3,340億ポンド(約55兆円)の損失が生じる可能性があると試算する。
同ストレステストは、HSBCホールディングス(ティッカーシンボル:HSBC)やアビバ(AV)といった大手の銀行・保険会社19社を対象とし、気候変動が事業や運用資産に及ぼす影響を把握するためのものだ。大手格付け会社フィッチ・レーティングスによると、イングランド銀行によるストレステストは、中央銀行が実施したもので最も厳格なものであったという(*2)。
今回のストレステストでは、気候変動への追加的な政策を①早期に実施、②実施が遅れる、③実施しないという3つのシナリオ分析を行った。気候変動対策を全く講じない場合には、30年間で3,340億ポンドの損失が生じる可能性があるとの試算が示されている。早期に実施するシナリオでも、2,090億ポンドの損失を見込む。ただし、気候変動ストレステストは通常のストレステストと異なり、合格・不合格を示さず、現時点で不合格の金融機関に対して自己資本の積み増しを求めることはない。
イングランド銀行のサム・ウッズ副総裁は「気候リスクが年間の利益を約10~15%下押しする可能性がある」と述べた(*3)。一方で、炭素集約型産業への融資を即座に打ち切ることで、エネルギー価格の上昇など逆効果が生じ得ることに鑑み、同産業の低炭素化への移行をサポートする融資をつづける必要があるとも指摘する。
気候変動リスクに適切に対処しなければ甚大な損失を被る可能性があるなか、欧州の金融機関は気候変動対策の取り組みを積極化している。独保険大手アリアンツ(ALV)は30年までにネットゼロの達成を目指すほか、一部の石油・ガス事業への投資・保険引受を停止する(*4)。HSBCは40年までに石炭火力発電と石炭採掘への融資を段階的に廃止する詳細な方針を示している(*5)。
【参照記事】*1 イングランド銀行「Results of the 2021 Climate Biennial Exploratory Scenario (CBES)」
【参照記事】*2 フィッチ・レーティングス「UK Climate Stress Test for Banks, Insurers Is the Toughest Yet」
【参照記事】*3 イングランド銀行「Climate capital − speech by Sam Woods」
【関連記事】*4 独アリアンツ、2030年までにネットゼロ目指す。石油・ガスへの一部引受・投資停止
【関連記事】*5 【欧州株情報】HSBC 石炭関連融資の廃止に向けた詳細な方針を発表
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