英金融大手のHSBCホールディングス(ティッカーシンボル:HSBC)は12月14日、2040年までに石炭火力発電と石炭採掘への融資を段階的に廃止する詳細な方針を発表した(*1)。
具体的には、欧州連合(EU)と経済協力開発機構(OECD)の加盟国は2030年まで、その他の全世界では2040年までに石炭関連の融資を廃止する計画だ。温暖化対策の国際ルールである「パリ協定(#1)」で掲げられた、産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える目標を実現するためには、石炭火力発電の二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に削減する必要があると認識されている。そのような中、2050年までにネット・ゼロ(CO2排出量を実質ゼロにする)を目指すHSBCの方針に適合しないエネルギー移行計画をもつ顧客への融資を段階的に廃止する。
この取り組みは、2050年またはそれ以前のネット・ゼロ達成を目指し、自社の融資先・投資先企業の排出量をパリ協定の目標に適合させるうえで重要な意味を持っている。グループ・チーフ・エグゼクティブのノエル・クイン氏は「特にアジアのエネルギー・トランジション(#2)分野への融資において中核を担いたい」と述べている(*2)。
1.5℃目標に沿う形での石炭火力発電によるCO2排出の削減に向けて、2022年には科学的根拠にもとづく融資先・投資先企業の排出量目標を公表するという。また、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD、#3)のレポートにもとづき、石炭関連融資のエクスポージャーを2025年までに少なくとも25%、2030年までに50%削減する方針だ。年次報告書において、石炭関連融資のエクスポージャー削減に関する進捗も公表する。
HSBCは新たに打ち出したこの方針の影響を受ける顧客に対し、2023年末までに移行計画の策定と公表を促す。そして、排出量削減に寄与するテクノロジーを含む移行戦略の明確性・信頼性や、情報開示の適切性などにもとづき、顧客それぞれが公表する計画を毎年評価する。計画が2050年までにネット・ゼロを目指すHSBCの目標と合致しない場合、新規の融資や借り換え、およびアドバイザリーサービスを提供しない意向である。
HSBCは環境関連の課題に対して積極的に取り組んでいる状況だ。2020年10月には、顧客の低炭素経済への移行を支援するために2030年までに7,500億ドルから1兆ドルの融資および投資を行う目標を掲げた。また、アジア開発銀行(ADB)が主導するエネルギー・トランジション・メカニズム(ETM、#4)を支援している。そのほかにも、150以上の団体で構成される脱石炭連盟(PPCA)にも加盟し、石炭火力発電に頼らない事業の推進や発電の支援などに取り組んでいる。
なお、2016年から20年の5年間に、世界各国の主要60行は石炭・石油・天然ガスといった化石燃料のライフサイクルに関連する企業2,300社に3兆8,000億ドルの融資を行った(*3)。これはドイツ1国のGDPに匹敵するほどの規模だ(*4)。
化石燃料のライフサイクルに関連する2,300社を対象に融資を行った上位10行の融資額は以下の通り。
順位 | 銀行 | 融資額 |
---|---|---|
1 | JPモルガンチェース | 316 |
2 | シティ | 237 |
3 | ウエルズファーゴ | 223 |
4 | バンクオブアメリカ | 198 |
5 | ロイヤル・バンク・オブ・カナダ | 160 |
6 | 三菱UFJフィナンシャルグループ | 147 |
7 | バークレイズ | 144 |
8 | みずほフィナンシャルグループ | 123 |
9 | トロント・ドミニオン銀行 | 121 |
10 | BNPパリバ | 120 |
出所:「Banking on CLIMATE CHAOS fossil fuel finance report 2021(*3)」をもとに筆者作成
脱炭素化が喧伝されるなか、上記の金融機関においても石炭を始めとする化石燃料向けから、クリーンエネルギー向けの融資へとシフトする動きが強まることが予想される。
(#1)パリ協定…2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組み。世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求することを目的としている。
(#2)エネルギー・トランジション…従来の石炭や石油などの化石燃料を中心とするエネルギー構成から、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを中心としたものに大きく転換していくこと。
(#3)気候関連財務情報開示タスクフォース…企業・団体などに対して気候変動がもたらすリスクおよび機会の財務的影響を把握し、開示することを提言する組織。
(#4)エネルギー・トランジション・メカニズム…既存の石炭火力発電所の稼働を前倒しで停止し、クリーンな発電施設に置き換えることを目指す取り組み。
【参照記事】*1、2 HSBC「HSBC announces thermal coal phase-out policy」
【参照記事】*3 バンクトラックなど「Banking on CLIMATE CHAOS fossil fuel finance report 2021」
【参照記事】*4 外務省「ドイツ連邦共和国(Federal Republic of Germany)基礎データ」
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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