独保険大手アリアンツ(シンボル:ALV)は4月29日、気候変動に関する新たなコミットメントを公表した(*1)。2030年までにネットゼロの達成を目指すほか、一部の石油・ガス事業への投資・保険引受の停止などを通じ、脱炭素社会の形成に向けた取り組みを推進する。
アリアンツは事業展開する70以上の市場で温室効果ガス(GHG)の排出をおさえ、30年までにネットゼロの達成を目指す。達成時期を当初の50年から大きく前倒しする。その目標達成に向けて、23年までに再エネ100%の電力調達を図るほか、25年までに出張に伴うGHG排出を40%削減し、遅くとも30年までに社用車を完全に電気自動車に切り替える。
アリアンツは15年に石炭火力に絡む融資を、そして18年に保険引受を停止し、40年までに石炭関連企業への投資や保険事業からの撤退を目指している。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した最新のレポートでは、産業革命以前からの気温上昇を1.5度以内におさえるためには、世界全体のGHG排出量を30年までに19年比で43%削減する必要があるとの分析がなされた(*2)。そのようななか、アリアンツは石炭につづき石油・ガス業界向けの投資および保険引受に関する戦略も見直す決断を下した。
具体的には、23年より自己勘定取引(#1)と損害保険事業において、新規油田・ガス田の探査・開発や、ミッドストリーム分野のインフラと石油火力発電所の建設プロジェクトへの出資をやめる。また、25年よりオイルサンド事業が売上高の10%(従来は20%)以上を占める企業への保険の提供や出資を停止する。
さらに25年より、SBTi(#2)の1.5度シナリオを満たし、スコープ1~3(#3)すべてでネットゼロ基準に沿い、50年までにネットゼロの達成にコミットする企業のみに投資および保険引受を行う。ただし、この基準は20年に6,000万原油換算バレル超生産する大手石油・ガス会社に適用する。さらに、700の投資家が参画する投資家団体「クライメート・アクション(Climate Action)100+」のネットゼロ企業ベンチマーク要件を満たした企業運営および情報開示を求める。
一方で、グリーンエネルギーや低炭素エネルギー関連のプログラムへの投資および保険引受を継続し、再生可能エネルギーへの転換を支援する。そのほか、世界各国のすべてのサプライヤーに対し、25年までに1.5度シナリオに沿ってネットゼロを達成することを公約するよう要請する。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、原油や天然ガスを増産する動きがあるが、保険会社や銀行といった世界の機関投資家は脱炭素に向けた取り組みを推進しているようだ。たとえば、アリアンツと競合する仏アクサ(CS)は石炭火力発電プロジェクトとオイルサンド事業への保険引受を停止している。保険会社に対して化石燃料関連事業への引受や投融資を停止するよう求める環境NGOの国際ネットワーク「Insure Our Futureキャンペーン」によると、17年以降に35社の保険会社が石炭事業への保険引受を停止しているという(*3)。
銀行業界も脱石炭を加速させている。英金融大手のHSBCホールディングス(ティッカーシンボル:HSBC)は40年までに石炭火力発電と石炭採掘への融資を段階的に廃止する方針を発表した(*4)。ドイツ銀行(DBK)や仏BNPパリバ(BNP)なども石炭関連ビジネスへの新規融資を中止している。
ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家の資金量が急拡大するなか、自社だけでなく投融資・保険引受先にも気候変動対応を求める動きが今後も広がりそうだ。
(#1)自己勘定取引…自社の資本をつかって市場取引を行うこと。
(#2)SBTi…科学的根拠に基づく排出削減目標の設定を推進する国際的な環境団体。
(#3)スコープ1…事業者みずからによるGHGの直接排出。
スコープ2…他社から供給された電気や熱などを使用して発生する間接排出
スコープ3…事業者の活動に関連する取引先の排出
【参照記事】*1 アリアンツ「Allianz reinforces its commitment to net-zero strategy」
【参照記事】*2 気候変動に関する政府間パネル「The evidence is clear: the time for action is now. We can halve emissions by 2030.」
【参照記事】*3 JACSES「Microsoft Word – IoFスコアカード報告書2021」
【関連記事】*4 HSBC 石炭関連融資の廃止に向けた詳細な方針を発表
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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