バイオニックハンド(生体工学の技術を用いた高機能な義手)を開発するスタートアップAether Biomedicalは11月13日、シリーズA(資金調達ラウンド)で580万ドル(約8億8,000万円)を調達したと発表した(*1)。主力製品Zeus Handの製造や研究開発を推進する。
今回の投資ラウンドは、米ベンチャーキャピタルのJ2 VenturesとStory Venturesが主導した。調達した資金を元手に、Zeus Handの製造態勢を拡充するほか、人間中心設計(HCD、#1)に基づいたヘルスケア技術とロボット工学を用いたソリューション開発を使命として研究開発を進める。Aetherの従業員の75%は研究開発に専念している。
Aetherは2017年に設立され、ポーランドを本拠地とし、米国やインドにも拠点を持つ。同社が開発したZeus Handは上肢切断者を対象とし、手首から肩までの切断レベルであれば誰でも使用できる。最大77lbs(約35kg)の重量を持ち上げることができ、カスタマイズ可能な12種類のグリップパターンをリアルタイムに切り替えられる。
医師によって腕用の義手ソケットを装着されると、Zeus Handはその先に固定される。腕の筋肉の電気信号を変換することで機能する。患者がボトルを持ったり、針をつまんだりする握りを思い浮かべると、Aetherのセンサーがこれらの電気信号を検出し、ソフトウェアがそれを動作に変換する仕組みだ。
患者はより強力なグリップを求めている。上肢義肢を長期間に亘り毎日使用するとメンテナンスや修理に支障をきたす。Aetherはそれらのアンメットニーズに応えるべく、最新のスマートホームデバイスのようなクラウドベースの新技術を開発したほか、握力を他のバイオニックハンドに比べて30~40%向上させた。
また、交換部品を臨床医に直接送ることで、修理にかかる期間を6~8週間から翌日の航空便時間にまで短縮した。Zeus Handは、メンテナンスが必要な際にメーカーに送る必要のない唯一のバイオニックハンドとなる。
更に、Zeus Handは米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けており、メディケア(#2)および主要な保険会社の保険が適用されることは特筆に値する。
Aetherは17年の創業以来、250以上のZeus Handを製作してきた。今後は、ウクライナを含む紛争地域にも同製品を提供していく計画だ。
(#1)人間中心設計…顧客の本質的なニーズを捉えた体験の実現と使いやすさ (ユーザビリティ) の向上を図る取り組み。
(#2)メディケア…65歳以上の高齢者や65歳未満の障がい者などを対象とする公的医療保険。
【参照記事】*1 Business Wire「Aether Biomedical Announces Series A Funding Round Close, Pushes Forward Future of Upper Limb Prosthetics」

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