ブロックチェーンと聞くと「仮想通貨」や金融分野に活用されているイメージがあるかもしれませんが、実際には金融領域以外にも活用が期待されています。加賀市は2018年に「ブロックチェーン都市宣言」を発表し、そして今回、NFTを活用した「e-加賀市民制度」の実証実験を実施することを2021年12月に発表しました。
電子上の住民である「e-加賀市民」の創出を目指した制度で、2023年からの正式導入を計画しています。ここではブロックチェーンがなぜ地方自治体で活用されているのかなど詳しい内容について解説します。
目次
- 始まりは2018年「ブロックチェーン都市宣言」発表
- 2021年12月「e-加賀市民制度」の実証実験の実施へ
- NFTデザイナーやクリエイターなど事前選定者ら100名を集める
- 自治体がブロックチェーンを活用するメリット
- スーパーシティ・デジタル田園健康特区とは
- まとめ
①始まりは2018年「ブロックチェーン都市宣言」発表
加賀市はNFTを活用した「e-加賀市民制度」の実証実験を行う以前に、2018年に同市と株式会社スマートバリューは「ブロックチェーン都市宣言」を発表しています。ブロックチェーンとICT技術を中核として、「新たな産業・経済の創出」、「教育・雇用の創出」、「電子行政の推進」を通じて、自律・自走する地域のモデルとなることを目指すプロジェクトです。
デジタル個人認証技術でマイナンバーカード等と紐づけた電子上の市民「e-加賀市民」という新たな制度は、ブロックチェーン技術を活用した幅広い電子行政サービスです。スマートフォンとマイナンバーを紐づけし、市民の持つ端末から投票できる電子投票システムや、住民票を持たないながらもマイナンバーとの紐づけで市内各種サービスを受けることができる電子市民制度の実証に至っています。
そしてプロジェクトの第一弾として、2019年5月31日に加賀市は株式会社スマートバリューと共同で、ブロックチェーンを用いた住民ID基盤である「GaaS」と、住民と地域サービスをマッチングする「加賀POTAL」を合わせて公開し、新たな地域サービスのプラットフォームの展開をスタートさせました。全国の自治体で、ブロックチェーン技術を行政サービスに活用したサービスを開始するのは、当時は全国初となります。
2022年には、岡山県吉備中央町、長野県茅野市と共に「デジタル田園健康特区」に指定されています。
②2021年12月「e-加賀市民制度」の実証実験の実施へ
同市のNFT活用による100万人の関係人口創出施策「e-加賀市民制度」の正式導入に向け、実証実験を実施することを12月7日発表しました。なお関係人口とは、移住した定住人口でもなく、観光に来た交流人口でもない、地域と多様に関わる人々のことを指す言葉です。
加賀市による「e-加賀市民制度」は、関係人口の創出ににより同市への将来的な移住・定住を図ることを目的に、従来の市民と市民以外に加え、電子上の住民である「e-加賀市民」の創出を目指した制度とのことです。同市はこの制度を、2023年からの正式導入を計画しているといいます。
なお同実証実験は、ソニーのグループ内スタートアップで、デジタル技術を活用してコミュニティの課題解決を手掛けるコーギアが採択事業者として支援します。同社の支援内容としては、NFTを活用した「e-加賀市民サイト」の開発・提供、実ロケーションに紐づいたデータ分析、コミュニティ運営を行うとのことです。なお実証実験は来年23年3月6日から3月24日の期間にて実施する予定とのことです。
③NFTデザイナーやクリエイターなど事前選定者ら100名を集める
実証実験では、参加者に「e-加賀市民」に登録してもらい、システム及び提供サービスを体験してもらうことで、「e-加賀市民制度」開始に向けた課題の洗い出しを実施するとしています。参加者は、暗号資産(仮想通貨)・NFT利用者やデザイナー・クリエイターなどの事前選定者の他、一般の参加希望者から100名程度を集めるそうです。
また実証実験の参加者には特典として、e-加賀市民証となるオリジナルNFTの進呈やオンラインとオフラインで提供するe-加賀市民専用コミュニティへの参加、乗合タクシーの利用、市内宿泊事業者の協力によるワーケーションサービスの利用が提供されるとのことです。
なおこのオリジナルNFTは、講談社「バガボンド」「ジパング」等の題字を手掛けた「SYO ARTIST」吉川壽一氏がデザインを担当しています。実証実験に関する募集・告知は、2023年1月以降に実施予定とのことです。
④自治体がブロックチェーンを活用するメリット
「ブロックチェーン」と聞いてすぐに何かわかる人は比較的少ないかもしれません。ブロックチェーン技術は分散型台帳技術とも呼ばれ、簡単にいうとネットワーク参加者による取引の記録を正確に保存できるという技術です。従来のデータ管理方式は一つの機関が中央集権的にユーザーのデータを管理しており、データの改ざんなどの不正を防ぐことが困難でしたが、分散的な管理を可能にするブロックチェーン技術を使うことで情報の透明性を高めこうした問題を防ぐ効果が期待されています。
自治体がブロックチェーンを導入するメリットとしては、不正や改ざんがされにくい、契約業務の効率化、運用コストの削減などが挙げられます。こういったブロックチェーンの技術は食品のトレーサビリティの分野でも活用が進んでおり、地方自治体が運用するサービスにも活用が期待されています。
⑤スーパーシティ・デジタル田園健康特区とは
2022年4月、つくば市(茨城県)と大阪市(大阪府)の2地区がスーパーシティ特区として正式に決定しました。これは内閣府の国家戦略特区が、国家戦略特区制度を活用したデジタル田園都市国家構想を推進しています。スーパーシティ構想の概要は、住民が参画し、住民目線で、2030年ごろに実現される未来社会を先行実現することを目指すとしています。
ポイントとなっているのは①生活全般にまたがる複数分野の先端的サービスの提供、②複数分野間でのデータ連携、③大胆な規制改革、となっています。これらを実現するための手段の一つとしてブロックチェーンの活用は必然と言えるでしょう。
またスーパーシティを実現するためには、公職選挙におけるインターネット投票の実施が含まれています。マイナンバーカードとブロックチェーンを活用することで公職選挙において信頼性の高いインターネット投票を実現できるか技術的検証を実施するとしています。2023年は規制所管省庁と調整等を踏まえ、インターネット投票の制度化を検討しています。そして2024年から先ずは、スーパーシティ型国家戦略特区のつくば市の市長・市議会選挙でインターネット投票の導入を目指すとしています。
加賀市はデジタル田園健康特区に入っており、デジタル技術を活用し、健康・医療などをはじめとした地域の課題解決に重点的に取り組むことにより、「デジタル田園都市国家構想」を先導するモデルとなることを目指すことが目標となっています。
⑥まとめ
地方のデジタル化は生活環境を快適にするだけでなく、地方に住んでいても都会と大差ない便利さを実感することができます。リモートワークが進み、都市にいなくてもリモートで仕事ができるようになった昨今、行政のサービスもさらなるデジタル化は必須といえます。ブロックチェーンを活用したデジタル化は地方創生の促進にも繋がるでしょう。
加賀市ではNFTを活用した「e-加賀市民制度」の実証事業実施の発表同日に、Web3.0時代において世界をリードする人材が集まる拠点づくりに向け、ブロックチェーン戦略政策研究所との連携協定の締結を発表しています。今後、地方自治体でブロックチェーンの活用が積極的に行われることで、スーパーシティ・デジタル田園健康特区の認定地域も増えていく可能性もあります。これからの地方自治体の取り組みに注目していきたいところです。
立花 佑
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