不動産ディベロッパーのESG・サステナビリティの取り組みは?先進的な企業も

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不動産事業では、建築や運営に関連するエネルギー消費や資材の利用などにより、二酸化炭素排出量が高くなることもあります。そのため、脱炭素や再生エネルギーの活用、持続可能な建築資材の利用など、環境負荷の低減につながる活動を行う不動産ディベロッパーが増えており、中には最先端技術を活用してESGに取り組む先進的な企業も存在します。

この記事では、不動産ディベロッパーによるESG・サステナビリティの取り組み内容を詳しくご紹介するので、ESG投資に関心のある方は参考にしてみてください。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年8月6日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. 不動産ディベロッパーがESG・サステナビリティに取り組む理由とは
  2. 三井不動産(8801)
    2-1 温室効果ガス排出量の削減
    2-2 持続可能な街づくり
  3. 野村不動産(3231)
    3-1 脱炭素に向けた取り組み
    3-2 生物多様性の維持に関する取り組み
  4. 三菱地所(8802)
    4-1 廃棄物削減・汚染防止
    4-2 人権とダイバーシティの推進
  5. まとめ

1 不動産ディベロッパーがESG・サステナビリティに取り組む理由とは

不動産事業における二酸化炭素排出削減は業界全体の課題です。建物を建築する際、材料の輸送や現場での機械の使用、廃棄物の処理などが二酸化炭素排出量を増加させる要因となっているためです。二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの増加は、地球温暖化や自然破壊を引き起こし、地球環境に悪影響を与えています。

特に、大規模な開発プロジェクトや施設運営においては、環境配慮型の設計や運営が求められており、近年、不動産業界では持続可能な社会に向けてESG(環境、社会、ガバナンス)やサステナビリティに取り組む企業が増えています。

例えば、NZH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やNZB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)と呼ばれる、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指す建物の普及や、BEMS(ビル・エネルギー管理システム)の導入です。こうしたエネルギー起源の二酸化炭素排出を削減する取り組みに加え、環境負荷の低い材料を選ぶことも二酸化炭素の排出削減につながる取り組みです。

それでは、ESG活動を行う国内大手不動産ディベロッパーの取り組み事例を、具体的に確認してみましょう。

2 三井不動産(8801)

三井不動産は、国内大手企業グループの三井グループに属する不動産ディベロッパーです。2022年度には過去最高となる2.2兆円超の売上高を記録しました。三井不動産の長期経営方針であるVISION 2025の中では、「街づくりを通して、持続可能な社会の構築を実現」が掲げられており、ESG活動を積極的に行っています。

同社のサステナビリティに対する取り組みは外部団体からも評価されており、ロンドン証券取引所の出資会社であるFTSE社のFTSE4Good Index Seriesや、S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数、MSCIジャパン・ESGセレクト・リーダーズ指数といった指標を構成する企業として選出されています。

三井不動産が重点的に取り組むサステナビリティの目標は、以下の6つです。

  • 街づくりを通した超スマート社会の実現
  • 多様な人材が活躍できる社会の実現
  • 健やか・安全・安心なくらしの実現
  • オープンイノベーションによる新産業の創造
  • 環境負荷の低減とエネルギーの創出
  • コンプライアンス・ガバナンスの継続的な向上

2-1 温室効果ガス排出量の削減

三井不動産は、気候変動への対応として、「グループ全体の温室効果ガス排出量を2030年度までに40%削減(2019年度比)、2050年度までにネットゼロ」を目標に掲げています。そのために、建物の環境性能向上、物件共用部等の電力グリーン化、入居者へのグリーン化メニュー提供、建築時における二酸化炭素の排出量削減などの取り組みを行っています。

環境性能の高い建物の建築

建物の環境性能向上の例として、2018年にオープンした「東京ミッドタウン日比谷」には様々な省エネ、創エネ、畜エネの技術が生かされています。外装やガラスには熱負荷を軽減する素材を採用したり、昼光や人感センサーを利用し照明を制御したりし、省エネに取り組んでいます。

また創エネ分野では、ガスコージェネレーションシステムの排熱利用や、太陽光発電設備(発電能力約20kw)を屋上に設置しています。このほか、雨水の利用や、厨房等からの排水を中水処理して浄化し、再利用することで、水資源の有効活用にも取り組んでいます。

脱炭素を目指した建築

三井不動産の子会社である三井ホームの「MOCXION(モクシオン)」は、ツーバイフォー工法を軸に建築された木造マンションです。MOCXIONは、木造ながら、鉄やコンクリート製のマンションを含めた耐震性等級で最高評価の等級3を取得し、耐久性評価でも等級3を獲得しています。

またツーバイフォー方式とは、2インチ×4インチの木材で枠組みを作り、それを構造用面材と呼ばれる大きな板に接合したものを床、天井、壁などにする工法です。この工法で建築された建物は、断熱性、耐震性、耐火性、省エネ性等に優れており、また解体後に木材を再利用することも可能です。そのため、鉄骨やコンクリートの建物と同等の耐久性を維持しながら、マンションの建築時・使用時・解体時の二酸化炭素排出量を削減することが期待されています。

このほか、2022年3月に建築設計事務所の日建設計と共同して「温室効果ガス排出量算出マニュアル」を策定し、建築時の二酸化炭素排出量をより正確に把握できる環境を整えています。

従来は、工事総額に一定の単価を乗じて算出する簡易な計算方法であったため、排出量を正確に算出することが困難でした。しかしマニュアル策定後は、より高精度な排出量の計算ができるよう、部材ごとの算出方法に見直しています。その結果、建築時における適正な部資材や設備の利用、低炭素材や低炭素な建築手段の活用がしやすくなり、建設現場の脱炭素の取り組みを促進しています。

森林保全による脱炭素の取り組み

建築時の二酸化炭素排出量削減の例として、森林の保有や活用が挙げられます。三井不動産は、北海道に約5,000ヘクタールの森林を保有・管理しており、保有林が吸収する二酸化炭素の量は、年間約17,251トンに及ぶと同社は発表しています(2022年時点)。さらに、三井不動産は保有林を建築資材として活用することで、他の森林資源の減少を抑えています。

(※参照:三井不動産「ESG/サステナビリティ」、「ESGレポート」)

2-2 持続可能な街づくり

三井不動産は、公民学連携組織のUDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)が主体となり進めている「柏の葉スマートシティ」の街づくりに携わっています。柏の葉スマートシティは、新たな事業の創造、人々の健康長寿、持続的な地球環境保全を課題テーマとして進められているプロジェクト(都市計画)です。

協働と健康を促す街づくり

例えば、「新たな事業の創造」では、会員制共有ワークスペースを設けることで、様々な職種の人が集まって協働プロジェクトを生み出せる環境を整えています。また、「人々の健康長寿」では、ランナーの交流施設の設置やランニングアプリの作成、健康データの計測、健康に関する情報を手軽に得られる施設を用意しています。さらには、再生エネルギーや電力ネットワークと情報通信技術を融合させたスマートグリッドの活用により、地球環境にやさしいまちづくりを促進しています。

安全安心を目指した街づくり

また、UDCKを母体とするUDCKタウンマネジメントと三井不動産は、2021年9月に当時最先端技術であるAIカメラを柏の葉スマートシティに導入しました。AIカメラとは、人工知能の機能が組み込まれているカメラで、映像を記録するだけではなく、画像認識技術も備えているのが特徴です。柏の葉スマートシティに設置されたAIカメラにより、人が倒れたり、うずくまったりするなどの異常行動や凶器所持などの危険行動の検知や人流分析が可能になります。

このような最先端技術を提供する先進的な企業として、三井不動産は、人々が安心安全な形で生活できる環境づくりに貢献できるよう努めています。

※三井不動産「柏の葉スマートシティ」、「柏の葉キャンパス駅周辺にAIカメラを導入

3 野村不動産(3231)

野村不動産は、住宅、ホテル、オフィスビル、物流などの分野で事業を展開する国内の不動産ディベロッパーであり、分譲マンションの「PROUD」など多数のブランド商品を保有しているのが特徴です。サステナビリティポリシーとして、「人間らしさ」「自然との共生」「共に創る未来」をテーマとしています。2030年度までに取り組むべき重点課題(マテリアリティ)として、以下の5つを特定しています。

  • ダイバーシティ&インクルージョン
  • 人権
  • 脱炭素
  • 生物多様性
  • サーキュラーデザイン

野村不動産は、FTSE4 Blossom Japan Indexや、S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数、MSCIジャパン・ESGセレクト・リーダーズ指数の構成銘柄にも選ばれており、同社のサステナビリティの取り組みは外部団体からも評価されています。

(※参照:野村不動産「ESG投資家の皆さまへ」)

3-1 脱炭素に向けた取り組み

野村不動産グループは、気候変動への取り組みを推進するため、「温室効果ガス削減」「エネルギー使用量の削減」「太陽光発電の促進」の3つの目標を掲げています。再生可能エネルギーから得られたグリーン電力を活用することは、温室効果ガス排出を抑え脱炭素の実現につながる取り組みの一つです。そこで、野村不動産では太陽光発電による再生可能エネルギーの活用を推進しています。

野村不動産は、太陽光パネルを物流施設19棟に設置しており、その全体の総発電量は年間で22,801メガワットに及びます(2022年3月時点)。さらに、東京電力エナジーパートナーと協働し、野村不動産が扱う首都圏の分譲戸建住宅「PROUD SEASON」(年間約300戸)に対する、総発電規模1,000キロワット級の太陽光発電の導入を2022年5月に発表するなど、グリーン電力の導入を加速させています。

また、分譲マンションにおける二酸化炭素排出削減の取り組みとして、床空調システムである「床快full(ゆかいふる)」を2019年11月に導入しています。これは、コンクリートスラブとその上にあるフローリングに空間のある二重床の構造を活用した床空調システムとなっており、年間を通じて住戸全体の温度を一定に保つ機能です。各部屋に空調や床暖房をつけるよりも、省エネにつながることが期待されています。

(※参照:野村不動産「サステナビリティ」)、「サステナビリティレポート

3-2 生物多様性の維持に関する取り組み

地球上に多種類の生物が存在した状態にある生物多様性は、持続的な環境社会を維持していくための重要な要素です。しかし、企業の事業活動により資源の減少や環境汚染が進むと、生物多様性が失われる要因となるため、環境負荷の高い企業はその対策が急務となっています。

国産木材の活用

野村不動産では、2022年3月9日にウイング株式会社と農林水産省の三者間で、建築物木材利用促進協定を締結し、建築における国産木材の活用を積極的に進めています。建築に国産木材を積極活用することで、森林資源の循環利用と減少抑制の両立が図られ、生物多様性の維持に繋がる上、二酸化炭素排出量の削減や自然災害の防止などの効果も期待できます。

東京の自然環境保全

さらに、野村不動産を含む野村グループは、2021年8月に東京都の奥多摩町と包括連携協定を締結し、2022年11月に豊かな自然環境を保護する「森を、つなぐ」東京プロジェクトを開始しています。森林の成長量の範囲で伐採したり、森林作業道を整備して木材の生産性を向上させたりするなど、スギ・ヒノキ74.2%、広葉樹25.8%の割合構成における環境保全を重視した森づくりを行うことで、生物多様性の維持に努めています。

地域に根差した環境教育

また、野村グループが保有するオフィスビル・商業施設内において、横浜国立大学とテナント企業の協力の下、生物多様性の維持を進めるイベントである「ホタルがすむ街づくり展」を2008年から毎年開催しています。このイベントでは、地域住民を対象にホタル観賞会を行ったり、近隣の小学生を対象に稲づくり体験などのプログラムを提供したりするなど、地域住民と共に生物多様性や環境問題について考えたり、学んだりする場所として機能しています。

4 三菱地所(8802)

三菱地所は、三菱グループ傘下にある国内の不動産ディベロッパーであり、ビル事業や住宅事業を柱として事業を幅広く展開しています。三菱地所は当企業グループ全体で、人々に高い生活満足度を与え、地球環境にも配慮したまちづくりを行うという使命のもと、ESG活動を積極的に行っています。

同社は「サステナビリティビジョン2050」を掲げ、その実現に向けた行動計画Sustainable Development Goals 2030の中で、以下の4つを重要テーマとして設定しています。

  • Environment(環境)
  • Diversity & Inclusion(ダイバーシティ&インクルージョン)
  • Innovation(イノベーション)
  • Resilience(レジリエンス)

同社もまた、Dow Jones Sustainability World Index / Asia Pacific Indexや、FTSE4Good Index Series、MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数、といった指標を構成する企業として選出されています。

4-1 廃棄物削減・汚染防止

環境面での取り組みでは、三菱地所は「二酸化炭素排出量削減」「再生可能電力比率向上」「廃棄物リサイクルと排出量削減の推進」「持続可能な木材利用」の推進に注力しています

廃棄物の増加で大気、土壌、水質などが汚染されると、温暖化が進んで生物多様性の維持ができなくなるなど、地球環境に悪影響を及ぼします。そこで、三菱地所では、企業グループ全体で廃棄物の削減や汚染防止の取り組みをESG活動の一環として行っています。

丸の内エリアでのエコ活動

廃棄物削減の取り組み例として、2016年5月から複数の店舗と連携して「丸の内エコ弁プロジェクト」を進めています。東京・丸の内エリアで販売されている弁当の容器の表面にフィルムを貼ったリサイクル容器を導入し、食後はフィルムと蓋だけ捨てて、容器は回収ボックスに返却する形で、弁当容器のリサイクル活動を推進しています。

本プロジェクト開始前の実証実験では、2か月間16店舗を対象に行ったところ、容器回収率20.8%で約665キログラム(スギの木48本が1年間に吸収する量に相当)の二酸化炭素量の削減効果につながったと同社は発表しています。2022年時点でビル15棟、12店舗がプロジェクトに参加しており、今後も参加店舗が増加すれば、さらなる二酸化炭素削減の効果が期待できます。

また、2022年4月に、丸の内エリアで循環資源を推進する「サーキュラーシティ丸の内」を開始しています。各店舗と協力し、エコ容器を提供することで食べきれなかった料理の持ち帰りを促し、食品ロス削減への貢献を目指しています。また、サントリー食品インターナショナル社やコカ・コーラボトラーズジャパン社と協力し、エリア内のオフィスビルで回収したペットボトルを、新しいペットボトルに再生する取り組みを始めています。様々なステークホルダーと協力し、廃棄物削減に取り組んでいます。

このほか、三菱地所グループのロイヤルパークホテルズアンドリゾーツ社は、2018年に生分解性ストローの導入を始めたほか、2022年4月には客室アメニティをバイオマス素材や再生プラスチック素材に置き換えることで、環境負荷の低減に取り組んでいます。

(※参照:三菱地所「サステナビリティ」、「サステナビリティレポート」)

4-2 人権とダイバーシティの推進

三菱地所は、サステナビリティの目標として掲げた「ダイバーシティ&インクルージョン」を実現するため、人権を尊重した事業活動を重視しています。2018年4月に、グループの人権方針を制定し、サプライチェーンに対し人権デューデリジェンスを実施しました。

持続可能な調達

例えば、建設時に使用する型枠コンクリートパネルの原料となる南洋材の調達は、先住民の土地の収奪や環境破壊の影響があることから、NGO団体が懸念を表していました。そこで、三菱地所は、持続可能性に配慮した調達コードにある木材と同等の木材を使用し、2030年までに使用率100%を目指しています。

人材の多様性の尊重

また、三菱地所は「属性のダイバーシティ」「経験・スキル・知見としてのダイバーシティ」の両軸から、ダイバーシティの推進を行っています。具体的には、様々なライフステージにいる従業員の働きやすさを意識した人事制度の拡充や、ジェンダーに対する理解醸成のための研修制度、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に基づく女性社員が働きやすい環境づくりに取り組んでいます。

5 まとめ

不動産ディベロッパーの中には、持続可能な地球環境の実現に貢献するため、「脱炭素実現」「生物多様性の維持」「廃棄物削減」「汚染防止」「人権尊重やダイバーシティ」等のESG活動に取り組んでいる企業もあります。環境効率の高い素材をしたり、独自の建築工法で二酸化炭素の排出量の削減に取り組んだりする企業や、AIカメラなどの先進技術で持続可能な街づくりへの貢献を目指す企業など、その取り組み例は様々です。

不動産ディベロッパーによるESG・サステナビリティの取り組み内容や、ESG投資に関心のある方は、この記事を参考にご自身でもお調べになった上で検討してみてください。

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HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム

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