今回は、ビットコインのプットコールレシオについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- ビットコインのオプションとは
- オプションを投資家が利用するタイミングとは
1-1.大きなトレンド転換を狙って利益を得たい場合
1-2.下落や上昇のヘッジのためのオプション取引 - プットコールレシオと見方
2-1.プットコールレシオとは
2-2.プットコールレシオと実際の価格の推移 - まとめ
近年、仮想通貨(暗号資産)市場で機関投資家の参入が加速するなか、色々な金融商品が登場しています。
2017年にCME(シカゴマーカンタイル取引所)でビットコインの先物市場が登場した他、2021年には先物ビットコイン市場ベースのETF(上場投資商品)もリリースされました。こうした流れを受けて、ビットコインのオプション市場も取引高が増加しています。
オプション市場と言われても、個人投資家の中には馴染みが薄い方も多いと思います。相場にどのように影響するのか見えてこないと感じるかもしれません。
ここでは、現物ビットコインの価格予想に参考となるオプション市場における「プットコールレシオ」について解説したいと思います。
①ビットコインのオプションとは
最初にビットコインのオプション取引について、簡単に説明します。オプション取引とは将来決められた期日に、決められた価格で「買う権利」や「売る権利」を売買(権利の売買)するものです。
例えば、2022年9月30日(期日)に600万円(価格)で1BTCを「買う権利」が取引されます。この権利について、「プレミアム」と呼ばれる権利価格がそのオプションの価値を反映します。
このプレミアム(権利価格)は、期日に近づくに連れて変動しており、途中での売り買いも可能です。また期日が到来した場合は投資家はそのオプションの権利を行使するのかどうか判断することになります。
②オプションを投資家が利用するタイミングとは
次にこのオプション取引を行うタイミングについて説明します。
2-1. 大きなトレンド転換を狙って利益を得たい場合
オプション取引は大きなトレンドが転換しそうなタイミングで利用されることがあります。
例として、現在のビットコインは下落基調が継続しており360万円前後を推移しています。それでも、ひとたび反発すれば年末に700万円くらいまでは到達していると予想しているトレーダーAがいるとします。
Aが先物や現物でビットコインを購入すると、ここから更に下落した場合に評価損失を被ってしまいます。Aは、自分の予想に確信が持てないため、オプションを使うメリットが生じてきます。オプションならば、仮にもっと下落してもプレミアム(権利価格)だけの損失で済む一方、予想が当たって上昇したら恩恵を受けることができるからです。
その場合、オプションで12月下旬を期日とする600万円/1BTCの「コールオプション(買う権利)」を購入することになります。期日にビットコインが700万円まで到達した場合、600万円で買う権利を行使して以下の様に利益を出すことが可能となります。
700万円-600万円=100万円(オプション料は計算上含んでいない)
2-2.下落や上昇のヘッジのためのオプション取引
次にオプションを利用するケースとしては、上昇や下落に対しての保険の意味合いで利用する機関投資家が挙げられます。
現在(2022年5月7日)のビットコインは昨年末くらいを天井に下落基調が継続しており、株式市場に相関が強い状況です。株式市場がどうなるか不透明感が強い中、ビットコインの現物を保有している投資家は「どこまで下落するんだろう」と不安になるでしょう。
そこで「この価格以上に下落したらいけないからヘッジしたい」というニーズが現れます。ヘッジとは、現物の価格変動リスクを先物取引などを利用して回避(ヘッジ)する取引です。
そのような時にオプション取引を利用することになります。現在のような場合30,000ドルのプットオプションの取引が増加していることが画像からわかります。短期的に下落に備える動きも出ている可能性があることがわかります。
仮にビットコインが20,000ドルまで下落しても、30,000ドルでプットオプション(売る権利)を購入していれば、ビットコインを30,000ドルで売却することができます。つまり、30,000ドル‐20,000ドル≂10,000ドルの差額をオプションの取引で補填できます(プレミアム分のコストは除く)。
このようにして現物資産のヘッジをするために、利用する機関投資家がいるということも覚えておくといいでしょう。
③プットコールレシオと見方
次に本題であるプットコールレシオについて説明します。
3-1.プットコールレシオとは
プットコールレシオとは、「オプション市場から相場の過熱感を客観的に観察するための指標」です。
買う権利(コールオプション)の取引が増加する場合は、上昇可能性を見ている投資家が増えているということが判断できます。そして売る権利(プットオプション)の取引が増加する場合は、下落可能性を見ている投資家が増えているということが判断できます。
プットコールレシオの計算式は、
(プットの売買代金÷コールの売買代金)×100
です。シンプルに理解するなら「プットコールレシオが1以上の場合、プットの取引高が多い」ということです。つまりプットコールレシオが1以上で、更に上昇する場合は、下落に備える投資家が多いということになります。一方でプットコールレシオが1以下で、更に下落する場合は、ビットコインの価格が上昇することを予想している投資家が多いという認識になります。
プットコールレシオはあくまで短期的なトレードで利用するのではなくセンチメントを計るものです。ある一定水準以上に到達すると相場が転換したりするためチェックすべき指標の一つです。
3-2. プットコールレシオと実際の価格の推移
次に実際のプットコールレシオの推移と価格の推移について見ていきたいと思います。下記はビットコインの価格とプットコールレシオです。
上記のチャートの緑の○印をご覧ください。
ビットコインの価格が急落しているタイミングで下落に備えるかのようにプットオプションの取引が増加していることがわかるでしょう。そして、その後は一旦下落圧力が止まっていることがわかります。
相場で大事なことは「ポジション動向を把握すること」です。急落した場合にまず考えることは「まだ売る人 or 売れる人がいるのか」という視点です。つまり、下落に備えている人が増加した場合は、(ヘッジをした人は現物を売らないという前提に基づくと)、売り圧力が減退している可能性があると考える方が自然です。
プットコールレシオと同時に、先物取引のファンディングレート(別記事参照)や取引高が急増しているかどうかで止まりやすいか判断することができます。是非併せてチェックしてもらうとより細かな分析が可能となるでしょう。
④まとめ
ここではオプション取引の「プットコールレシオ」の見方を中心に解説しました。
オプション市場というのは現物の価格に影響を与えないものという印象を持っている方も多いようですが、オプションだけで取引する投資家だけではなく、現物取引を行いつつ、オプションでトレードする投資家も多いものです。そのため現物で売り買いしている投資家の心理がオプション市場にも反映しているため、現物とオプション市場は密接に関連しています。
プットコールレシオを確認しつつ、相場が動いたら先物市場のデータと併せて分析してもらうことによって、正確な価格の予想ができるようになるでしょう。
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中島 翔
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