仮想通貨トレードでも考えるべき投資理論「プロスペクト理論」とは?【仮想通貨取引所の元トレーダーが解説】

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今回は、投資理論「プロスペクト理論」について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. プロスペクト理論とは
    1-1.プロスペクト理論の概要
    1-2.プロスペクト理論に関する二つの質問
  2. 仮想通貨トレードにおけるプロスペクト理論
    2-1.「損大利小」のトレード
    2-2.プロスペクト理論の克服方法
    2-3.プロスペクト理論の影響を受けない投資手法
  3. まとめ

投資を行う際、大きな利益を上げることよりも、できるだけ損失を被らないことを優先して行動するというトレーダーの方も多いのではないでしょうか。

一方で、反対にそれが仇となって、得られるはずの利益を上げられなかったり、損失がさらに拡大してしまうということも少なくありません。これを克服することによって、より合理的で賢明な投資判断を下すことができるとされています。

一般的に、投資におけるこのような意思決定の方法は「プロスペクト理論」という行動経済学に基づいていると言われてます。そこで今回は、仮想通貨トレードでも考えるべき投資理論「プロスペクト理論」について、詳しく解説していきます。

①プロスペクト理論とは

1-1.プロスペクト理論の概要

プロスペクト理論とは、1979年に、行動経済学者として知られるダニエル・カーネマン氏およびエイモス・トベルスキー氏によって提唱され、2002年にはノーベル経済学賞を受賞した、意思決定に関する理論を指します。

「損失回避性」とも言われるこの理論は、プロスペクト(prospect=期待、予測)に焦点を当てます。個人が「損失」と「利得」をどのように評価するかを説いた、行動経済学における最も代表的な理論の一つとして知られています。

プロスペクト理論では、人々は目の前に利益があるケースにおいてはその利益を手に入れられないというリスクを回避し、損失があるケースにおいては損失そのものを回避しようとする傾向があるとしています。

また、元々は「宝くじ」が由来となっており、予期される損益額や確率といったあらゆる条件によって、人々がどのように意思決定を下すのかを表すモデルとして知られています。

1-2.プロスペクト理論に関する二つの質問

プロスペクト理論ではよく、下記のような二つの質問が行われます。

質問①:

次の選択肢から必ずどちらか一方を選択しなければならない場合、あなたはどちらを選びますか。

A:無条件で50万円が手に入る。

B:コインを投げて「裏面」が出た場合は100万円が手に入るが、「表面」が出た場合は何も受け取ることができない。

この質問では、ほとんどの人がAを選ぶことが分かっています。

では次に、二つ目の質問を見ていきましょう。

質問②:

あなたは今、100万円の負債を抱えているものとします。

この状況下で、次の選択肢から必ずどちらか一方を選択しなければならない場合、あなたはどちらを選びますか。

A:無条件で50万円の債務が免除され、残りの負債は50万円になる。

B:コインを投げて「裏面」が出た場合は負債は0となるが、「表面」が出た場合は負債金額はそのまま変わらない。

この質問では、ほとんどの人がBを選ぶことが分かっています。

質問①では、多くの人が50%の確率で何も受け取ることができないというリスクを回避し、100%の確率で確実に50万円を手に入れようとしていると見なすことが可能です。

一方で、質問②では、100%の確率で確実に100万円を支払うという損失を回避し、50%の確率で債務を免除されようとしていると見なすことが可能です。

この結果から判断すると、人々は目の前に利益があるケースでは、利益を手にすることができないというリスクを回避することを優先し、目の前に損失があるケースでは、損失そのものを回避しようとする「損失回避性」の傾向があるということが分かります。

このように、多岐にわたる条件が追加されることによって人々の意思決定は非合理的なものに変化してしまいますが、これを説明するものこそが、プロスペクト理論の中心となる部分であると言えます。

②仮想通貨トレードにおけるプロスペクト理論

2-1.「損大利小」のトレード

プロスペクト理論は、仮想通貨トレードをはじめとする投資の世界でもよく取り上げられる理論の一つです。

仮想通貨トレードを行っていると、損害を被りたくないがために過度に慎重な取引をし、その結果負けてしまい、その後損失を取り戻すために強引で大胆な取引を行ったことで、さらに損失を拡大させる結果となる、といった経験がある方も多いのではないでしょうか。

このような意思決定こそがまさに、「得をした時の利益より、損をした時の損失を避ける」というプロスペクト理論に支配された心理状態で下されたものと見なすことが可能です。そして、自身も気付かないうちに、利益が小さくなり、損失が拡大する「損大利小」のトレードを行ってしまっている状態になっているというわけです。

仮想通貨トレードにおいてプロスペクト理論に陥ると、状況的に十分な根拠が存在しないにも関わらず早めに利確をしてしまったり、損害が大きくなる可能性が高いにも関わらず損切りをしたくないという心理が働いたりするなど、客観的な判断が難しくなり、大きな損失を生んでしまう危険性があります。

そのため、投資の世界で利益を上げるためには、まずこれを克服することが重要であるとされています。

2-2.プロスペクト理論の克服方法

プロスペクト理論を克服するためには、自身の中で明確なルールを決めておくことが大切です。

具体的には、エントリーのタイミングを根拠立ててしっかりと見極めることで、「昨日エントリーしておけばよかった」などというプロスペクト理論を誘発させるような心理状態に陥らないことが重要です。

またこのほかにも、利確ポイントをエントリーする前に決めておくことや、損切りポイントを一時の感情によって動かさないことなど、明確なルールを事前に定めておき、それに則った投資を行うことが、克服のための重要な一歩となります。

仮想通貨トレードにおいて、「損をしたくない」という気持ちが先行している場合はプロスペクト理論の状態に陥りやすいため、一度冷静になって、自身の根拠のないトレードが損失をさらに拡大しているということを十分に理解することが大切です。

2-3.プロスペクト理論の影響を受けない投資手法

プロスペクト理論を克服する以前に、プロスペクト理論の影響を受けない投資手法を選択するというのも一つの手です。

仮想通貨投資において、プロスペクト理論の影響が比較的少ないと言われているのが中・長期の積立投資です。日本円などの法定通貨を用いた積立はよくご存知だと思いますが、仮想通貨にも積立投資が存在します。積立の仕組み自体はほぼ同じで、積立の期間や金額をあらかじめ決めておくだけで、一定期間、自動的に一定額の仮想通貨が購入されるというものです。積立であれば、最初に設定を行うだけで後はすべて自動で進んでいくため、プロスペクト理論の影響を全く受けずにコツコツと投資を行うことが可能です。

現在では、「Coincheck」や「GMOコイン」、「SBI VCトレード」といった多くの国内取引所が積立サービスの提供を行っており、それぞれに特色を有しているため、興味のある方は一度、自身のニーズにマッチした積立サービスを探してみてもいいかもしれません。

③まとめ

プロスペクト理論とは、投資業界においてよく取り上げられる行動経済学の代表的な理論のことを言います。

仮想通貨トレードにも応用できるこの理論は、人々の「損失回避性」から来る非合理的な意思決定を指し、着実に利益を上げるために克服しなければならないものの一つとなっています。

そのため、仮想通貨での資産運用を考えている方は、プロスペクト理論の存在を十分に理解し、今回挙げたいくつかの方法を用いて、その影響を最小限に抑えた合理的な取引を行うよう心がけましょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12