今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の亀井聡彦 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
- 今さら聞けない、Lootとは何か?
- クリプトの分散思想とマッチする、ボトムアップ型のアプローチ
- 余白の生み出しによる、スピード感と質が担保されたコミュニティドリブンなムーブメント
- コンポーザビリティ×NFTという新規性
- カオス、そして多様性と創造性
- Lootは文脈をつくり、発明をした
- まとめ
本記事では、突如と現れて業界で話題をさらったLootについて、なぜここまで話題になったのか、どんな点にクリプト民は熱狂しているのか、についてご紹介致します。
今さら聞けない、Lootとは何か?
まずはじめに、Lootとはどういったプロジェクトなのでしょうか?
Loot【正式名称:Loot (for Adventures)】は、8月27日に立ち上げられた、RPGスタイルの冒険アイテムが入った8,000個のユニークな「bag」からなるNFTプロジェクトです。6秒短尺動画で一世を風靡した「Vine」の共同創業者であるDom Hofmann氏が立ち上げたことでも話題になりました。彼は、NFTが何のために存在するのか、その限界や可能性を押し広げることに熱心な人物でもあります。
各 “Loot bag”には、冒険者が必要とする8つの装備(胸、手袋、靴、頭、腰、ネックレス、指輪、武器)が入っています。これらのNFTは、突如何の目的もなく放出されました。8,000個のbagはすべて、インターネット上で誰でも無料で請求することができたのです。発表してすぐに一時期はフロアプライス約7ETHにもなっており、現在でも、約67,006ETH=約220億円もの流通ボリューム(90日間)を誇っています。
また、Lootのウェブサイトには、次のように書かれています。
「Lootは、ストーリー、体験、ゲームなどのための、フィルタリングされていない価値のない構成要素であり、コミュニティが無償で手に入れることができます。Lootは初日から完全な非中央集権を追求しています。」
それでは、このNFTがなぜクリプトコミュニティで話題になり、業界を騒がすまでに至ったのか、その理由について紹介していきます。
クリプトの分散思想とマッチする、ボトムアップ型のアプローチ
ブロックチェーンやクリプト、Web3.0に熱狂する人々は、どの時代も常に分散化を支持し、プラットフォーム主導の世界から、真にユーザー中心の世界を求めており、主権がユーザーの手にわたることを望んでいます。
そんな中、NFTの登場は数多くのイノベーションを起こしてきましたが、その使い方は特定のプラットフォームに固定されています。従来のNFTの世界では、ほとんどの場合、創業者や、IPホルダー、プロジェクトのコア開発チームなどが主導であり、トップダウンのアプローチで展開されることがほとんどでした。つまり、NFTのメカニズムやルールは彼らによって前もって定義され、コミュニティからのインプットは通常ありません。
しかしながら、Lootでは、初期からユーザーに主導権がわたり、ボトムアップ型のアプローチをとっています。創業者のDomは、NFTを作成しただけの存在であり(ゲームの世界の基礎の基礎を作っただけ)その使い方や価値の付け方、派生プロジェクトのありかたなど全てが、コミュニティの意思決定に委ねられています。Lootをベースにしたコミュニティ主導の意思決定でプロジェクトが推進していくことができるようになりました。
その影響もあり、Lootが誕生してたった数日で、bagを中心とした何十ものプロジェクトが生まれています。Lootは短期間で、NFTファン、開発者、投資家の想像力をかきたてたのです。コミュニティやプロジェクトが、無数のキャラやストーリー、ゲームデザインなどの開発を進め、結果、ローンチから5日ほどで売り上げは4,600万ドルを超え、時価総額は8,000万ドルを突破しました。
余白の生み出しによる、スピード感と質が担保されたコミュニティドリブンなムーブメント
Lootは、初めにご紹介したとおり、黒い背景に白地のテキストで構成されるとてもシンプルなNFTです。本当にこれだけでして、公式としてのユースケースがないのが特徴的です。
Lootでは、NFTをどのように使うか、どのように自分のプラットフォームや作品に取り入れるか等を、コミュニティが決めることができます。このアイテムリスト自体を根本的に変えるのではなく、このアイテムリストを派生させ、特定のリストのアイテムを明示的に参照した新しい作品やプロジェクトを作ることで、プロジェクトを立体的にしていくのです。
ほとんどが余白であることから、世界中のクリエイターの想像力を掻き立て、この面白いムーブメントで遊んでみようとするユーザーが爆発的に増えました。そのため、製作に関わる人数が段違いな上に、腕に自信のある人たちが参加し、質も高いプロジェクトが沢山生まれているのも特筆すべき点です。開発者向けのツールから、価格を追跡するサイト、まったく新しいアプリケーションまで、さまざまなものがあります。
このように、サービスの開発のレベルが上がれば、熱狂するユーザー数が増え、伴ってトークンやNFTの価格は高騰し、社会的な注目を集め、熱狂したクリエイターがボランティアで開発に取り組むといった高循環も見込めます。Lootを題材にしたプロジェクトに力を注ぐことは、ただの趣味やボランティア活動に留まらず、投資の側面も帯びているのです。
コンポーザビリティ×NFTという新規性
では、なぜLootにこれほどまでにクリプト民が興奮しているのでしょうか?
そのヒントに「コンポーザビリティ」があると思います。これは、イーサリアム上で作られたプロトコル同士が簡単に相互作用できることを意味します。2020年から業界でバズワードとなったDeFiも、このコンポーザビリティといった性質を活かしたものです。人々はそういった状況をレゴブロックに例えました。お金のレゴが爆発的に増えたことで、現在のDeFiと呼ばれるムーブメントが生まれたのです。
DeFiの世界では、AaveやCompoundのような融資プラットフォームに対してトークンを担保として預け、代わりにUSDTやUSDCのようなトークンを借り、そのトークンをUniswapのような分散型取引所で交換したりすることは、特に珍しい行動ではありません。最近では、この他にも、他の新興ブロックチェーンにブリッジをさせ、更にそのチェーン上で同様のことを繰り返す人も増えています。
ここで重要なのは、他のプロトコルと特段パートナーシップを組んだり了承を得たりすることなく、自由に開発者の意思で他のプロトコルを利用できる点です。つまり、誰かに許可を求めたり、契約したりすることなく、すべてが機能するのです。それがブロックチェーンのコンポーザビリティといった性質です。
Lootは、まさにNFTをコンポーザビリティの視点で再定義した、初めてのプロジェクトといっても過言ではありません。
カオス、そして多様性と創造性
Lootのムーブメントをみていると、面白い点に気づきます。それは、DeFiやこれまでのNFTムーブメントの中心にいた熱狂的なクリプトユーザーではない層もコミュニティに参加している点です。Discordサーバーには、エンジニアだけでなく、ライターやデザイナー、アーティストも参加しており、このゲームの物語をどう発展させていくと面白いのか、互いのクリエイティビティを刺激し合いながら議論しています。多様なコミュニティを活性化し、多数の新しいLootプロジェクトが開発されています。
アイテムだけの設定しかしていないテキスト情報の世界が、人々の想像力によって、立体的になっていくわけです。元のプロジェクトに明確なゴールや目的があるわけではなく、皆、この想像的なダイナミクスに熱狂しているのです。
Lootは文脈をつくり、発明をした
Lootの登場から、1週間足らずの間に、コミュニティはただのテキストのリストから、アイテムの無限のイラスト、アイテムが存在する世界、そしてそれを使うキャラクターへと想像力を膨らましていきました。これらは、たった8個の二次元のテキスト情報から、文脈を生成したものであり、人々が想像したクリエイティビティの賜物であります。
まだまだ発展途上であり、今後が楽しみなプロジェクトですが、NFTの概念を覆す全く新しいタイプのプロジェクトであり、これは一種の発明です。NFTは現代版デジタルアートといっても過言ではありませんが、アートの世界では文脈と発明が全てです。新しい概念や文脈を発明して誰よりも先に表現することが評価されます。
今回のLootもそういった意味では、これまでのNFTとは違った価値観(コンポーザブルNFT)であり、一種の発明を行い、我々に問いをなげかけました。
まとめ
いかがでしたでしょうか?本記事では、2021年8月に登場したLootというNFTプロジェクトについて、何故人々が熱狂しているのかについて、その理由を紹介してきました。
一種の魅力的な実験の一つであり、今後数ヶ月、数年にわたって、派生したプロジェクトの展開を見ていけるのは非常に興味深いことです。クリプト業界において、間違いなく歴史の1ページとなったといえるでしょう。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
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【公式サイト】Loot
Fracton Ventures株式会社
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