地方自治体が地方創生の一環としてNFTを活用する事例が増えています。NFTを利用する背景には、国内外から関係人口を増やす目的があります。自治体のみならず、企業同士が提携して地域の関係人口創出に取り組む動きも見られます。2023年2月には、博報堂と日本航空が共同で、地域の特別な体験を提供するNFT「KOKYO NFT」を用いた関係人口創出の実証実験を行いました。
ここでは、両社が共同で実施している「体験型NFT」の実証実験の内容や、Web3技術を活用した関係人口創出の事例をご紹介します。
目次
- 博報堂と日本航空のWeb3を活用した体験プログラムとは
1-1.鳥羽市と奄美市での体験型NFT - クニノチカラプロジェクト「KOKYO NFT」とは
2-1.NFT保有者の特典について
2-2.国内外から関係人口を創出することが目標
2-3.KOKYO NFT第一弾の反省点と第二弾の取り組み - Web3を活用した関係人口創出の事例
3-1.沿線まるごと株式会社の「みんなでつくる、ふるさとプロジェクト」
3-2.ガイアックスがサポートする「美しい村DAO」 - NFTによる地方創生の活用法
4-1.ふるさと納税の返礼品としてNFTの提供
4-2.地域の特色を織り込んだNFTアートの販売
4-3.デジタル住民権としてNFTを活用
4-4.地域の農産物にNFTを特典につける - まとめ
①博報堂と日本航空のWeb3を活用した体験プログラムとは
株式会社博報堂と日本航空株式会社は共同で、Web3技術を活用したNFTを通じて地域の体験プログラムを提供する「体験型NFT」の検証を、2023年2月より三重県鳥羽市および鹿児島県奄美市で実施しました。
地域における人口減少や高齢化は依然として深刻な社会課題です。こうした中で、広告事業を超えた新規事業開発を目指す博報堂の「ミライの事業室」と、ESG戦略に基づいて社会課題を解決し、持続可能な人流の創出を目指すJALは、未来の街づくりを目指した日本企業と国内外のスタートアップの事業共創プロジェクト『SmartCityX』に参画しています。このプロジェクトの一環として、観光を活性化し、関係人口を増やすための「体験型NFT」について協議が行われました。
その結果、地域ならではのモノやコトの「体験型NFT」を「KOKYO NFT」として展開することとなりました。この計画は、インバウンドを中心とする訪問者が、旅の前後において地域との関係を長期的に維持できる仕組みを構築し、関係人口を増やして新たな地域づくりを目指します。
1-1.鳥羽市と奄美市での体験型NFT
実証実験が行われる三重県鳥羽市では、結婚30周年を祝う「真珠婚式」と、世界で初めて真珠の養殖に成功した「真珠のまち」鳥羽を掛け合わせた内容のNFTを提供します。このNFTは、訪問者が「今後も自分たちの大切な日を鳥羽で過ごしたい」と思えるような体験を提供することを目指しています。
一方、鹿児島県奄美市では、特産品である黒糖焼酎樽のオーナーになる権利をNFT化しています。購入者は3年後に自分のオリジナルボトルで黒糖焼酎を受け取ることができ、その間、毎年季節ごとに奄美での特別な現地体験とオーナー樽の熟成具合の試飲を楽しむことができます。
NFTの製作・販売は4M株式会社が担当し、NFT開発・SNS運営に関する各種支援は株式会社リードエッジコンサルティングが担当しています。これらのNFTは「KOKYO NFT」公式ウェブサイト「https://www.kokyo-nft.jp/ja」にて購入可能です。
同サイトでは、2024年5月現在、他の地域のNFT出品も予定されており、鳥羽市と奄美市のNFTは第一弾のコンテンツとなります。
実証実験概要
三重県鳥羽市
鳥羽市では、結婚30周年を祝う「真珠婚式」を鳥羽国際ホテルで挙式し、宿泊を楽しむことができます。さらに、海女小屋はちまんかまどでの「真珠婚コース」料理と海女との交流体験も提供されます。加えて、ミキモト真珠島で使えるジュエリー購入クーポンも含まれています。これらの体験を通じて、夫婦の絆を深め、特別な思い出を作ることができます。
- 販売開始日:2023年2月28日予定
- 販売価格:100万円
鹿児島県奄美市
奄美市では、「奄美黒糖焼酎」の樽の共同オーナーになり、その樽をソニックエイジングで3年間熟成させるための音楽を選べる体験が提供されます。さらに、毎年夏と冬に奄美で開催されるイベントに参加し、試飲や音楽ライブ、製造工程の一部に参加することができます。オリジナルボトルで受け取るまでの3年間、特別な体験を楽しめる内容となっています。
- 販売開始日:2023年2月28日予定
- 販売価格:12万円
②クニノチカラプロジェクト「KOKYO NFT」とは
日本列島は北から南と、様々な観光地があります。しかしガイドブックやSNSではあまり紹介されていないのが現状で、知られていないながらも、その地域ならではのユニークな体験が数多くあります。KOKYO NFTはそんな各地域のユニークな体験ができるNFTとなっています。NFT保有者は、その地域で特別なアクティビティを体験できる特典があります。
またKOKYO NFTを保有し、何度かその地を訪れることで、いつしかそこが「第二の故郷(KOKYO)」へと変わっていきます。これがJALと博報堂が提案する新たな旅のカタチとしています。
2-1.NFT保有者の特典について
・KOKYO NFTオリジナルな体験
KOKYO NFTものオリジナルな体験とは、一般的な観光では味あわえないような、現地の人々のとつながりや偶然な出会いを作り出します。
・NFT保有者限定のコミュニティ
KOKYO NFT保有者限定で参加できるディスコードコミュニティを開設します。離れていてもその地域とのつながりを感じることができます。
・コミュニティユーティリティ
KOKYO NFTに賛同するプロジェクトが提供する、KOKYO NFT保有者限定のユーティリティにアクセスできます。
2-2.国内外から関係人口を創出することが目標
「WEB3地方創生ねっと」のサイト内でのインタビューで、JALの高橋氏は、現在日本経済の衰退や人口減少はかなり問題視されており、その問題の解決策としてNFTという手段を選んだ理由について、以下のように応えています。
NFTを使った理由は、「旅の体験」という無形の商材をデジタル=NFTに置き換えることで、権利化を証明することができること、中長期にわたって体験できる権利を持つことで、繰り返しその地に訪れるきっかけになり、将来的に移住してもらえる可能性がある、そして日本の地域の魅力をWEB3の文脈に載せることで、海外へのアプローチがしやすくなる。といった要素を満たしているものとして、NFTを使用するのが最適ではないかと考えたそうで雨s。
デジタル住民も関係人口創出のひとつの形ではあるが、行政サービスとの連携を第一に想起させてしまうので、自分たちが思い描く関係人口創出の目標イメージに辿り着けなかったと、インタビュー内で話しています。そのためNFTは、「体験する権利の証明書」として活用することになり、そこから「KOKYO NFT」の形になったそうです。
2-3.KOKYO NFT第一弾の反省点と第二弾の取り組み
KOKYO NFTの第一弾はオウンドメディアへの掲載が主な宣伝だったために、プロモーション活動が足りず、その結果目標の販売・ホルダー数に届かなかったそうです。そこで2024年3月3日から販売を開始する第二弾「Premium Sake NFT-uka-」は、プロモーションにも力を入れ、デジタルに精通している方や、デジタル x 旅行の分野に興味がある人に向けてアプローチを進めており、NFTのロイヤルティプログラムを得意とするbeyondClubにもサポートしてもらっているとのことです。
ちなみに第二弾の「Premium Sake NFT-uka-」は、「雨下-uka-」というのは茨城・水戸の明利酒類さんが作っている日本酒で、「雫落とし製法」という時間と手間がかかる作り方を採用しており、そのため、年間で2,000本しかつくれない貴重なお酒でとのことです。
そんな「雨下-uka-」をNFT化し、購入した方には、①「雫落とし製法」の見学を含む酒蔵ツアー体験、②現地ならではの生酒の「雨下-uka-」をプレゼント、③「雨下-uka-」の優先購入権がついているVIPカードの3点が特典でついています。
③Web3を活用した関係人口創出の事例
今回のように、企業が連携し地方創生のためのプロジェクトを立ち上げている事例が存在します。そういったプロジェクトは旅行の新しい形態として、旅行者にとってより想いに残る体験となります。このような新しい旅のカタチをいくつかご紹介します。
3-1.沿線まるごと株式会社の「みんなでつくる、ふるさとプロジェクト」
沿線まるごと株式会社は、JR東日本のローカル沿線地域活性化を目的に、株式会社さとゆめと東日本旅客鉄道株式会社の共同出資によって設立された企業です。本取り組みは、「沿線まるごとホテルプロジェクト」の第1棟目として古民家レストランおよびホテルを奥多摩エリアに開業し、エリアを盛り上げる活動を推進すべく、「みんなでつくる、ふるさとプロジェクト」を立ち上げました。そしてFiNANCiEにおいて、トークンを発行・販売することで、共創する仲間の募集と活動資金の調達を行いました。
沿線まるごとホテルとは、沿線まるごと社が行う、JR東日本沿線にある無人駅をホテルの「フロント」に、空き家をホテルの「客室」に、そして地域住民がホテルの「キャスト」となって地域全体を”一つのホテル”に見立てて地域活性化を図るプロジェクトです。JR 青梅線沿線で5~8 棟の宿泊事業を稼働予定で、そして2040年までにJR東日本管轄エリア内で30地域以上の事業の創出を予定しています。
そして沿線まるごとホテルプロジェクトの記念すべき第1棟目である、鳩ノ巣エリアの古民家ホテルは、奥多摩の人々のかつての営みの息づく古民家です。目の前を流れる多摩川の川辺には、木材を筏に積むための「土場」が昔はあり、隣の橋には林業従事者が憩う飯屋や宿場で賑わっていました。
今は空き家となっている古民家が、そこで紡がれてきたくらしを、感じられるホテルに生まれ変わります。クラウドファンディングはすでに終了しており、2023年10月2日(月)14:00 ~ 2023年11月30日(木) 17:59に行われました。クラファンは終了していますが、FiNANCiEに登録することで、いつでもプロジェクトをフォローすることができ、トークンも購入することができます。
3-2.ガイアックスがサポートする「美しい村DAO」
「美しい村DAO」とは、地方創生をDAO(自律分散型組織)で行う内閣府地方創生推進事務局 広域連携SDGsモデル事業の「日本で最も美しい村デジタル村民の夜明け事業」による複数自治体の連合DAOとなっています。
これまで、地方創生における課題をDAOで解決したいという行政団体は多く存在するなか、複数の自治体が連携しDAOを組成する点では日本初のプロジェクトです。※1:ガイアックス調べ。当社開発部長であり、日本ブロックチェーン協会 理事およびISO/TC307 国内審議委員を務める峯荒夢より、複数の自治体が連携しDAOを組成する前例は確認されていない。
このほど鳥取県智頭町および静岡県松崎町が「日本で最も美しい村」連合に加盟し、株式会社ガイアックスが連携を図り、ブロックチェーン技術を活用したNFT販売プラットフォーム開発や、DAO自走のためのコミュニティ活動を開始しています。
「日本で最も美しい村」連合サポーター有志で構成されるコンソーシアムの協力により、ブロックチェーン型スマートコントラクトプラグラムをDAO方式で管理し、加盟町村のNFT発行とデジタル村民のインセンティブをマネジメントされます。
美しい村DAOのビジョンは、各町村が持つ様々なコンテンツをNFTとして発行、村民のインセンティブを提供すること。関係人口の増加と地域課題解決、経済循環の基盤となることで、過疎地における新たな社会構造を形成することです。
④NFTによる地方創生の活用法
地域創生のためのNFTの活用例として、主に次の4つが挙げられます。ふるさと納税の返礼品やお土産としてNFTの提供、地域の特色を織り込んだNFTアートの販売、デジタル住民権としてのNFT、そして今回の体験型NFT、などがあります。
4-1.ふるさと納税の返礼品としてNFTの提供
ふるさと納税の返礼品としてNFTに初めて触れたという方もいるのではないでしょうか。ふるさと納税は、特定の地域を応援すると同時に税金の控除も受けられるとあって、利用者が年々増加しています。しかし「地域の応援」という性質よりも返礼品を重要視して寄付をする傾向があり、地域を応援する意識や、納税をきっかけに直接現地を訪問して、直接消費をするには弱いという課題があります。
ブロックチェーン上で管理されているNFTによる返礼品の場合、実際の物のように返礼品として受け取って終わりではなく、NFT購入者だけに特産品の獲得権や購入権を付与したり、観光誘致と組み合わせ、その地域に赴くインセンティブを施すこともできます。そしてNFTが唯一無二のデジタルデータとして、購入者の手元に残り続けることで、所有による特定の地域との関わりを継続的に意識させ、関係人口の創出へと繋げられると期待されています。
4-2.地域の特色を織り込んだNFTアートの販売
地方創生の活動にはその地域の特色を押し出しているケースが見受けられます。その地域でしか見られない自然風景や名産品、農産物などがあり、また自然を楽しむ体験や、何かを作る体験などもあります。
それらをNFTの中でアートとして表現することで、独自性を持ったデジタルアート作品になります。地域の特色をNFTで表現することで、その土地に関心を持つ人々が増え地域の活性化につながることが期待されています。
4-3.デジタル住民権としてNFTを活用
NFTではアートとコレクティブルを除くと、会員権としての使われ方が一般的とも言われます。例えるなら、ファンクラブの会員証みたいなものです。これを実現しているのがDiscordとCollab.landというサービスの組み合わせで、こうした用途やサービスはどんどん拡大して行くと考えられます。
そして地方では、地域の関係人口の創出として自治体が、NFTをデジタル住民票として活用する方法があります。関係人口が増えることで、移住につながるケースもあるとして、過疎化による地域の課題解決の糸口として注目されています。地域の住民票をNFTとしてデジタル化するということは、NFTを保有する人は実際にその地域に居住していなくとも、その地域のデジタル住民として自治体のまちづくりに参加することが可能になります。またその地域のコミュニティに参加し、地域復興のアイディアを考えたり、また積極的に参加している人にはインセンティブを報酬として付与することも可能です。
4-4.地域の農産物にNFTを特典につける
地域の農産物にNFTを付けることで、そのNFT保有者には、その地域で特別なアクティビティを体験できる特典を付与することも可能です。NFTを「体験する権利の証明書」として活用することで、その地域を実際に訪れる切っ掛けにもなり、交流人口から関係人口へとその地域との関係か深まっていくのではないかと期待されています。
⑤まとめ
企業によるNFTを使った地方創生のプロジェクトや、事例について解説しました。今後、地方自治体がNFTを活用して地域課題に取り組むだけでなく、企業でも同様に地域の盛り上げにNFTを活用するプロジェクトが登場してくると言えるでしょう。また企業が取り組むことで、自治体が取り組むプロジェクトはまた違った特色の魅力が提供されるでしょう。
また地元のアーティストとNFTプロジェクトがコラボした企画なども組まれやすくなるので、地域創生において非常に有効な手段であると言えるでしょう。地元の魅力を伝えることで、地域活性化に貢献し、地元住民や交流人口の心をつかむことが期待できるでしょう。
立花 佑
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