金融機関は、産業分野に資金を供給し、個人資産の投資経路になっているだけではなく、化石燃料依存の経済から再生可能エネルギー主体の経済への移行への管理にも深く関わっています。
社債市場では環境課題や社会的議題の解決に向けた資金を調達するESG債の発行が増加傾向にあります。日本では特に、環境課題に向けた資金調達手段であるグリーンボンドの発行が増加傾向にあり、2022年の年間発行額が2.03兆円と、2020年比で約2倍に伸びました。
参照:環境省「市場普及状況」
今回は、金融業界の主なESG課題とサステナビリティの取組や日米主要企業の動向について解説します。
※本記事は2023年9月12日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 金融業界の主なESG課題
- 金融業界のサステナビリティの取組
2-1.ESG金融
2-2.ESG債 - 日米企業の動向
3-1.三菱UFJファイナンシャル・グループ(MUFG)
3-2.野村ホールディングス
3-3.第一生命ホールディングス
3-4.ブラックロック(BLK)
3-5.ゴールドマン・サックス(GS) - まとめ
1.金融業界の主なESG課題
金融業界の主なESG課題は、取組の実効性を担保する組織体制と仕組みの強化、社員ひとり一人が意識的にESG課題に取り組むことができるか、ESGへの取組と金融機関としての収益のバランスなどがあげられます。
2.金融業界のサステナビリティの取組
金融業界のサステナビリティの取り組みとして、環境への取組も行われているものの、ここでは金融業界独特の取組を見ていきましょう。
2-1.ESG金融
ESG金融とは、融資や投資をする際に企業の財務情報だけではなく、非財務情報を考慮することです。
地域金融機関でも、環境省が先導役となり地域の持続可能性の向上に貢献するESG地域金融の普及発展に向けたタスクフォースを立ち上げ、取り組んでいます。
2-2.ESG債
証券会社では、ESG債(SDGs債)の引き受けに力を入れるようになりました。グリーンボンドやサスティナビリティボンドなど国内ESG債*の起債も増加傾向にあります。日本証券業協会によると2022年において、国内で発行されたESG債は約4.46兆円と、2021年の2.92兆円から約1.5兆円増加しまた。
*ESG債:環境や社会問題の解決に向けた事業資金を調達するために発行する債券
参照:日本証券業界「SDGs債の発行状況」
3.日米企業の動向
日米企業のサステナビリティへの取組などを見ていきましょう。ここではファイナンス面での取組を中心に解説します。
3-1.三菱UFJファイナンシャル・グループ(MUFG)
三菱UFJファイナンシャル・グループでは、持続可能な環境・社会がMUFGの持続的成長の大前提であるとの考えのもと、環境・社会課題の解決とMUFGの経営戦略の一体と捉えて価値創造に取組んでいます。
サステナビリティの推進として、環境・社会課題の解決に向けて、2030年度までにサステナビリティファイナンス目標額を35兆円に設定しています。2021年度には累計実施額が14.5兆円に積み上がりました。一方、同グループは資金調達としESG債も発行しています。
また、ESG関連に関心の高い顧客向けにグループ傘下の三菱UFJ銀行では、環境改善事業に資金使途を限定としたグリーン預金を取り扱っています。
参照:三菱UFJファイナンシャル・グループ「指標と目標」
3-2.野村ホールディングス
野村グループでは、サステナビリティ・ステートメントを定め、サステナビリティ活動の方向性、環境・社会的なリスクに対する方針をグループ各社が示しています。各社のステートメント詳細は以下の通りです。
野村ホールディングス各社のステートメント
インベスト・マネジメント部門 | 企業がサステナブルな成長を実現するために、資産運用にあたりESG要素を関連する投資プロセスに組み込むアプローチを採用 |
ホールセール部門 | 環境・社会問題の管理を最優先課題とし、環境・社会に悪影響を及ぼす可能性のある分野ごとにアプローチを実行。 セクター別アプローチの対象は、エネルギー生産、石油・ガス、鉱業、農業・林業、兵器の分野。 セクター別アプローチの検討にはパリ協定(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする)を考慮。 取引承認プロセスの一環として、すべての取引のESGに関連する問題を審査する。 |
野村信託銀行 | 投融資取引において、環境・社会にプラスの影響をもたらす取引を支援する一方、環境・社会に負の影響を及ぼす可能性がある取引を検証することを基本方針とする |
3-3.第一生命ホールディングス
第一生命は機関投資家として、2014年に責任投資原則(PRI)に賛同しました。PRIとは、機関投資家が意思決定プロセスの際にESG課題を反映させるべきとした世界共通のガイドラインです。
また、2020年にESG投資の取組を強く進めることをコミットするESG投資の基本方針を策定、2022年4月には「スチュワードシップ活動の取組方針」と「第一生命のESG投資の基本方針」を統合した「責任投資の基本方針」を策定しています。
2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロのポートフォリオに移行することを目指す国際的なイニシアティブ「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」にも加盟しました。
3-4.ブラックロック(BLK)
ブラックロックは、米国ニューヨークに本社を置く世界最大の資産運用会社です。運用資産残高は約9.09兆ドル(約1,210兆円)です(2023年3月末)。
投資プロセスにESGの視点を組み入れています。運用においてリスク調整後リターンを向上させるため、サステナブルに特化した戦略であるか否かに関わらず、ESG関連情報を投資判断に組み込んでいます。
同社は、サステナブル投資ソリューションに特化したプラットフォームを立ち上げ、スクリーニングを通じて運用目的に応じた銘柄検索ができます。ESGデータを証券または資産レベルでスコア化し、そのスコアをウェイト付けしており、ESG投資判断に役立てています。
3-5.ゴールドマン・サックス(GS)
ゴールドマン・サックスは、米国のニューヨークに本社をおき、金融サービスを世界中で展開しています。
同社では、サステナビリティは理想論からビジネス・ソリューションへ変貌を遂げたと考えており、サステナブル金融が事業の根幹となりつつあると認識しています。同社は気候変動とインクルーシブな成長*という相互に関連した2つのテーマに絞り取組んでいます。
*インクルーシブな成長:貧富の格差を解消し、中間層の拡大につなげる成長
投資、ファイナンス、アドバイスなどを通して、2030年までにサステナブル金融関連の成長テーマで7,500億ドルのビジネスに関与することで、後押しをしています。
参照:ゴールドマン・サックス「サステナビリティへの取り組み」
アセット・マネジメント部門では、太陽光を中心とする大規模発電所を自ら手掛け、再生可能エネルギー事業を展開しています。
投資銀行部門では、太陽光発電など再生可能エネルギー発電事業者に対しては、ESG債の発行体と投資家を結ぶ役割を果たしています。
投資運用部門では、投資プロセスにESG(環境、社会、ガバナンス)要素を取り入れています。
4.まとめ
金融業界では、ESGが意識されています。
資金融資の際に、環境・社会にプラスの影響をもたらす取引を支援する一方、環境・社会に負の影響を及ぼす可能性がある取引を検証する傾向があります。また、資産運用会社においては責任投資原則(PRI)に賛同する会社が増えています。
金融機関がESGを意識することで、産業界においてもESGが意識されるようになりました。金融業界でのESGへの取組をさらに進めることで、産業界のESGがさらに発展するでしょう。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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