金融業界のゼブラ企業は?海外5社の事業内容やビジネスモデルを解説

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他者および社会全体との共存・共栄を重視するゼブラ企業は、さまざまな業種において多くの企業が発展してきています。今回はそのなかで、特に金融領域でのゼブラ企業にフォーカスして事例やビジネスモデルを調査しました。

投資や決済プラットフォームの開発などを通じて、金融領域のゼブラ企業として発展する海外企業が多く存在しています。ゼブラ企業のビジネスモデルについてよく知りたい方、これからゼブラ企業としての創業を目指している方、そしてゼブラ企業への投資に興味がある方も、それぞれぜひ参考にしてください。

目次

  1. ゼブラ企業とは?ユニコーン企業との違いも
    1-1.金融領域でのゼブラ企業の役割
  2. 海外の金融ゼブラ企業の事業内容やビジネスモデル
    2-1.Provi|若者の教育・就業を金融面から支援
    2-2.Cooler Future|サステナブル投資を促進するアプリサービス
    2-3.TreeCard|植林活動に貢献できるデビットカード
    2-4.Beam|貧困層を支援するクラウドファンディング
    2-5.Patreon|クリエイターのためのクラウドファンディング
  3. まとめ

1 ゼブラ企業とは?ユニコーン企業との違いも

ゼブラ企業は、他者と共存・共栄しながら互いに繫栄していくことを重視する経営スタイルを意味します。具体的には次のような特徴があります。

  • 社会全体の発展を優先
  • 他者との共存を重視
  • すべてのステークホルダーへの還元を重視
  • 革新的な事業や取り組み

対になるタイプとして「ユニコーン企業」があり、それぞれの違いを比較すると次の通りです。

ユニコーン企業 ゼブラ企業
目的 飛躍的な成長 持続可能な繁栄
事業活動の結果(出口) イグジット、テンバガー 収益性、持続可能性、ダブルバガー
世界観 ゼロサム、勝者と敗者 ウィンウィン
手段 競争 協力
資源 ため込まれる シェアされる
チームの構成 エンジニア重視 バランス調整される(マネージャー、顧客対応、エンジニア)
成果の受益者 個人、株主 公共、コミュニティ

※Zebras Unite「Where unicorns fear to tread — building businesses that are better for the world」を参照し、筆者作成

ゼブラ企業は、社会全体が共に発展することを目指す企業です。自社の急成長よりも、社会全体の発展・改善に寄与する事業を営むことによって、他企業・他団体に打ち勝つことを求めず、共に発展していくことを重視します。

旧来の株式企業のように株主だけを重視せず、ステークホルダー全体のベネフィットを重視するのもその特徴です。

1-1 金融領域でのゼブラ企業の役割

資金の流れを形成したり、投資や寄付などの仕組みを形成する金融ビジネスでは、さまざまな形でゼブラ企業としてのビジネスモデルを構築可能です。

たとえば、次のような方法で「金融」を通じた「共存・共栄」が実現します。

  • サステナブル投資を促進するファンド運営
  • クラウドファンディングを活用した社会問題を解決する投資
  • 決済サービス収益を原資とした環境保護
  • 新たなプラットフォーム形成による取引の円滑化

さまざまな世の中の活動を円滑化・促進する役割を果たす金融に目をつけて、さまざまなゼブラ企業が生まれ、また発展しています。

2 海外の金融ゼブラ企業の事業内容やビジネスモデル

海外では金融ゼブラ企業が多数創業し、また発展しています。ここからは海外の金融ゼブラ企業のビジネスモデルや役割について5つの事例を紹介します。

2-1 Provi|若者の教育・就業を金融面から支援

ブラジルのスタートアップであるProviは、ブラジルの若者向けの高等教育機関の入学やその後の就業を金融面からサポートしています。

ブラジルには1,300万人の失業者がいて、そのうち410万人が18歳~24歳の若者です。若者の失業率を低減させるうえでは、質の高い教育を普及させることが重要となりますが、資金が不足して充分な教育を受けられない方が多数います。若者は信用履歴が創出されていないため、ローン借り入れも困難です。

そこで、Proviでは、低金利もしくはゼロ金利で学生向けの金融支援を実施し、学生が希望する適切な教育を受ける機会を創出しています。教育機関とも連携のうえ、就業の実現や将来の安定した所得獲得につながる分野の高等教育を積極的に支援しています。

すでに1,800人を超える学生に対して、キャリアの可能性を広げるための支援を実行しています。その大多数は低所得者層の出身です。

参考:Yunus Funds「Provi」、B lab global「Provi

2-2 Cooler Future|サステナブル投資を促進するアプリサービス

Cooler Futureはドイツを本拠地としていて、アプリを通じて脱炭素化社会の実現などのサステナビリティ投資を促進することを目的としたFinTech企業の一つです。

同アプリを通じてサステナブル投資プロジェクトに少額から投資を行い、プロジェクトから得る投資収益が還元される仕組みです。サステナブル投資を行うクラウドファンディングを運営するビジネスモデルといえます。

同社が重視しているのは情報の透明性です。投資成果はもちろんのこと、自分の投じた資金がどのようなプロジェクトに使われ、どの程度気候変動に関する課題解決に役立っているかをアプリを通じて逐一確認できる仕組みとなっています。

また「Learn」のメニューでは投資に関する基礎的な教育コンテンツも展開していて、資産運用に関する人々の知見を高める役割も果たしています。

参考:Pitch「Cooler Future Pitch Deck」、Crunchbase「Cooler Future

2-3 TreeCard|植林活動に貢献できるデビットカード

TreeCardはデビットカード機能とアプリを通じた歩数計測を植林活動と結びつけたユニークな会社です。ユーザーが同サービスを使い続けるごとに、同社が樹を植えていく仕組みとなっています。

TreeCardで樹を植える方法の一つは「歩くこと」です。同社が提供するアプリには歩数を計測する機能があり、10,000歩ごとに新たな植樹を行うルールです。また、利用者は10,000歩達成に応じて環境にやさしいサービス・商品などに利用できるポイントを獲得できます。

もう一つの方法は、同社のデビットカード機能を使用することです。TreeCardではサステナブルな原料から作られた木製のカードを受け取れます(アプリ決済も可能)。これはデビットカード機能を有していて、50ドル使うごとに1本の樹が植えられる仕組みです。

また、1,000ドルの利用額を達成すると3%のデポジットを受取れます。このデポジットは、自分で使うこともできますが、気候変動問題への解決に役立てるための寄付に充当することも可能です。

デビットカード運営によって獲得できる加盟店手数料のほか、検索エンジンを運営していて利益の大半を寄付しているドイツのECOSIAとの連携や環境にやさしい製品の広告収入などによって、この植樹システムは支えられています。

参考:Treecard「Treecard

2-4 Beam|貧困層を支援するクラウドファンディング

Beamはイギリスに本拠地を置く企業で、ホームレスなどの貧困層をクラウドファンディングの仕組みを活用して支援するサービスです。

同サービスの特徴的なところは、貧しいながらも何らかの目標(就業や教育など)を抱いている人のストーリーをみて、共感できる人に少額から金銭支援ができるという仕組みです。ストーリーはBeamのケアワーカーと支援希望者が協力して作成しています。

集まった資金は100%確実にそのストーリーにおける目標達成のために使用されます。なお、基本的に「寄付」形式のクラウドファンディングなので、投資収益を稼ぐものではありません。ファンドへ寄付したあとは、支援した方が実際にどのような状況になっているか「アップデート」の情報を得られます。自分の寄付が確実に人の役に立っていることを確認できる仕組みです。

Beamは、2023年9月27日時点で2,449人の支援を実行しています。そのなかには多くのホームレスや難民などが含まれています。

参考:Beam「Beam

2-5 Patreon|クリエイターのためのクラウドファンディング

Patreonはアメリカに本拠地を置く企業で、ミュージシャン、YouTuber、ウェブコミッククリエイターなどのさまざまなクリエイターが、自身の創作活動で生計を立てられるようにするためのクラウドファンディングや決済・有料プラットフォームを提供しています。

Patreonを活用すると、クリエイターは多様な方法で収益を獲得可能です。まだ実現していない創作活動に対しては、寄付型のクラウドファンディングを立ち上げて資金を募ることができます。また、データ、テキスト、動画や音楽などさまざまなフォーマットの著作物を販売する機能や、サブスクリプションサービスでファン・資金支援者(パトロン)から定期収入を得る方法もあります。

Patreonによる金銭支援や多様な決済プラットフォームにより、クリエイターは従来よりも生計を立てやすくなっているのです。「お金が複数回循環する経済を創る」をコンセプトに600万人以上の視聴者が20万人/月以上のクリエイターを支えるシステムを構築しています。

参考:Bownow「Beam」、Patreon「Beam

まとめ

金銭を媒介してさまざまな形で社会に好影響を与えようとする、多くの金融ゼブラ企業が成長しています。脱炭素化社会や環境保護を支援する企業が多く見られる他、社会的弱者の支援、新たな決済プラットフォームの形成など、金融領域から社会の発展を支える方法はいくつもあります。

社会的インフラの側面がある金融の領域でのゼブラ企業がサステナブルな社会の実現に果たす役割は大きく、注目が高まっています。ゼブラ企業への投資促進やさらなる発展が期待されるところです。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。