ここ10年ほどの間にひろまった概念としてユニコーン企業というものがあります。これは、近年急成長したベンチャー企業のことを指します。
一方で、SDGsに対する意識が高まるなか最近着目が高まってきているのが「ゼブラ企業」です。この記事ではゼブラ企業の定義や特徴、企業の事例などについて紹介します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- ゼブラ企業とユニコーン企業
1-1.ゼブラ企業の特徴
1-2.ユニコーン企業の特徴 - ゼブラ企業が注目される理由
- ゼブラ企業の事例3選
3-1.Peerby(オランダ)
3-2.ボーダレス・ジャパン(日本)
3-3.バイオーム(日本) - 主なゼブラ投資家(ゼブラ投資ファンド)の事例
- まとめ
1 ゼブラ企業とユニコーン企業
ゼブラ企業はユニコーン企業と対照的な存在として近年広がってきた企業のタイプです。大まかにまとめると次のような違いがあります。
ユニコーン企業 | ゼブラ企業 | |
---|---|---|
目的 | 飛躍的な成長 | 持続可能な繁栄 |
事業活動の結果(出口) | イグジット、テンバガー | 収益性、持続可能性、ダブルバガー |
世界観 | ゼロサム、勝者と敗者 | ウィンウィン |
手段 | 競争 | 協力 |
資源 | ため込まれる | シェアされる |
チームの構成 | エンジニア重視 | バランス調整される(マネージャー、顧客対応、エンジニア) |
成果の受益者 | 個人、株主 | 公共、コミュニティ |
※Zebras Unite「Where unicorns fear to tread — building businesses that are better for the world」を参照し、筆者作成
それぞれの特徴を詳しくみていきましょう。
1-1 ゼブラ企業の特徴
ゼブラ企業とはユニコーン企業と対照的な特徴をもつ存在として近年認知されてきました。主に次のような特徴を持つ企業のことを指します。
- 社会全体の発展を優先
- 他者との共存を重視
- すべてのステークホルダーへの還元を重視
- 革新的な事業や取り組み
ゼブラ企業とは企業自身だけでなく、社会全体が共に発展していくことを重視する企業です。自社の急成長は必ずしも重視せず、社会が発展したり、良くなったりしていくなかで、自然と自社の事業も成長していくことを目指します。
そのため、競合他社を含めた他者に打ち勝つことは必ずしも追求せず、他の企業や団体などと共存しながら共に発展していくことを重視します。企業はしばしば自身が属する市場の中で競争優位を獲得することを重視すると捉えられがちですが、これはゼブラ企業にはあてはまりません。
また、これまで企業はその所有者にあたる出資者もしくは株主を重視する傾向にありました。社会の発展への貢献や顧客へのベネフィットの提供は、あくまで企業を発展させるための一手段としてみられてきた部分があります。
対照的にゼブラ企業は、すべてのステークホルダーへ利益を還元することを目指します。地域住民や顧客、取引先、従来であればライバルとなるような競合他社も含めて、社会全体にベネフィットが還元されることを目指して事業をおこないます。
最後に、これは必ずしもゼブラ企業となる必要用件ではありませんが、ゼブラ企業が目指す社会全体の発展を実現するうえで、何らかの革新的な技術や知識を持ち、事業を推進している企業が多いといえます。
1-2 ユニコーン企業の特徴
ユニコーン企業はゼブラ企業より少し前に登場した概念です。実は定義がはっきりしていて、次のような特徴を持つ企業のことを指します。
- 創業からの期間が短い(概ね10年以内)
- 企業価値(評価額)が急拡大した(10億ドルが目安)
- 未上場のベンチャー企業
短期間で急成長するのがユニコーン企業の特徴であるため、必然的に他社との競争に勝って、シェアを伸ばしていくことを追求する傾向にあります。そのため、ある市場でユニコーン企業が急成長した場合、寡占や独占が進む可能性が高まります。
企業価値が急拡大すると、直接的に恩恵を受けるのは企業の所有者に当たる出資者(株主)であるため、ユニコーン企業は出資者を最優先に考える企業となります。なお「未上場であること」も本来のユニコーン企業の定義の一つです。
未上場企業の場合、経営者やオーナー自身が株を多く取得している場合が多いため、重視している出資者には経営者が含まれる場合が多いといえます。
2 ゼブラ企業が注目される理由
ゼブラ企業は、SDGsにおいて持続的な社会の発展が重視される中で、従来の企業成長のありかたに対する課題意識が背景となり着目されるようになりました。
SDGsは疎外される人をつくらない、社会すべての人が発展していける世の中を経営することが目標の一つです。これに対して、企業というのは元来、自身の組織の発展が第一に来ることから、SDGsの方向性とは相容れない場合があります。
企業の成長は社会に革新をもたらす場合がある一方で、その企業や企業の出資者ばかりがベネフィットを享受し、社会全体に充分に還元されていなかったり、発展の過程で他社を衰退させたりする恐れがあります。
SDGsを推進していくうえでは、企業と社会の目指すべき方向性が合致していくことの重要性が高まっています。そのため、ゼブラ企業に着目して、積極的に投資する動きが出てきているのです。
3 ゼブラ企業の事例3選
ユニコーン企業と比べるとまだまだ知名度の高い企業が少ないゼブラ企業について、ここでは国内外の事例を3選紹介します。
3-1 Peerby(オランダ)
「家庭にあるものの80%が1カ月に1回も使用されていない」という状況に目をつけて、家庭用品のシェアリングサービスを立ち上げたのがオランダのPeebyという企業です。同社はSDGsの実現の重要な一要素となる循環経済(サーキュラーエコノミー)の発展に大きく貢献する企業であると期待されています。
同サービスはオンライン上で近所の家庭用品についてすぐに使いたい人、今は使わない人をマッチングさせて貸し借りし合うものです。Peebyはシェアする家庭用品の保証もおこなっています。
※参考:Peeby
3-2 ボーダレス・ジャパン(日本)
事業投資をおこなうことでソーシャルビジネスを推進する起業家を支えるのが、ボーダレス・ジャパンです。
貧困、差別・偏見、環境問題などあらゆる社会問題に立ち向かう起業家を創業資金の提供のほか、ビジネスプランの策定やマーケティングなどのコンサルティングやサポートをおこないます。
また、経理や法務などバックオフィス的な部分を代行・支援することで起業家が社会課題の解決に集中できる体制をつくります。このように、資金面以外の部分での支援も積極的に行っているのが同ビジネスの特徴です。
例えば次のようなビジネスを支援しています。
- Alphajiri:ケニアで農業サプライチェーンを改革し貧困農家を支える
- AMOMA:オーガニックハーブの契約栽培で貧困農家を支える
- Bangladesh Leather Inspection:バングラデシュで、文字が読めない人も障がいを持つ人も安心して働けるコミュニティを形成する
- ILOITOO:マヤ伝統工芸の付加価値を高め、女性が自立できる工房をつくる
引用:GLOCEED「株式会社ボーダレス・ジャパン」
3-3 バイオーム(日本)
世界中の生物や環境情報を集めてビッグデータを形成し、生物多様性の保全を目指しています。「環境の保全を“社会の当然”にする」という目標のもと、これまでの環境破壊や資源の消費を通じて発展してきた社会からの転換を推進しています。
同社では一般消費者向けに、ゲーム感覚で生物多様性について考えるきっかけとなる「Biome(バイオーム)」を公開しています。また研究機関や企業向けには本格的な生物や生態系の調査を行う「BiomeSurvey(バイオームサーベイ)」というプラットフォームを運営し、バイオーム自身や他の機関が、研究結果の発信および情報収集をおこなえる場を形成しているのです。
その他、誰でも生物の多様性を視覚的に確認できる「BiomeViewer(バイオームビューア)」というサービスもおこなっています。企業や行政、団体・研究機関などが生物の多様性の保全に向けた調査や研究、事業開発などを支援しています。
※参考:バイオーム
4 主なゼブラ投資家(ゼブラ投資ファンド)の事例
ゼブラ企業がSDGsと共に発展しつつある中で、主にゼブラ企業に投資するゼブラ投資家もみられます。特に他の投資家から資金を集めて、ゼブラ企業に投資するゼブラ投資ファンドが増加傾向です。
明確な定義づけはされていませんが、ゼブラ企業は2023年7月時点では未上場企業を指すケースが多いため、ゼブラ投資家は基本的に未公開株に投資することになります。
未公開株に投資するファンドといえば「PEファンド」や「ベンチャーキャピタル(VC)」などがあてはまります。そのため、ゼブラ投資ファンドはPEファンドやVCの派生形とみることもできます。
ゼブラ投資ファンドの例
ゼブラ投資ファンド | 特徴 |
---|---|
talikiファンド | 社会課題についてアクションを強要するのではなく、ステークホルダーの経済発展と共に解決する仕組みや、消費者が自発的に選好してくれるサービスを開発する企業に出資。 |
フューチャーベンチャーキャピタル | 「開業率を高める創業ファンド」、「廃業率を下げる事業承継ファンド」、「地域に事業を創造するCSVファンド」といったコンセプトで、地域の課題解決に資する100年企業の形成を後押し。 |
KIBOW 社会投資 | ベンチャー企業への出資や経営支援などをおこなうが、ベンチャーの中でも社会的なインパクトを産み出す企業を選別して投資。 |
出典:taliki Fund「ABOUT」、フューチャーベンチャーキャピタル「FVCの投資哲学」、KIBOW 社会投資「KIBOW 社会投資」
4-1.個人が未上場のベンチャー企業へできる投資サービス
スタートアップ企業に投資する方法は様々ありますが、個人が少額資金で投資ができるサービスに株式投資型クラウドファンディングがあります。
株式投資型クラウドファンディングでは、企業(個人)の構想や事業計画についてインターネットを通して広く発信し、その内容に賛同する、あるいはその活動を支援したい人から資金を募れるシステムになっています。募集企業のすべてがゼブラ企業というわけではありませんが、社会課題や環境課題に取り組むベンチャーも多く、ゼブラ企業の情報収集をしたいという方にも利用しやすいサービスです。
日本初の株式投資型クラウドファンディングサービス「ファンディーノ」
ファンディーノは、株式会社FUNDINNOが提供する日本初の株式投資型クラウドファンディングサービスで、様々なスタートアップ企業の株に10万円程度から投資をすることができます。
ファンディーノで募集されるスタートアップ企業に対しては、投資家保護の観点から厳正な事前審査が行われます。審査では、会社の将来性・安定性・独自性・革新性などの項目について、決算書や事業計画書に基づいて判断するとともに、経営者との面接も実施されます。これらの審査は社内の公認会計士などを中心に行われ、採用の是非を決める審査会議では、多数決ではなく全員一致で審査通過となります。
ファンディーノには、このような厳しい事前審査を通過した企業が提案する案件のみが掲載されています。投資家の方は、その中から投資したい案件を選んで申し込みを行うことができます。
なお各企業は、プロジェクト達成のための「目標募集金額」をそれぞれ設定しています。目標募集額に到達した状態で申込期間が終了した場合、もしくは上限応募額に到達した場合に、その後のキャンセル期間中に目標募集額を下回らないときに成約する仕組みとなっています。なお、投資家登録にかかる手数料や株式購入にかかる手数料は無料です。
また、投資家登録をすると、商号・住所・資本金・代表者・資金使途など投資先企業に関する詳しい情報を確認でき、案件について不明な点があればサイト内から質問することもできます。
【関連記事】個人でスタートアップ企業に投資するには?ベンチャー投資のメリットやリスクも
まとめ
ゼブラ企業はユニコーン企業と対照的な概念としてうまれたもので、SDGsを推進し、達成を目指すうえで重要な役割を担っています。ユニコーン企業は、これまでさまざまな社会の変革や発展に貢献してきた一方で、急速な発展の裏で競合他社の衰退や、出資者への利益の偏重、経済格差の拡大などの課題も浮かび上がってきました。
ゼブラ企業は、社会全体の発展や課題解決により大きく貢献できる可能性を秘めていることから、着目されています。SDGsの達成に向けて、更なるゼブラ企業投資の普及が期待されるところです。
伊藤 圭佑
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