国内金融系企業のESG・サステナビリティの取り組みは?大手3社の事例も

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金融業界は、多くの企業や個人から資金を集めて運用したり、融資をしたりすることを通じて、経済の成長や発展を支える重要な役割を果たしています。そのため、金融機関も持続可能性を考慮し、気候変動等リスクの適切な評価や、ESGに対応した金融投資の運用や正確な情報提供、また利用者の金融リテラシーの向上など、様々なESG活動が期待されています。

そこでこの記事では、国内金融系企業が取り組んでいるESG・サステナビリティの内容について詳しくご紹介するので、関心のある方は参考にしてみてください。


※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年8月20日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. 国内金融系企業のESG・サステナビリティの取り組み内容
  2. 三菱UFJ銀行
    2-1 サステナブルファイナンスの推進
    2-2 脱炭素化への取り組み
  3. 三井住友銀行
    3-1 ESGに関連した商品・サービス
    3-2 金融経済教育への取り組み
    3-3 ダイバーシティ&インクルージョンの推進
  4. 東京海上日動
    4-1 商品・サービスを通じた社会的課題の解決
    4-2 社会貢献活動
  5. まとめ

1 国内金融系企業のESG・サステナビリティの取り組み内容

ESGへの取り組みなど、社会的課題を解決するためには、必要資金を提供する金融機関の存在が重要です。特に社会的課題の1つである脱炭素を実現するには、設備投資や技術開発などで巨額の資金が必要となるため、金融機関からの支援は欠かせません。金融を通して持続可能な社会を実現するため、ESGを考慮したサステナブルファイナンスを推進する国内金融系企業が増加しています。

ESG活動に積極的に取り組んでいる国内大手の金融系企業の例として、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、東京海上日動などが挙げられます。そこで、上記3社がどのような形でESG活動への取り組みを行っているのかを詳しく見ていきましょう。

2 三菱UFJ銀行

三菱UFJ銀行は、三菱系の金融持株会社である三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG、8306)の傘下にある国内大手の都市銀行です。三菱UFJ銀行を含むMUFGの経常収益は年間約9.2兆円(2023年3月期)となっており、国内金融業界でトップの規模です。

三菱UFJ銀行は、企業グループの経営基本方針である「MUFG Way」をもとに、環境・社会課題の解決と企業グループの経営戦略を一体と捉えて価値を創造していくことを目標に、以下のようなESG活動を行っています。

2-1 サステナブルファイナンスの推進

三菱UFJ銀行は、サステナブルファイナンスの各種サービスを提供することで、環境面や社会面の課題解決に取り組む事業者の支援を行っています。同社は、2019年度から2030年度までのサステナブルファイナンス累計融資実行額の目標値を定めています。2030年度までの累計目標値は、環境分野18兆円、社会分野等17兆円の計35兆円です。そして、2021年上半期までの累計融資実行額の実績は、環境分野4.3兆円、社会分野等6.1兆円の計10.4兆円です。2030年度までの累計目標値達成に向けてその金額は順調に伸びています。

2020年時点で、MUFGのサステナブルファイナンスは組成額9,642百万米ドル、グローバルシェア4.8%であり、世界2位の規模でした。同社が提供するサステナブルファイナンスの商品には、「サステナビリティ・リンク・ローン」「ESG経営支援私募債・ローン」等があります。
(※参照:三菱UFJ銀行「サステナブルファイナンスの推進」)

サステナビリティ・リンク・ローン

「サステナビリティ・リンク・ローン」とは、顧客のESG戦略に応じて目標(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)を設定し、達成状況に応じて金利等の融資条件が変動するローンのことです。このローンはESG活動で成果を上げた事業者がより好条件で融資を受けられる仕組みとなっています。ローンを利用する各事業者にとって、ESG活動の成果向上を目指す動機付けとなることが期待されています。

例えば、2022年3月には大手建設会社である大林組に対し、スコープ1、2では1.5℃水準、スコープ3では2℃水準を目標とした温室効果ガスの排出削減率をKPIとして設定し、アレンジャーとしてシンジケートローンを組成しています。

ESG経営支援私募債・ローン

「ESG経営支援私募債・ローン」とは、顧客のESGへの取り組みを評価・サポートするESG評価型の私募債・ローンのことです。私募債とは、特定少数の投資家を対象に発行される社債のことで、三菱UFJ銀行は、ESG活動を行う事業者に代わって、事業資金を提供してくれる投資家を募集する役割を担っています。

事業者がこのローンを利用するには、ESGの取り組み内容について、本ローンのサポート企業である日本格付研究所と、三菱UFJリサーチ&コンサルティング社による一定以上の評価結果を得る必要があります。各事業者にとってはローンの条件を満たすため、ESG活動の成果向上を目指す動機付けとなることが期待されます。

2023年4月にはアコム株式会社が、環境負荷削減への取り組みの進捗度合や開示状況、マテリアリティに関連する目標や進捗状況などが策定、公表、また経営会議や取締役会議でも議論・報告されていることなどが評価され、本ローンを制約しています。

2-2 脱炭素化の取り組み

環境面における社会的課題の1つに気候変動があります。気候変動によって、生物多様性や資源の減少、自然災害や疫病の増加が引き起こされ、人々の生活や事業活動に悪影響をもたらす恐れがあることから、気候変動対策の重要性は増しています。地球の気温が上昇する要因として、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量増加が挙げられます。

自社における脱炭素の取り組み

MUFGは、脱炭素化に向けて、2030年までに温室効果ガス排出量のネットゼロを目指しています。ネットゼロとは、温室効果ガスの排出量と吸収量が同量でバランスの取れた状態のことです。三菱UFJ銀行が国内で契約する使用電力は、2021年度から太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーにより全て調達しています。

再生エネルギーファンドの組成

さらに、再生可能エネルギーのマーケットを活性化させる目的で、2021年9月にパートナー企業8社とともにファンド運営会社であるZエナジー株式会社を設立し、カーボンニュートラルファンドを創設しました。グリーン電力の創出、小売り、パートナー企業での使用までを一気通貫で実施できる仕組みづくりを行い、脱炭素化の実現を目指しています。2023年8月現在、日本各地で11件の太陽光発電プロジェクトに投資をしています。

エコ通帳を通した育林支援

脱炭素化に向けた取り組みの例として、2021年1月に、エコ通帳(インターネット通帳:紙の通帳の代わりにスマートフォンまたはパソコンでいつでも入出金明細が確認できるサービス)の申込件数に応じて、約10万本の植樹と10年間の育成費用総額5億円を寄付するプログラムを実施しました。
(※参照:MUFG「サステナビリティレポート」)

3 三井住友銀行

三井住友銀行は、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ、8316)の傘下にある国内大手の都市銀行であり、三菱UFJ銀行、みずほ銀行とともに国内の3大メガバンクに位置付けられています。

三井住友銀行を含むSMBCグループは、「現在の世代の誰もが経済的繁栄と幸福を享受できる社会を創り、将来の世代にその社会を受け渡す」ことをサステナビリティと定義しています。それでは、三井住友銀行の取り組みを見ていきましょう。

3-1 ESGに関連した商品・サービス

三井住友銀行は、資金用途を環境・社会面に配慮した事業に限定したサステナビリティローンなど、様々な商品とサービスの提供を行っています。その例を幾つかご紹介します。

SMBCグリーンプログラム

個人顧客向けのサステナブルな取り組みの例として、個人向け国債「SMBCグリーンプログラム」が挙げられます。個人向け国債を購入すると、同社が収益の一部を温室効果ガス排出枠(クレジット)の取得や、育林プロジェクトの寄付に充てる仕組みです。個人顧客が、環境保全に貢献しながら資産運用を行えるような取り組みを目指しています。

グリーンプログラムを通して、顧客一人あたりに対し、同社は以下の取り組みを行っています。

  • 100kg相当の温室効果ガス排出枠を購入し、国に無償移転
  • 1平方メートル相当の育林

環境配慮型住宅を対象とした住宅ローン

環境配慮型住宅(ZEH)は、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みの一つです。太陽光発電など再生可能エネルギーを取り入れるなど、創エネ・省エネ・断熱機能を取り入れることで、エネルギー収支をゼロにすることを目指した住宅です。

三井住友銀行は、ZEHを対象に、特別な金利で住宅ローンを組むことができるサービスを開始しています。例えば2023年8月に借り入れのWEB申し込みをすると、店頭金利より年間約2%抑えた金利が提示されています(2023年8月20日時点)。特別な金利でローンを組めることで、環境に配慮した住宅を選択する動機付けとなることを目指しています。
(※参照:三井住友銀行「環境に配慮した住宅(ZEH)を対象とした住宅ローン」)

エクエーター原則の採択

金融を通して持続可能な社会の実現に貢献するため、同社は2006年にエクエーター原則を採択しました。エクエーター原則とは、大規模な開発等のプロジェクト向けの融資における環境・社会への配慮基準です。エクエーター原則を採択した金融機関は、同規則に沿った基準や手続きを制定し、それに基づいて環境や社会のリスクを評価することが求められます。2021年11月からは、エクエーター原則協会の運営委員会メンバーとなっています。

3-2 金融経済教育への取り組み

お金は人々が生活をしていくために欠かせないものですが、最近は振り込め詐欺等の金融犯罪や多重債務、老後の生活資金不足なども社会問題となっています。多重債務リスクを軽減し、お金を貯蓄・運用することで、長期的に安心して生活できる社会を実現するには、金融リテラシーの向上が欠かせません。

三井住友銀行は、このような問題を解決するため、小学生、中高生・大学生・一般社会人の幅広い世代の人を対象に金融経済教育の取り組みをESG活動の一環として行っています。例えば、小学生に対しては、2006年より「夏休み!こども銀行たんけん隊」という体験学習の機会を設けています。この見学会に参加すると、銀行の窓口業務を体験できたり、ATM・金庫を見学できたりするなど、金融の知識や銀行業務などを体験できます。2019年には、59組130名の小学生が見学会に参加しました。

中高生に対しては、学校に設置されたこども銀行の運営、企業見学の機会を設ける等の方法で金融経済教育に取り組んでいます。学校に設置されたこども銀行で生徒が貯蓄を行えるため、その体験を通じて貯蓄の重要性を学べる仕組みになっています。また、企業見学では、中高生が銀行の営業現場やディーリングルーム(トレーダーやディーラーが実際に取引を行う部署)も見学でき、銀行業務をより近くで見られます。

その他、大学生に対しては、従業員を大学に講師派遣して「環境に関するストラクチャードファイナンス」といった専門的なサステナビリティ関連の金融関連の講演を行っています。一般社会人に対しては、「たいけん塾」という銀行の見学ツアーを通し、特定の店舗内に設けられているパネルにタッチすることにより、金融に関する知識を学べる機会を設ける形で、金融経済教育が行われています。

3-3 ダイバーシティ&インクルージョンの推進

企業が持続的な社会の実現に貢献するには、多様な人材の活躍がカギです。人種、国籍、年齢、性別等にかかわらず、社員同士がお互い尊重しながら働ける状況にすることが大切です。

三井住友銀行を含むSMBCグループは、ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、女性活躍・LGBT等の性的マイノリティに関する理解促進等の取り組みを行っています。2022年にはLGBTに関する取り組み評価「PRIDE指標」で、三井住友銀行を含むSMBCグループの10社が最高評価のゴールドを受賞するなど、外部団体からも高い評価を得ています。

多様な性に対する理解促進の取り組みの例として、同社は2017年に就業規則を改定し、同性パートナーも、同性パートナーシップ制度の証明を受けることで、配偶者や家族等の福利厚生を利用することが可能となりました。

さらに2020年2月には、同居する同性パートナーも連帯して1つの住宅ローンを組めるようにローンの取り扱いを見直したり、性の多様性に関する接客トレーニングを行ったりするなど、店頭におけるダイバーシティ推進のための取り組みを進めています。
(※参照:SMBCグループ「サステナビリティレポート」、「LGBTQ理解促進」)

4 東京海上日動

東京海上日動火災保険株式会社(以下、東京海上日動)は、140年以上の歴史を持つ国内の損害保険会社で、完全親会社の東京海上ホールディングス(8766)の傘下に属しています。保険財務力格付では、S&PがA+、ムーディーズがAa3と、それぞれ安定的と評価しています。

東京海上日動は、商品・サービスを通じた社会的課題の解決に取り組んだり、社会貢献活動をしたりするなどの方法で、ESG活動を行っています。以下、具体的に見ていきましょう。

4-1 商品・サービスを通じた社会的課題の解決

地球温暖化や気候変動への取り組みが加速する中、脱炭素の取り組みやクリーンエネルギー推進を支援する保険商品の開発を、同社は行っています。

脱炭素サプライチェーン途絶対応保険

カーボンニュートラル実現に向けて、様々な企業がサプライチェーン上のステークホルダーと連携して脱炭素の取り組みを進めています。このような取り組みを支援するため、同社は2022年3月にCO2排出量削減に取り組む企業を対象とした保険を開発・発表しました。

脱炭素サプライチェーン途絶対応保険は、サプライチェーン上で生じた事故により被る「環境価値」の損害を補償する仕組みです。事故が起きると、予定していた脱炭素の取り組みを停止したり、規模を縮小したりすることが、やむを得ない状況が起きてしまいます。そして、想定していたCO2排出量削減を達成できないリスクが高まります。

この保険には、事故が起きた後、脱炭素の取り組みを再開・復旧するために必要な代替燃料の再調達費用や、カーボンクレジットへの換金額が減少したことによる逸失利益の補償が含まれています。同社は、この保険の展開にあたって、各企業のサプライチェーンの実態を踏まえ、オーダーメイドで保険を設計・提供していく予定です。

※参考:東京海上日動「脱炭素の取組みを支援する環境価値に対する新たな保険の開発

クリーンエネルギー関連保険

また東京海上日動は、顧客のカーボンニュートラル実現を支援するための組織「グリーン・トランスフォーメーション・タスクフォース」を2021年2月に設置しました。洋上風力や太陽光といった再生可能エネルギー関連の保険提供を含む、様々な顧客支援事業に取り組んでいます。

洋上風力発電関連の保険分野では、日本を含む10の国と地域で57プロジェクトに関わっています(2022年時点)。建設工事期間や操業期間といったフェーズごとのリスク見極めと必要な補償の設定を行い、財物保険・賠償責任保険・利益保険を含めた洋上風力発電専用パッケージ保険を提供しています。

リスク評価にあたっては、重要となるファクターに関し確率論を用いてリスク量の計算をする手法を取っています。例えば日本における洋上風力プロジェクトの場合、欧州のプロジェクトと異なり、台風や地震・津波などの自然災害リスクを鑑みて計算されています。各プロジェクトで培った知見を活かし、再生エネルギー事業の保険商品・サービスの開発に取り組んでいます。

4-2 社会貢献活動

地域社会への貢献も企業が取り組むESG活動の1つです。東京海上日動では、日本及び世界各地で社会貢献活動を行っています。

Green Giftプロジェクト

東京海上日動では、2009年から「Green Gift」プロジェクトを実施しています。保険の契約時に、「ご契約のしおり(約款)」等を冊子ではなく、Web約款の閲覧を選択した場合、紙資源の使用量削減額の一部を非営利団体に寄付する仕組みです。2021年度にWeb約款を選択された契約は約1,220万件、紙資源の削減効果は約2,740万トンに達したと同社は発表しています。

寄付は、海外でのマングローブ植林活動、途上国の教育支援プログラム、国内では子どもを対象とした環境保護活動や、東日本大震災で被害を受けた海岸林再生プロジェクトの支援に用いられます。

特に、同社のマングローブ植林活動については、植林面積をKPIとした2019年度から2023年度の5カ年計画が立てられ、半年ごとに進捗状況の確認が行われています。コロナ影響を受けたものの、2019年度から2021年度の3年間累計は997ヘクタールで、進捗率86%と順調に計画達成に向けて進んでいます。

マングローブ植林により、CO2の吸収に加え、高波や津波、洪水等の自然災害から人々や生態系を守る自然の防波堤を作ること、そして魚介類や鳥類といった生態系の保護に寄与することが期待されています。

貧困問題への対応

世界の貧困・格差問題への対応として、同社は金融包摂に資する取り組みを始めています。2001年に設立したインド企業との合弁会社、IFFCO-TOKIO社とともに、インドの農業従事者を支援する天候保険やマイクロ・インシュアランス(低価格の保険)の開発を行ってきました。これらの保険による毎年の収入料は、100億ルピーから200億ルピー(約180億円から360億円、2022年時点)の規模にまで成長しています。

天候保険については、インド各地の降水量や温度などの天候リスクを評価し、雨季、乾季における天候不順が農村地域の穀物収穫高に与える影響を考慮する形で保険商品の開発をしています。また、農業従事者の方々に天候保険の仕組みを理解してもらうため、インド各州の銀行やNGO等とともに説明会を開催し普及活動を行っています。現在、同社が提供する天候保険は、政府管掌の天候保険と合わせて、400万世帯を超える農家の方々に販売されています(2022年時点)。

(※参照:東京海上日動「サステナビリティレポート2022」)

5 まとめ

国内の大手金融系企業の中には、サステナビリティ・リンク・ローンやESG評価型のローン、再生可能エネルギーファンド、天候保険など、金融商品を通して持続可能性に取り組んでいる企業がいます。また、金融リテラシー向上のための金融経済教育や、貧困問題などの社会課題にも取り組んでいます。

このように、様々な形でESG活動に取り組んでいる金融系企業もありますので、関心のある方はご自身でもお調べになってみてください。

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HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム

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