今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の中村翔太 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
2022年6月、NFTレンタルプロトコルであり、メタバースとGameFiのアセットのマーケットプレイスであるDouble Protocolが、レンタルを可能にするNFTの共通規格ERC-4907を提案し、正式に採用されました。
We are stoked to announce that EIP-4907 proposed by the Double team has updated its status to final, becoming 1 of the 30 Ethereum token standards.
ERC-4907 will greatly reduce the integration cost of utility NFT rentals for gaming, metaverse, etc. https://t.co/gMOwgKVdI1
— Double Protocol – Rental Protocol for Utility NFTs (@DoubleProtocol) June 29, 2022
この規格では、NFTの所有者と使用者が切り分けることが可能となるため、NFTプロジェクトで新しい試みが期待されます。今後NFTや周辺プロジェクトがより広く認知を得た際には多くの良い影響をもたらすと考えられます。今回はERC-4907とそれを利用したプロダクトを紹介していきます。
ERC-4907の概要
一般的にNFTと言えば、ERC-721という規格に基づいて作られますが、ERC-4907はこのERC-721規格の機能を拡張した規格です。ERC-4907の機能としては、所有者(Owner)に加え、アドレスに付与できるロール、すなわち使用者(User)とユーザーロールが失効するまでの時間(expires)が追加されています。所有者(Owner)は「所有者ロールの譲渡する」「ユーザーの役割を譲渡する」という2つの権利があり、使用者(User)には「NFTを使用する」権利が与えられます。ただし、使用者はNFTを譲渡することは出来ません。
レンタル機能がどのように動作するのかについて見ていきたいと思います。下の図はレンタル機能の例を表したものになりますが、この図を基に説明します。
AliceはNFTの所有者で、NFTを貸し出したいと考えています。BobはAliceが所有しているNFTをリースしたいと考えています。実際にレンタル可能なNFTの一連の挙動は以下のようになります。
- レンタルコントラクトがAliceが所有するNFTを譲渡できることをAliceが承認します。
- AliceはレンタルするNFTのリストをレンタルコントラクトへ送付します。
- Bobがリース期間を選択すると、リース期間とレンタル価格に基づいてレンタル料金が計算されます。Bobはレンタル料金としてトークンを転送し、Aliceからレンタルコントラクトに NFTを転送し、NFT のユーザーをBobに設定し、リース期間までに期限を設定します。
- リースが期限切れになると、Aliceはレンタルコントラクトから NFT を引き換えることができます。
ERC-4907によって変わるユーザー体験
NFTの中にはユーティリティを持つものがあります。例えば、ブロックチェーンゲーム内でゲームアイテムとして使用することができるNFTや保有することでコミュニティへ参加する権利を得られることができるNFTなどがあります。ここで想定されることとして、極力コストをかけることなくNFTのユーティリティを利用したいユーザーはレンタルという手段を取る場合があります。
従来の方法でNFTのレンタルを行おうとした場合、レンタル期限終了後に借り手がNFTを返還することを保証するために所有者はNFTを条件や担保を付け所有権を移します。NFTの所有権が借り手に移ると所有者は管理することが出来ず勝手に売られてしまったり返還されないなどの多くのリスクが生じます。また、レンタル期間が終了すると所有者は自力でNFTを回収しなければならず、同時に多くのNFTをレンタルしている場合は複雑な工程とコストがかかってしまう問題があります。
これまでのスカラーシップ制度では、貸し手と借り手の間で契約書類を用意し直接契約を結ぶなどしていたため、借り手側は提出するプライバシー情報開示の範囲といったリスクがあり、貸し手側は持ち逃げやウォレット乗っ取りなどのリスクがありました。
しかし、ERC-4907はこれらの問題を解決します。例えば、この規格によりコントラクトでのやりとりで完結するため、2者間の手作業でのやり取りがなくなり貸し手は1対多数のやりとりにて大きく時間を節約することになります。また、レンタルしたNFTはレンタル期限が過ぎた場合自動で返還されるため持ち逃げのリスクはなくなります、この際にトランザクションは発生しないため借り手の負担も軽減されています。
thirdwebによるERC-4907の利用
8月26日thirdweb運営チームはシリーズAで$24Mを調達を発表し話題になりました。thirdwebとはNo-code(low-code)でweb3アプリケーションが無料かつ簡単に作成できるサービスになります。thirdwebではリリース機能により誰でもコントラクトの共有、検証、展開できます。このリリース機能にDouble Protocol開発チームがERC-4907を公開しておりthirdweb利用者項目を埋めるだけでレンタルNFTを体験することが簡単にできます。setUserのタブでレンタルするtokenIdと貸し出し先のaddressと期間をexpiresに記入し右下のExecuteをクリックし署名するとNFTを任意の期間貸すことが可能になります。
まとめ
レンタル可能なNFT規格ERC-4907によって変わるユーザー体験について扱いました。トランザクションの発生が一回に抑えられるためユーザーの金銭負担と作業行程がかなり減りUX向上につながると思われます。今後はGameFiやMove to Earn系プロダクトの発展に大きく影響を与えるかもしれません。
【参照記事】EIP-4907 – GitHub
【参照記事】EIP4907: ERC-721 User And Expires Extension
【参照記事】Introducing thirdweb Release
【参照記事】doubledev.eth/ERC4907
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
Fracton Ventures株式会社
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