DAOで働く時代 仮想通貨業界で改めてDAOが注目されている訳

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仮想通貨「冬の時代」にもかかわらず、DAO(自律分散型組織)に対する注目度が水面下で高まっている。

例えば、今月、米仮想通貨メディアのザ・ブロックは、分散型取引所(DEX)のユニスワップのDAOにおけるBNBチェーンサポートめぐる投票状況を速報した他、コインデスクは同じくDEXであるdYdXのDAOにおけるグラント(助成金)プログラムをめぐる対立を報じた。大手仮想通貨メディアがDAOの投票についてニュースを書くことは一昔前には考えられなかったことだ。

また、国内でもDAOに対する興味関心は薄れていないようだ。先月、自民党のweb3プロジェクトチーム(PT)がDAOに法人格を与えることを検討していると報じられた。

2021年の強気相場とともにDAOという言葉が流行したが、DAOの歴史は長い。DAOという言葉が初めて使われたのは、2013年にイーサリアム創設者のヴィタリック・ブテリン氏が書いた論文と言われている。紆余曲折を経て、ここ2、3年で再び息を吹き返したDAOだが、一体何が変わったのだろうか?そして、なぜ「冬の時代」である今年に入ってからも注目度は衰えていないのだろうか?

目次

  1. 13個もあるDAOの定義
  2. 「ハネムーン期」頼りという課題
  3. DAOトレジャリーと専門企業
  4. 漸進的分散化

13個もあるDAOの定義

DAOの定義はまだ定まっていない。10人に聞けば10通りの微妙に異なる定義が返ってくるだろう。DAOとは独自トークンとチャットツールのDiscordと同義と考える人もいるだろうし、共通のトレジャリー(財務管理)の存在に重きを置く人もいる。単に「雰囲気」でDAOという人もいるだろう。DAOには13通りの定義があるという見解も出ている。

先述のヴィタリック・ブテリン氏は以下のように定義している。

「DAOとはバーチャル上のエンティティであり、特定のメンバーやシェアホルダーが存在しており、67%以上の過半数の賛同を持ってエンティティの資金の使い方とコードを修正する権利を持っている」

ここで注目なのは、「資金の使い方」と「コード修正」の権利という2つの要素だろう。資金とは先述のトレジャリーの使い方である。コード修正の権利とは、DAOの意思決定を事前にプログラムされた通りに自動で実行するスマートコントラクトをめぐる権限だ。

数々のDAOの定義の中で、「資金」の部分に焦点を当てるのか、「コード」の部分に焦点を当てるのか分かれるように思う。例えば、「DAOとはキャップテーブルと銀行口座を共有するインターネットコミュニティである」と言い切る人もいる。キャップテーブルとは、事業計画を達成するための資金調達や株主構成に関する計画を指す。

対照的に、コインデスクへの寄稿に書かれていたDAOの定義は、「スマートコントラクトを使って人間によるミスや操作を無くした状態で集団による意思決定を行う非公式の組織」だ。こちらはコードに偏った定義だ。

一方、オンチェーンかオフチェーンかでDAOの種類を分けるケースもある。オフチェーンは、ブロックチェーンを使わない形での意思決定だ。オンチェーンの場合は、決定事項がブロックチェーンに刻まれることになり、いわば「ガチ度」が高まる。オフチェーンの例としては、コミュニティ内でのフランクな議論を指すことが多い。

「ハネムーン期」頼りという課題

上記ではさまざまなDAOの定義を見てきたが、最近のDAOはひと昔前と何が違うのだろうか。結論から言うと、「職業としてのDAO」という流れが加速しているように思う。とりわけフォーカスされているのがトレジャリーの使い道に関する議論だ。

以前までのDAOはどこかボランティア精神で運営することが多かった。必要なのは情熱であり、一つの共通の目的で集まった初期メンバーが、それぞれが本業をやりつつも、寝る間をおしんでDAOを盛り立てる。トークンや金銭のやり取りは一切なしだ。海外では、DAOのこのフェーズは「ハネムーン期」と呼ばれている。

「ハネムーン期」を過ぎると、DAOの問題点が浮き彫りになってくる。代表的なものは次の3つだろう。

  • 無関心
  • 多忙
  • 専門性の欠如

DAOの議論や投票に対する無関心が、多くのDAOで問題になっている。投票率はどこも大体一桁%なのが現状だ。ハネムーン期と異なり情熱を失って無関心になっていることが一つの背景と考えられる。

次に挙げられるのが多忙だ。MakerやUniswap、Optimismなど著名なDAOでは毎週複数の議論や投票が同時多発的に行われている。本業もある一般参加者にとって、全てを網羅するのは時間的に困難だ。

最後に専門性の欠如だ。例えば、財務や会計畑の人にトレーディングや技術に関する提案を正しく理解してもらうことは簡単ではない。正しく理解せずに投票することと、正しく理解して(Informedされて)投票することには大きな違いがあり、DAOの質向上のためには当然、後者が求められている。

最近のDAOムーブメントの背景には、上記を解決する議論が始まっていることがあるようだ。それは、ボランティア精神は止めてプロフェッショナルとしてDAOで働くことだ。簡単に言うと、DAOのトレジャリーからお金を引っ張ってくることが重要になっている。

DAOトレジャリーと専門企業

いくら「冬の時代」と言ってもDAOには巨額のトレジャリーが残っている。以下は、DeepDAOが出しているデータだ。

トップはUniswapで30億ドル(約4,000億円)だ。DAOのメンバーは、この巨額予算の使い道を決定できるというわけだ。

また、トレジャリーを使ってDAOの中で働く人も増えてきている。トークンエコノミーの調査によると、MakerDAOとLido、SushiSweapの平均年収(フルタイム当量)はそれぞれ20万5,000ドル(約2,600万円)、13万2,000ドル(約1,700万円)、25万6,000ドル(約3,300万円)。フルタイム当量で働く人の数は、それぞれ104.41人、83人、18.5人だった。

もはやボランティアとしてDAOで働くことは時代遅れだ。しっかりと対価をもらって働くことが主流になりつつある。

また、DAOを職業とする専門的な企業も多く誕生している。詳しくは次回以降の記事に譲るが、例えば、Stablenode、Flipside Governance、ReverieなどがDAO専門企業としてあげられる。

そして、職業としてのDAOでもう一つ注目なのが、「デリゲート」の存在だろう。デリゲートは、ガバナンストークン保有者から投票権と提案権を委任される(デリゲートされる)人や組織を指す。こちらも詳しくは後日解説するが、デリゲートのプロ化も最近のトレンドだ。例えばMaker DAOでは、トップクラスの活躍をするデリゲートに対して年収最大14万4,000DAI(約2,000万円)をDAOから捻出することを決定した。

漸進的分散化

最後にDAOを語る上で重要な概念である「漸進的分散化(Progressive Decentralization」について紹介する。漸進的な分散化は、著名VCのアンドリーセン・ホロウィッツのジェシー・ウォルデン氏が提唱した概念だ。

DAOと言っても、いきなり全てが分散化される訳ではない。初期の頃は創業者や創業チームがプロダクト・サービスに関する決定権を持つことが重要な時もある。プロダクトマーケットフィットと分散型ガバナンスの相性は決して良くないため、中央集権的なリーダーによるビジョンや管理が初期のスタートダッシュ期には必要だ。創業チームが影響力を持たなくなるフェーズは、DAOが一人前の組織として成熟し、全て自分たちで円滑に意思決定できるようになってからでも遅くはないだろう。分散化は段階的にゆっくり行われるべきという主張だ。

アンドリーセン・ホロウィッツは、その後のブログで、DAOを「コアチーム」や「ファイナンス」、「オペレーション」など「最小分散化可能ユニット」(minimum decentralizable units, MDUs)に分けて、それぞれのユニットの進捗具合に分けて分散化することを提案した

未だに完璧なDAO運営方法を編み出したプロジェクトはないだろう。現状の過渡期において、DAOによる全ての試みを「分散化の精神に反する」と拒絶することは、DAOのプロフェッショナル化を進める上でも、必ずしも最善の策とは言えなさそうだ。

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大木悠 dYdX財団 Japan Lead

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。【公式サイト】https://dydx.exchange/