今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
世界最大級の取引数を誇るNFTマーケットプレイスOpenSeaのCFOであるBrian Roberts氏がIPOを目指している旨の発言をし、その発言を受けてコミュニティから反発を受けました。その後、CFO Roberts氏から「私たちはIPOの計画はしておらず、もし仮にそうだとしてもコミュニティを巻き込んだ形にしたい」という前言を撤回する旨のコメントがありました。
There was inaccurate reporting about @OpenSea's plans. Let me set the record straight: there is a big gap between thinking about what an IPO might eventually look like & actively planning one. We are not planning an IPO, and if we ever did, we would look to involve the community.
— broberts.eth (@BKRoberts) December 8, 2021
Roberts氏はIPOを否定しましたが、コミュニティによる反発の動きは尚もまだ見受けられます。その動きとして、昨年末にOpenseaユーザに対してSOSトークンを配布した「OpenDAO」や今年の初めにはOpenSeaへのヴァンパイア・アタックとしてローンチをされ、OpenSeaユーザーに対してLOOKトークンを配布した「LooksRare」があります。これらは企業主体で運営がなされているOpenSeaへの対抗する動きと見なすことができます。
今回の寄稿では、OpenDAOやLooksRareといったコミュニティによる動きの概要、そして、これらの動きからコミュニティと企業の対立構造から本来Web3.0という世界が目指すべき未来について考えていきたいと思います。
NFTユーザーのためのコミュニティ「OpenDAO」
昨年末にOpenDAOというコミュニティがOpenSeaユーザーに対して、SOSトークンというガバナンストークンを配布しました。OpenSeaユーザーに対して、ガバナンストークンが配布されたということですが、これはOpenSeaとは無関係の非公式で行われました。
OpenDAOはNFTクリエイターやコレクター、そしてNFTエコシステムを支援するために立ち上げられた組織であり、OpenDAOが保有しているSOSトークンはOpenSeaで詐欺にあった被害者への補償、新興アーティストへの支援、NFTコミュニティへの支援、アート保存の支援、開発者への助成金に充てられます。
OpenDAOのコアメンバーDyno氏によると、ENS(Ethereum Name Service)をはじめとしたプロトコルがユーザーに対してエアドロップを配布するという事例が多くあり、OpenSeaの取引ユーザーやコミュニティも、OpenSeaがエアドロップを行うことでコミュニティに還元することを期待していましたが、先述のRoberts氏の発言で、コミュニティ全体に一気に火がつき、ユーザーやコミュニティからOpenSeaに対する強い不満の声が上がりました。多くのユーザーがTwitterやコミュニティで不満を訴えましたが、誰も本気で動かなかったので、Dyno氏らはユーザーの取引データがチェーン上に記録されていることを利用して、OpenSeaをNFTプレイヤー向けのエアドロップという形で相応の報酬を与えようというアイデアに至ったとのことです。
新興NFTマーケットプレイス「LooksRare」
1月10日、NFTマーケットプレイスLooksRareは、OpenSeaの代替となることに期待されてローンチされました。LooksRareは、ZoddとGutsと呼ばれる2人の匿名の共同設立者によって立ち上げられ、コミュニティ重視のマーケットプレイスで、ユーザーの要望をもとに新機能を開発するとしています。
LooksRareではユーザーへの報酬としてLOOKSトークンが用いられます。このマーケットプレイス内で対象となるコレクションを売買すると、LOOKSトークンを受け取ることができます。また、全ての取引に2%の手数料が課されており、これはすべてLOOKSトークンをステークしている人に配られます。
既存のOpenSeaユーザーを奪い取ろうとするために、6月16日から12月16日の間にOpenSeaで3ETH以上取引を行ったユーザーに対してLOOKSトークンを配布しました。これは一般に「ヴァンパイア・アタック」と言われています。その結果としては現状(2022年1月29日)、取引量ではOpenSeaを上回りましたが、1日あたりのユーザー数ではOpenSeaを下回っています。新興NFTマーケットプレイスLooksRareの勢いは確かにありますが、OpenSeaほどマスアダプションがされてはいないという状況ですので、当たり前かもしれませんがLooksRareの取り組みはこれからです。
コミュニティ vs 企業・VCの行方
これらのOpenSeaへの対抗する動きは、Web3.0の思想を構成する要素の一部である自己主権やコミュニティ主権への抵抗と見なすことができます。これらの運動は、Twitter創業者でBlock CEOジャック・ドーシー氏と大手VCであるa16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)のマーク・アンドリーセン氏との対立と同様の構図のように見えます。
You don’t own “web3.”
The VCs and their LPs do. It will never escape their incentives. It’s ultimately a centralized entity with a different label.
Know what you’re getting into…
— jack⚡️ (@jack) December 21, 2021
彼らの対立は、ジャック氏が「Web3.0を所有しているのは、VCとそのLPであり、我々は所有していない」という旨の発言をしたことがきっかけとなって、Web3.0業界最大のVCであるマーク・アンドリーセン氏が巻き込まれた形です。コミュニティ寄りのジャック氏と企業・VC寄りのアンドリーセン氏の価値観の違いを実際に体現した形で現れたのがOpenDAO / LooksRare(コミュニティ寄り)とOpenSea(企業・VC寄り)との対立です。
ここでは、どちらの意見が正しいのかという議論をするつもりはありませんが、個人的な見解としては、両者とも半分正しくて半分間違っていると考えます。公共性の高いものや社会インフラとなっているものは、コミュニティで管理・保有することが望ましい形であると考えます。しかし、そのサービスや公共物に関して、より身近に感じる人々が管理するというのが重要であり、そうでない人々は必ずしも運営に関わる必要はないと思います。私たちは、今自分達で社会インフラや公共財を作っている(開発と利用との両方の意味で作ると表現しています)という実感があるため、自分達で管理・保有したい、その方が望ましいと考える傾向にあると思います。しかし、時間が経てば、この価値観もいずれは形骸化してしまうことが予想されます。そうなった場合に、公共財の管理に人々が動員されてしまったり、熟議に参加せざるを得ない状況になってしまうことも想像できます。このような事態に至った場合、本来は自由のためにWeb3.0を目指していたにも関わらず、Web3.0のせいで窮屈さを感じてしまうことになるかもしれません。
ここで、前節でLooksRareはOpenSeaへのヴァンパイア・アタックを行ったと述べましたが、過去に起きたヴァンパイア・アタックの有名な実例としてイーサリアム上のDEX(分散型取引所)であるUniswapのフォークとして生まれたSushiswapがあります。このSushiswapは2020年に誕生してから約1年間で様々なサービスを展開して、規模を拡大していきましたが、2021年後半にはSushhiswapが機能不全に陥ってしまいました。このことは、経済的インセンティブ設計と拡大するための勢いだけでは持続性がないのではないかと私たちに考えさせられる事例となりました。
「Web3.0なのに企業主体の運営だからダメだ」「コミュニティにガバナンスを譲るべきだ」「ユーザーに対してインセンティブを与るべきだ」などという様々な意見があるとは思いますが、結局のところ譲ることのできない「哲学」を企業・VCないしコミュニティが持っているというのが重要になってくると思います。そうでなければ、本来の目的を見失ってしまい、持続性が困難になってしまうことに陥ることになると推測されます。少なくともSushiswapの例を参照すると、こういったことが起こり得るので同じ過ちを回避することが期待できます。
それぞれのプロトコルやサービス、そして企業・VCやコミュニティが軸となるポリシーを持つことが何よりも重要となるでしょう。OpenDAOやLooksRareもOpenSeaへの対抗としてだけではなく、内から溢れ出る想いが必要不可欠であると考えます。運営主体が企業であろうがコミュニティであろうが、そのプロトコルやサービスの哲学やポリシーに賛同して利用するどうかはユーザーである私たちが決めることです。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
守 慎哉
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