核融合スタートアップXcimer、シリーズAで155億円調達。慣性核融合の商用化目指す

核融合スタートアップXcimerは6月4日、シリーズA(資金調達ラウンド)で1億ドル(約155億円)を調達したと発表した(*1)。調達資金を元手に新施設を設立し、慣性核融合(#1)の商用化に向けた技術開発を推進する。

Xcimerは2022年に設立され、コロラド州デンバーを拠点とする核融合スタートアップだ。

同社のミッションは、世界で最も高エネルギーのレーザーシステムを開発し、複数の分野の主要な技術やイノベーションと組み合わせることで、実証済みの慣性核融合を事業として産業規模にまで拡大することである。

今回の投資ラウンドは、英ベンチャーキャピタルHedosphiaが主導した。ビル・ゲイツ氏が立ち上げたブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズやインパクト投資を手掛けるエマーソン・コレクティブなども参加した。

Xcimerは今回調達した資金を元手に、デンバーに新施設を設立する。非線形光学を用いた世界最大級の光パルス圧縮システムを含むプロトタイプのレーザーシステムを構築し、レーザー方式の慣性核融合のための革新的技術の開発を進める。

同社のレーザーシステムは、22年12月に核融合で投入したエネルギーと発生したエネルギーが等しくなるブレークイーブンを達成した米国立点火施設(NIF)のレーザーシステムよりも、10倍大きいレーザーエネルギーを10倍高効率で生成する。熱量(ジュール)あたりのコストは30倍以上低くなる。

今回の資金調達により、Xcimerは従業員の大半を移転したデンバーの技術チームを拡充することができる。

宇宙開発会社ブルーオリジンとロケットベンチャー企業アストラ・スペースで、数十年間にわたり複雑な航空宇宙システムの開発チームを率いた経験を持つジョバンニ・グレコ氏も採用した。グレコ氏は、デンバーに建設されるレーザーシステムのプロトタイプの設計、開発、製造をはじめとするXcimerのエンジニアリングを指揮する。

慣性核融合の技術的な実現可能性は、数十年前に米国政府が検証した。22年には、ローレンス・リバモア国立研究所のNIFが、初めて核融合点火とブレークイーブンを達成している。NIFの燃料カプセルは現在、燃料を点火するために供給されるレーザーエネルギーの最大2.5倍の核融合エネルギーを生成する。

Xcimerは、1980年代の戦略防衛構想(通称 スター・ウォーズ計画)の下で蓄積されたレーザー技術を基に、より大きなレーザーエネルギーの生成を可能にし、NIFで達成された核融合性能を上回るパフォーマンスを誇る。

23年には、米エネルギー省(DOE)の核融合開発プログラムから900万ドルの助成金を獲得した。同プログラムは、核融合エネルギーの電力網への供給推進を目的とする官民パートナーシップ・プログラムである。

DOEは、慣性核融合エネルギー科学技術加速研究(IFE-STAR)イニシアチブにおいて、官民組織と政府研究所からなる3つの慣性核融合エネルギー・ハブを創設した。Xcimerは3つのハブすべてに加盟している。

(#1)慣性核融合…核融合燃料を微小なペレット容器に封入し、強力な尖頭出力をもつレーザーなどで照射することにより、超高温・高密度の燃料プラズマを作る。それが高温で膨張し、周辺に散逸する前に爆発的に核融合反応を点火させようとする方式。

【参照記事】*1 「Xcimer Raises $100 Million to Put Inertial Fusion Energy on Path to Commercialization

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フォルトゥナ

日系・外資系証券会社に15年ほど勤務。リサーチ部門で国内外の投資家様向けに株式レポートを執筆。株式の専門家としてテレビ出演歴あり。現在はフリーランスとして独立し、金融経済やESG・サステナビリティ分野などの記事執筆、翻訳、および資産運用コンサルに従事。企業型DC導入およびiDeco加入者向けプレゼンテーション経験もあり。
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