公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)は1月11日、報告書「ネイチャーポジティブ 実践に向けた手引き」を発表した。森林破壊・土地転換と農林畜産物調達の現状とリスク、海外からのコモディティ取引に多面的に関わる大手総合商社のサステナブル調達の取り組み「状況をまとめている。
ネイチャーポジティブは、「生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること」(環境省「ネイチャーポジティブ経済研究会」資料より)。企業・経済活動による自然環境への負荷を抑えるという概念から前進し、「生物多様性を含めた自然資本の回復」を掲げる。
WWFジャパンの報告書は、企業における調達改善のためのガイダンスとして作成。森林破壊の現状の解説をはじめ、大手総合商社の取り組み状況・調査結果をスコアカードとして3分野計41個の指標を設定し、各指標を3段階(緑・黄・赤)で評価している。
森林破壊の現状について、世界の森林破壊の要因は様々だが、「農林畜産物の生産のために行う農地や植林地への転換が約4割を占める」と指摘。特に、農林畜産業など土地利用由来のGHG排出量は、エネルギー分野に次いで22%と多いことから「企業によるサステナブル調達は、気候変動の観点からも重要であることを認識すべき」としている。
大手総合商社に関する調査では、伊藤忠商事株式会社、住友商事株式会社、双日株式会社、豊田通商株式会社、丸紅株式会社、三井物産株式会社、三菱商事株式会社の7社を対象として、取組みの状況を比較した。代表的な森林リスクコモディティ(木材・紙パルプ・パーム油)における調達方針と運用・開示状況を比較、分析している。大手総合商社の調達方針の策定状況は「日本の他業界と比べて進んでいる」と評価する一方で、「運用や取組状況が十分に開示されておらず、実際の取組みは不足していると思われる企業が多い」と指摘した。
例えば、ほとんどの商社が「森林破壊ゼロ」方針を持っていることが確認できたが、方針を正しく運用するためには植林地や農園までのトレーサビリティが重要となる。しかし、各社デューデリジェンスシステムは設定されているが、「DD項目に森林破壊ゼロに関する要素が設定されている」という指標を満たす企業は双日の木材と紙パルプのみ。それ以外の企業は、方針で森林破壊ゼロを掲げていても実際の運用でどのような確認・評価が行われているのか、十分な情報が公開されていないとWWFジャパンは判断している。
報告書は、「ネイチャーポジティブを目指す世界で日本企業に求められること」として、「森林破壊や土地転換に立ち向かうコミットメントを調達方針という形で公表し、方針に整合する目標を確実に運用し、進捗について透明性をもって開示すること」を求めた。さらに、調達方針について「今出来ていることではなく、社として目指す『あるべき姿』を明示することが重要」と提言している。
WWFジャパン森林グループの南明紀子氏は「世界の森林・自然生態系は危機的な状況にあり、企業の実効性ある貢献が待ったなしの状況。日本企業には、森林破壊・土地転換ゼロのコミットメントを迅速かつ包括的に行動に移し、WWFと一緒にこの危機に立ち向かっていただくことを期待する」とコメントした。
【関連サイト】WWFジャパン「ネイチャーポジティブ実践に向けた手引き」ウェブサイト
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