米小売り大手のウォルマート(ティッカーシンボル:WMT)は2021年12月8日、1.5℃目標に整合した科学的根拠に基づく中長期の温室効果ガス排出削減目標(SBT)の設定を求める融資プログラムを創設したことを発表した(*1)。同社によると業界初の取り組みになるという。
ウォルマートは、2030年までにサプライチェーン全体で10億トン(ギガトン)の温室効果ガス(GHG)削減を目標とする「プロジェクト・ギガトン」を展開している(*2)。今回、そのプロジェクトに新たな融資プログラムを追加し、GHG排出量を削減するサプライヤーが融資を受けやすくするようにした。また、英金融大手のHSBCホールディングス(ティッカーシンボル:HSBC)を通じて早期支払いを受けられるほか、運転資金の管理や事業のエネルギー効率向上などに取り組む際にクレジットライン(融資枠)を利用することができるようになる。
特に、同社のプライベートブランド(PB)商品を生産するサプライヤーである中小事業者を支援していく意向である。これらの中小企業は社内で気候変動に関する専門知識を持ち合わせていないほか、気候変動対策を推進するための資金調達が限られることが想定されるからだ。
融資プログラムを推進していくうえで、HSBCに加え、国際的な環境評価NPOの英CDPと協働する。HSBCによると、企業の二酸化炭素(CO2)排出量は、平均すると80%がサプライチェーン上で生じているという(*1)。中小規模のサプライヤーを支援するためにさらなる取り組みを行わない限り、原材料の調達や販売後の製品の使用などサプライチェーン全体で出る「スコープ3」の排出量削減を実現できないとみている。
HSBCに関しては、2019年よりウォルマートのサステナブル・サプライチェーン・ファイナンスプログラム(SSCF)をサポートしている。SSCFはエネルギー・製品使用・廃棄物・容器包装といった6つの分野のうち、少なくとも1つの分野でGHG排出量を削減した場合、融資条件などを改善する仕組みを採用。新たな融資プログラムではCDPのスコアリングを加味する。
プロジェクト・ギガトンに参画するサプライヤーには、科学的根拠に基づく排出削減目標の設定を推進する国際的な環境団体であるScience Based Targetsイニシアチブ(SBTi)の承認を取得するか、CDP気候変動報告書で一定のスコアを達成するかの選択を求めている。
なお、2017年に開始したプロジェクト・ギガトンには、3,100を超えるサプライヤーがプロジェクトに参画しており、累計で4億1,600万メートルトンのCO2e(CO2換算排出量)を回避したという。
今回のプログラムを通じてサプライヤー基準が厳格化されるなか、ウォルマートと取引するサプライヤーの動向を見守りたい。
【参照記事】*1 ウォルマート「Walmart Creates Industry First by Introducing Science-Based Targets for Supply Chain Finance Program」
【参照記事】*2 ウォルマート「project Gigaton」
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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